事例から見た大地との関わり方
八王子みなみ野シティ事業の見直し計画案/1986-90
図7 八王子みなみ野シティ |
ここは、 東京都の環境アセスメント適用第1号で、 都市計画からアセスメントの手続きまで全て終わっていましたが、 事業構造上の問題があって容易に立ち上げができないという事情があり、 それを改善するための検討をおこなったものです。
この絵は、 その結果である最新のマスタープランで、 水の軸と自然系の軸、 ニュータウン軸と地域軸を、 五山五丘三渓一流という言葉で表現しています。
図8 1987年の変更前(左)、 1987年の変更後(右) |
そんな反映から、 みどりを街中に堂々と持ち込もうとしたのが図8(右)の当時の変更案です。
みどりの系を街中に持ち込むとともに、 全体の事業構造を大幅に改善しています。 また、 意図的に小山を作り出しましたから、 それらが今では五山五丘三渓一流と呼ばれているわけです。
図9 T新都市開発整備構想素案・土地利用面積計画図 |
ここには大きな谷地形があって、都市構造をどうやって作り出すのか、ということを検討したものです。この谷地形を中心に周辺の住宅地に色々な系がネットワークしていくというプランです。ここでは造成上できてくる法面も、いつか昔の自然の地形のような植生を復元できるのではないかと期待して、ラウンディング手法も使っています。
それから、私のプランの特徴ですが、必ず“外との連携”ということを重要視しています。この場合は東側に既存集落があるのですが、そういったところと日常生活面での連携を取ろうという考え方をしています。
ここには、 土地造成上の多彩な工夫が織り込まれています。 非常に急峻な地形で、 何もこんなところでニュータウン開発をしなくてもいいんじゃないかというようなところでしたが、 この都市にとっては、 この山地が屏風のように市街地の成長を遮っているので、 多少無理をしても開発したいということでしたから、 土地造成上は橋やトンネルなどアクロバットな要素がたくさん発生しています。
図10 作業の最初の頃に描く1/2,500のスケールでのエスキース |
私は現況保存するところにものすごく手間をかけて表現しておりますが、 これが仕事のスタイルです。 現況保存する等高線は“点線”で描きますから、 実線で描く造成する等高線よりも遙かに手間がかかります。 そこに残るであろう植生や文化財などを確認しながら、 尾根筋や谷筋などの分水・集水域を既存地域の中に落とし込んでいくということを、 最初のエスキースの段階からおこなっています。
ここは地形が急峻で、 曲がりくねった道が一本通っていただけでしたが、 それを、 造成範囲が拡がらないように拡幅し、 一部でトンネルをくぐりながら周回道路が通っているという形にしています。 宅地開発の世界では、 こういった大仰な形がとられるのは、 きわめて珍しいことです。
図11 T駅前通り延伸構想 |
図12 H新都心開発整備事業の土地利用計画 |
図13 基本構想素案(造成イメージ) |
その場所を、 自由に検討していただきたいというところから検討したものです。
先ほどの現況図に対して、 図13は新しい展開の可能性を自由に検討したものです。
元々は河岸段丘のような地形でしたので、 本地区の8割以上が現況保存でき、 デベロッパーサイドの試算では二百数十億の事業費がかかるということでしたが、 これによって約2/3の百七、 八十億まで事業費が減るという効果が出ています。
結果的には、 既に都市計画決定していることを意識し、 この最善案を使うということにはなりませんでしたが、 上手にやればそうなるということで、 こういった検討から得られたものは公団にとっても大きかったようです。
図14 自然地形尊重型戸建住宅地基本設計(三好ヶ丘) |
そこで、 造成が少な目あるいは少し造成を省きながら行うというレベルで提案したものです。
現況をしっかり見据えて、 僅かなみどりも大事にしているマスタープランです。
図15 第15回まちづくり設計競技建設大臣賞受賞作品 |
図16 第15回まちづくり設計競技建設大臣賞受賞作品(模型) |
図16のように見ますと、 現況のみどりが少しでも残ることによって、 その土地が今までに育んできた地域の文化や自然環境の継承が可能になることがお分かりいただけると思います。
最近では、 宅地開発しても全ての土地に建物が建つわけではありません。 そういったところが荒地になるよりも、 タケノコがとれたり、 木陰を提供したりと、 意味ある空き地として残る方が好ましいのではないのかと考えております。
私達の提案は、 そういったところが評価を受けたのではないかと思っております。