ワークショップの結果を申し上げますと、 公園づくりには2つの案が出ました。 岡本地区のまちづくりでも2つの案が出ています。 六甲道の再開発については絵を作るのではなく、 都市計画の制度を住民がどのように解決していけるかという論点で議論をしました。
公園については、 イメージを図柄で表しています。 まちづくりは、 まち全体のイメージをどうしようかという話に伴って具体的な整備の場所がクローズアップされたり、 まちのイメージの発信場所について議論が進みました。 再開発は制度と住民参加について言葉で論議したという次第です。
それぞれのグループを見ていますと、 公園というテーマが一番人気がありワークショップ参加者は20人ぐらい。 次に人気があったのは岡本のまちづくりグループで15、6人。 再開発グループは10人弱といった次第です。 この別れ方もリアリティがあって面白いですね。
つまり、 公園の話は分かりやすいということでしょう。 どうすればいいのか、 何をすればいいのかのイメージを身近に持ちやすいのです。 住民参加を考えた場合、 人びとを誘う力を持ったテーマが必要だと思うし、 今日のグループの分かれ方にもそれが出たと思います。 逆に再開発というテーマは、 そうした「誘う力」があるかどうかは難しい。 再開発のテーマを担当された方も苦労されていたようです。
やはり、 参加を誘うものはテーマによって随分違うのだと痛感いたしました。 午前中に丸茂先生が「市民がデザインに関わって行くための条件があるのではないか」というお話をされましたが、 私もそういう立場で考えていくべきだろうと思うのです。 アレキザンダーは「等身大の小さなビジョンがユーザーの参加意識を進める上で必要である」と述べていますが、 市民の参加を誘うために想像力をかき立てるような仕組みが必要だと思います。
ここまでの作業で、 予定の3時間のうち半分を使ったのですが、 残り半分は具体的な絵を描いてみるという段取りで進められました。 大変に精力的な仕事をされたと思います。 実際の公園づくりでは、 イベント型の公園と日常的な生活型の公園をミックスした形が出来上がっていくのでしょうが、 このワークショップのようにはっきりと目標を設定して形作る作業は、 非常に良いことだと思うのです。 それをどう合体させるかはこれからのテーマになりますが、 デザインの方法としてもけっこういけるのではないかと思いました。
もうひとつの岡本以外の住人が出した案は「サラダボールのイメージの街」です。 これは住人ではない人が作った案らしく、 イメージが先行していますが面白い提案でした。 参加した人からは「住んでないからどうしてもイメージが先行して大味になる」という感想もありましたが、 そういう見方も実際には必要になると思うのです。 つまり、 やや生活を離れた立場から街を見るという視点です。 そういう立場と実際にその街で暮らしている見方がうまくミックスされて、 街のよいイメージができていくのだろうと思います。
私が面白いと思ったのは、 「住民参加のデザインは稚拙である」という議論を進めていたとき、 ある参加者が「しかし、 高層住宅のプロジェクトで地域住民が参加するのは無理だが、 公園づくりだったら住民は意見を言いたくなる」と述べたことです。 これは先ほど言いましたように「等身大のビジョン」とつながる話ですし、 今回のワークショップにおける公園人気ともつながる話です。 ですから住民参加を促す方法のひとつの傾向が見えたように思います。
加藤周一という人が「現代の基本的な問題は2つある」という話をしています。 問題の一つは「大衆の進出」で、 もう一つは「技術文明や大量生産、 生活の機械化が、 人々の精神や文化に危機をもたらしている」としています。 後者については我々の言葉で言うなら「機能主義」ですが、 建築の世界では「ポストモダン」という流れで問題が矮小化されているきらいがあります。 機能主義をどう見るかは大事な問題だと思います。
住民参加も「大衆の進出」が我々の世界にも及んでいるということであって止めようがないテーマだと思います。 このことが機能主義のもつ問題や危機を解きほぐすという大きな働きをするのではないか、 と感じています。 そういう状況の中で何かを言うとすれば、 大衆の時代とは情報が開放されることであり、 大衆が公的な場面につながるということでしょう。 これまでは情報は極めて狭い範囲にしか届きませんでした。 情報を占有する人が権力であり、 地元のボスが情報を握ってその指揮下で街が出来上がってくるという仕組みでした。 それを大きく変えるのが、 住民参加の状況です。 状況を大きく変えるストーリーが出てきているというのが私のひとつの認識です。
もう一つ感じたことを述べます。 今日のワークショップの中でも対象の地域をどうやって知るかに力を入れて議論されていましたが、 地域を知るということはそこにどんな問題があるかを知ることにつながります。 しかし、 問題だけを取り上げるのではなく地域全体のいろんな要素の関係の中で確認する、 つまり地域の中では問題がどう位置づけられているかという視点が求められると思います。 それが地域を知ることになると思うのですが、 これはきっと知恵の力と言えるのかもしれません。 つまり、 情報の使い方ですね。 情報と知恵の両方がうまく絡まないと、 いい仕組みにならない。 まちづくりを展開する上で、 知恵を上手に出していく仕組みが必要です。 そうした知恵は誰が持っているかというと、 やはり住んでいる人でしょう。
ですから、 住民参加の時代のまちづくりの有り様としては、 情報の開示と人々の持つ知恵を引き出してガイド化していく、 活用化していく仕組みをどんどん作っていくことだというのが私の結論です。 そういう場面でお手伝いをしていくのが、 我々専門家の役割だろうということを締めくくりの言葉といたします。