なぜ、 いまこんなに“テーマ“が好まれるのか。 それは、 人々は物語を通して自分を取り囲む「世界」を理解しようとするのだが、 いまは「世界」理解のモデルとしての物語を喪失している時代であるからと考えられる。
物語をつくるためには物語文法が必要で、 物語文法は主題(テーマ)を中心に、 登場人物、 場所、 時間、 趣向でもって構成される。 物語文法に沿ってつくられたテーマパークやテーマレストラン、 テーマショップは数少なく、 せいぜいデザイン・モチーフとしてテーマを利用しているにすぎないものが多い。 手塚治虫や宮崎駿の「世界」がテーマパークづくりでいつもとりあげられるのは、 彼らの「世界」の魅力と物語文法の構成の魅力が大きいからである。
ところで、 テーマパークづくりでは、 宇宙、 深海、 地底、 過去、 未来などがとりあげられることが多い。 こうした場所、 時間、 趣向は造形などを使って3次元で表現するのは難しく、 お金もかかるし、 メンテやリニューアルも大変だが、 電子技術を利用すると容易く表現することができる。 そのうえ、 VR技術が付加されれば、 まさに鬼に金棒、 どんなテーマだろうが、 どんな場所、 時間、 趣向であろうが物語をつくることができる。 それでは、 そんな物語を個人で楽しむことができるようになれば、 人々はテーマパークへは行かなくなるのだろうか。
フランスの社会学者R。 ジラールは、 小説や物語の作中人物間の関係や状況を「欲望の模倣性」の観点から追求し、 「人は他者の欲望を模倣して欲望する」と考えた。 そこでは「他者」「欲望対象物」「私」の三角形がつくられ、 「他者」と「私」の間に<視線>がとりかわされる。 この欲望の三角形が集客構造のモデルではないかと考えるが、 さて、 仮想世界でも「他者」が存在し、 この欲望の三角形は成立するのだろうか。
■都市とメディアの関係はたいへん興味深い。
メディアには集客メディアと分散(非集客)メディアがあって、 メディアの進化は分散化を促進する。 そして、 メディアによる分散化は、 メディアの種類とメディアの形態の両面の進化過程に見られる。
メディアの種類の進化を見ると、 新聞や雑誌などの印刷媒体は集客メディアで、 ラジオ、 テレビなどは集客から分散への過渡的メディアであり、 インターネットなどは分散メディアと言えよう。 テレビの旅番組を見て旅行したくなるのは、 テレビが「誘発」して「集客」するのだが、 旅番組を見てすっかり旅行気分を味わって満足するのは、 テレビが旅を「代替」して疑似体験させてくれるからで、 「分散」のケースである。 子供がテレビを見てディズニーランドへ行きたいとせがむのは「集客」だが、 放課後公園で遊ぶよりテレビを見て過ごすのは「分散」である。 将来、 テレビにVR技術が使われるようになると、 「テレビ旅行」や「テレビ遊園地」を楽しむ人が増えるだろう。
メディアの形態の進化は、 コンピュータの分散システムに至る技術の発展過程を見ればよくわかるし、 電話も交換手のいる集中システムから今や携帯電話にまで発展した。 一般的にメディアの形態の進化は、 業務用→家庭用→個人用といった技術的発展過程を経るが、 電話はそうした典型例である。 将来「携帯テレビ電話」を各人が持つようになれば、 人は会うことも集まることもしなくなるのだろうか。 「恋人と会うこともなくなるなんて冗談じゃない」と言ってみても、 すでにホリプロはバーチャルアイドル伊達杏子をデビューさせているくらいだから、 「携帯テレビ電話」で仮想世界を楽しめるようになれば、 VRデートやVRセックスも楽しめるかもしれない。
メディアが進化すれば、 人は「集まらない」のか。 やはり「集まる」と思うが、 なぜ「集まる」のか分からない。 この答を見つければ、 集客産業の救世主になれるだろう。 群衆論を書いたE. カネッティでさえ、 人はどのようなとき群衆となるかを分析しているが、 「なぜ」集まるのかについては明快でない。 凡愚な私には、 人類500万年の長い歴史のなかで、 499万年にわたる長い狩猟・採集社会での「共同」の記憶が、 人間の遺伝子のなかに刷り込まれているからではないかと、 答にもならず、 集客産業の救世主どころか迷える子羊のままでいざるをえないようなことしか思いつかない。
問題提起2
仮想世界に人は集まるか?
阪南大学 貴多野乃武次
■テーマパークは思わしくないが、 集客施設は“テーマ”が好きなようで、 テーマレストラン、 テーマショップ、 そしてテーマタウンまで生まれかねない状況である。
−−略歴−−
1944年大阪府生まれ、 1966年北海道大学経済学部卒、 同年阪急電鉄(株)入社
主に企業や自治体のレジャー・スポーツ施設、 公園、 博覧会など集客事業の計画策定と運営に携わってきた。 1997年阪急電鉄退職。 同年阪南大学大学教育研究所特別研究員、 1998年4月阪南大学国際コミュニケーション学部国際観光学科教授に就任予定
主な著書:『遊園地のマーケティング』(遊時創造)『集客のプランニング・ランゲージ』(遊時創造)『レジャー・スポーツ サービス論』(建帛社)