大地への取組み
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自然と向き合う−今田町の家

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今田町の家・模型 2本の柱で浮いている感じが良くわかる
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今田町の家・模型 小さな沢を跨いでいる
改行マーク最近竣工した『今田町の家』は、 別荘でも何でもない普通の家ですが、 「林間に浮かす」ことを意識して作ったものです。 緑の林の中ですので、 空中緑間住宅と言っています。 敷地は、 「こんな場所に家が建てられるのか」というほど急な傾斜地で、 フラットな所が全くない場所です。 そこで、 斜面に2本の柱を建て、 その上にステージを造り、 住宅を載せています。 先ほどから出ている“浮いた建築”ですが、 これは、 大地の連続性を失いたくないために、 大地をできるだけいじりたくなかったために、 浮かすという方法をとったのです。


大きな機械力に頼らない

改行マーク「土をできるだけいじりたくない」つまり、 「大きな機械を林間にいれたくない」「巨大なエネルギーは林間には入れない」と言うことで、 施工方法が問題になります。 手作業の延長のような形で何とか2本のコンクリートの柱を打設し、 あとは、 道路からクレーンで樹林をまたいで鉄骨のステージを作ったのです。

改行マーク道路から多少補助的に小さな機械を入れることはあったとしても、 巨大な機械エネルギー、 人間の力を越えたエネルギーは樹林に入れない。 侵入させないと言うためにも、 浮かす事が意味を持ったのです。 ステージの上の住宅は、 国産の木をプレカットしたもので組み上げています。 やはりクレーンで、 ステージの上につり上げ、 組み立てていったのです。 厚さ8センチの無垢の材を壁として、 柱と柱の間に溝を掘って落とし込んでいく、 そんな方法で出来ています。 いわゆる内外の仕上げはなく、 生地のままです。 先ほどお話したような場所ですから、 コンターののった地図などはなく、 自分たちで測り、 コンター図を描いて、 それをもとに模型を作り、 建てる場所を考えました。

改行マークこういった作業は、 大地とつきあうのにとても重要なことです。 人間のスケールでみる視点、 どちらかというと、 近代的な技術の粋を集めるというのではなく、 その少し手前でとめる行為。 その心が、 大地と人間のつき合い方なのではないかと思っています。 そうは言っても、 木材のプレカットという技術は、 近代のなせる技なのですが、 人間の心が介在し、 共同作業のような技であるというところに、 人間と道具のつきあい方のレベルがあるのです。

改行マークモンゴルのゲルの持つ、 弾力性に富んでいて柔らかい感じ。 タルキが2、 3本欠けても平気だというくらいの懐の深さ。 それがまさに、 大地や自然とのつきあい方のように思います。 弛みというかそういう意味の遊びが必要なのでしょう。 吊り橋でも、 何となくワイヤーがたわんでいるとほっとするのですが、 それと似た感じではないでしょうか。


自然を感じる

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今田町の家・周辺模型 周辺の山々まで入った模型で検討する
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今田町の家 緑の中に埋め込まれたように見える
改行マーク現地には何度も立ち、 自然の変化を見ることが重要です。 冬には葉が落ちて、 夏には葉が覆い茂る。 そのときに山がどう見えるか、 実際にそこに立ったときに解るということがたくさんあります。 また、 周辺の山々の稜線を越えたぐらいのところまで入った模型も作りました。 四季を通して、 陽がどういうふうに昇り、 影がどういうふうに変化するのかを想像することが出来ます。 そういうことを考えながら、 自然の変化が楽しめる場所を決めていくのです。 キッチンをどこに作るかということは、 単に便利な場所に作るわけではないのです。 登る朝陽を浴びながら、 朝食を作り、 それを食する。 朝の景色はどこが一番良いか。 午前の日差しを浴びながら風呂に入るためには、 どこが最適か。 そうすれば屋根はガラスにしよう。 等といったことを考えながら、 総合的に決めていくのです。 かっこよく言えば、 自然の教えに導かれて、 決まっていくのです。 便利だからということだけで決まっていくのではないのです。 だから、 「場所」が重要なのです。 「場所」なくして、 建築は出来ないのです。 自然の流れや、 人間の感じ方を大事にしながら、 作っていく。 あるいは、 出来ていくのです。 こうして、 毎日の生活の中でさまざまな発見があり、 その結果、 毎日の生活に起伏が与えられるという、 自然との対話空間が生まれるのです。

改行マーク自然の変化を感じられる空間は、 生活に起伏を与えます。 人間の起伏と自然の起伏のずれが増幅作用を起こし、 生きていることへの喜びになると私は考えています。 くり返しになりますが、 大地や大地の起伏と建築とのつき合い方は、 物理的なこともあるでしょうが、 とにかく、 「どこにどう建てるのか、 どんな敷地を選ぶのか」というところが、 まず、 重要なのだということです。

改行マーク田舎に行くと、 ポツーンと田んぼの脇に建っているくずれかかったような掘っ立小屋に、 しばしば感動します。 その光景は、 心に訴えるものがあります。 この掘っ立小屋は、 実に素直に大地と応答した結果、 あんなにも感動的な建物になったのです。 風景の中の掘っ立小屋は、 実にいろいろなことを表現しています。 まさに、 大地とうまく応答している建築なのです。

改行マークよく言われるプレハブ住宅の環境の平坦化、 均質化も、 プレハブ住宅それ自体の問題もさることながら、 この「場所との応答の無さ」が原因なのではないでしょうか。

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今田町の家 空中緑間住宅 今田町の家 空中に浮いたテラス 今田町の家 南北に風は通り抜ける
 

改行マーク今田町の家は、 道路が家の下の方を通っているため、 道路からは、 その上に家があるとはほとんど気付きません。 もちろん、 家の中からは、 道路は見えないし、 雲の上に住んでいるような感じです。 もちろん、 遠くからは、 浮いているということもまったくわからないのです。

改行マーク寒い朝には、 田んぼや樹林の一面に霜が降りて、 真っ白な風景になるそうです。

陽が昇るにつれて、 霜がとけて湯気になり、 かげろうのように上昇して、 本当に幻想的な景色になると、 先日、 施主からもらった手紙に書かれていました。 僕も、 一度見てみたいと思っています。


場所を選ぶ

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大山溝口の山荘 細長い敷地に建つ
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大山溝口の山荘 北側に谷を眺める
改行マーク『溝口の山荘』は、 大山のふもとに建てた小さな山荘です。 小さく分割された分譲別荘地のはずれにあります。 もともと施主が持っていたのは、 この分譲別荘地のど真ん中の、 木一本残っていない平坦な敷地でした。 そこにログハウスで別荘小屋をつくりたいのだが、 一度図面を見て欲しいというのが始まりだったのです。 確かに、 そんな場所では、 周りの環境を享受するというよりは、 インテリアが無垢の木であるという雰囲気に、 別荘の非日常性を求めるしかないのでしょう。

改行マークしかし、 それだけではおもしろくないと思い、 これから伐採する予定の他の敷地の木を移植してもらえないかと、 分譲事業主にかけあったところ、 この売れ残った敷地を紹介され、 こことなら交換しても良いということになったのです。 北側に谷を望む細長い崖の上の小さな敷地でした。 聞けば、 崖も一部は敷地に含まれているとのことでした。

そういう、 いわば建てにくい敷地だったので、 売れ残っていたのです。

改行マークしかし、 谷を挟む景色を活かせば、 すばらしい借景の家が出来そうだったし、 夏に谷から吹き上がってくるだろう冷たい風は、 きっと、 とても気持ちの良いものだと思われました。 まして、 静寂の中に聞こえるせせらぎの音など、 とても都会では得られない環境です。 こういったことを施主に話して、 喜んでこの場所と交換してもらったのです。 出来上がった山荘は、 予想通りの気持ちの良いものとなったのでした。

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今田町の家 太陽の日差しと樹の影が建物にふりそそぐ
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今田町の家 ガラス屋根の浴室
改行マーク先ほどの『今田町の家』は、 お風呂の屋根がガラスでできておりますので、 そのガラスの部分から朝日が射し込むのです。 ガラスの上に落ちて積もった落ち葉の影が、 風呂の湯にユラユラと写り込むのです。 施主は、 起きるとすぐに朝風呂を浴び、 風呂からあがって、 しばらく素っ裸でいるのがとても気持ち良いと言っています。 空中の緑間住宅ならではの暮らし方です。 施主の仕事場は阪神間ですから、 車で1時間ちょっとですが、 その間の風景も、 四季折々なかなかのものです。

改行マークこの家は、 ウッディータウン、 フラワータウン、 カルチャータウンといったニュータウンのはずれでもあり、 40戸ぐらいの既存集落のはずれでもあるのです。 つまり、 あいだ(間)ということなのですが・・・。 施主は、 ニュータウンのスポーツクラブで泳いだりしていますし、 建設途中に仲良くなった集落のひとたちからもらったものを食したりもしているのです。 つまり、 ここには、 既存集落の人もニュータウンの人も遊びに来る。 そういう環境が出来ています。 「端というのは、 中心である」と福田アジオ先生はおっしゃいましたが、 たしかに、 端は中心だという気がしますね。

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