参加型デザインの実践
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参加型デザインの実験(ワークショップ)を聞いて

田端修(住環境学研究所)

ワークショップを終えて

改行マークこのセッションでは参加型デザインについてのワークショップを3つのグループに分けて行いました。 公園づくり、 岡本地区のまちづくり、 六甲道南地区の再開発の3つです。 大部屋で3つのグループに分かれて行なったのですが、 どのグループも大変な熱気で、 私も参加しているうちに段々と興奮してきたのですが、 参加されたみなさんもきっとテンションが上がっていたと思います。

改行マークワークショップの結果を申し上げますと、 公園づくりには2つの案が出ました。 岡本地区のまちづくりでも2つの案が出ています。 六甲道の再開発については絵を作るのではなく、 都市計画の制度を住民がどのように解決していけるかという論点で議論をしました。

改行マーク公園については、 イメージを図柄で表しています。 まちづくりは、 まち全体のイメージをどうしようかという話に伴って具体的な整備の場所がクローズアップされたり、 まちのイメージの発信場所について議論が進みました。 再開発は制度と住民参加について言葉で論議したという次第です。

改行マークそれぞれのグループを見ていますと、 公園というテーマが一番人気がありワークショップ参加者は20人ぐらい。 次に人気があったのは岡本のまちづくりグループで15、6人。 再開発グループは10人弱といった次第です。 この別れ方もリアリティがあって面白いですね。

改行マークつまり、 公園の話は分かりやすいということでしょう。 どうすればいいのか、 何をすればいいのかのイメージを身近に持ちやすいのです。 住民参加を考えた場合、 人びとを誘う力を持ったテーマが必要だと思うし、 今日のグループの分かれ方にもそれが出たと思います。 逆に再開発というテーマは、 そうした「誘う力」があるかどうかは難しい。 再開発のテーマを担当された方も苦労されていたようです。

改行マークやはり、 参加を誘うものはテーマによって随分違うのだと痛感いたしました。 午前中に丸茂先生が「市民がデザインに関わって行くための条件があるのではないか」というお話をされましたが、 私もそういう立場で考えていくべきだろうと思うのです。 アレキザンダーは「等身大の小さなビジョンがユーザーの参加意識を進める上で必要である」と述べていますが、 市民の参加を誘うために想像力をかき立てるような仕組みが必要だと思います。


ワークショップの進め方

改行マークここで、 それぞれのワークショップがどのように進められたかを紹介いたします。

公園づくり

改行マーク公園づくりは、 まず公園に来る人のキャラクターを設定しようということになり、 子供であれば何歳なのかをそれぞれ設定し、 大人は未婚かどうか、 お年寄り、 商店主、 地元の人か外来者なのかを設定して、 自分がそういう人だったらというロールプレイング方式で作業をしていました。 その結果、 2つの大きなグループに分かれました。 一つは若者や活動的な人のためのハレの舞台としての公園です。 もう一つは、 主として高齢者を対象として公園です。 前者はイベント型の公園、 後者はしみじみ生活型の公園(なかなかいい名前ですね)ということになりました。 作業の中ではビオトープという話も出ましたが、 それはしみじみ生活型公園の方にプラスされました。

改行マークここまでの作業で、 予定の3時間のうち半分を使ったのですが、 残り半分は具体的な絵を描いてみるという段取りで進められました。 大変に精力的な仕事をされたと思います。 実際の公園づくりでは、 イベント型の公園と日常的な生活型の公園をミックスした形が出来上がっていくのでしょうが、 このワークショップのようにはっきりと目標を設定して形作る作業は、 非常に良いことだと思うのです。 それをどう合体させるかはこれからのテーマになりますが、 デザインの方法としてもけっこういけるのではないかと思いました。

まちづくり

改行マーク岡本地区まちづくりの進め方では、 古くから岡本に住んでいる人とそれ以外の人とがほぼ同数でしたので、 それぞれに分かれてまちのイメージを作っていこうという作業になりました。 結果的に2つの案が出ましたが、 ひとつは岡本の住人グループが出した「岡本は誰でもが歩ける街」というイメージです。 具体的な案としては海が見える場所を作りたい、 電線の地中化、 オープンスペースを作るなどです。

改行マークもうひとつの岡本以外の住人が出した案は「サラダボールのイメージの街」です。 これは住人ではない人が作った案らしく、 イメージが先行していますが面白い提案でした。 参加した人からは「住んでないからどうしてもイメージが先行して大味になる」という感想もありましたが、 そういう見方も実際には必要になると思うのです。 つまり、 やや生活を離れた立場から街を見るという視点です。 そういう立場と実際にその街で暮らしている見方がうまくミックスされて、 街のよいイメージができていくのだろうと思います。

再開発

改行マーク再開発グループの進め方についてはかいつまんで説明するのが難しいのですが、 話を聞いていて再開発手法を住民や権利者に分かってもらう役割をワークショップが持っているのではないかと感じました。 まず問題をいくつか設定します。 例えば、 再開発は私権に関わるプライベートな事業なので住民参加は無理だという考え方があり、 それについてどう思うかという問題を設定し、 議論する。 あるいは事業手法が決定した後で住民参加をするのは意味がないのではないかという問題について話し合う。 また住民参加はデザインの技術が稚拙だという意見を投げかけたらどんな反応があるかなど。 そういう議論をとりまとめながら進みました。

改行マーク私が面白いと思ったのは、 「住民参加のデザインは稚拙である」という議論を進めていたとき、 ある参加者が「しかし、 高層住宅のプロジェクトで地域住民が参加するのは無理だが、 公園づくりだったら住民は意見を言いたくなる」と述べたことです。 これは先ほど言いましたように「等身大のビジョン」とつながる話ですし、 今回のワークショップにおける公園人気ともつながる話です。 ですから住民参加を促す方法のひとつの傾向が見えたように思います。


まとめ

改行マーク午前中の話で気になったことは、 吉田さんの言われた「住民参加のデザインは時代の潮流」という言葉です。 つまり、 住民参加とは単なる流行で、 そのうち終わるということでしょうか。 私はそうではないだろうという気がしています。

改行マーク加藤周一という人が「現代の基本的な問題は2つある」という話をしています。 問題の一つは「大衆の進出」で、 もう一つは「技術文明や大量生産、 生活の機械化が、 人々の精神や文化に危機をもたらしている」としています。 後者については我々の言葉で言うなら「機能主義」ですが、 建築の世界では「ポストモダン」という流れで問題が矮小化されているきらいがあります。 機能主義をどう見るかは大事な問題だと思います。

改行マーク住民参加も「大衆の進出」が我々の世界にも及んでいるということであって止めようがないテーマだと思います。 このことが機能主義のもつ問題や危機を解きほぐすという大きな働きをするのではないか、 と感じています。 そういう状況の中で何かを言うとすれば、 大衆の時代とは情報が開放されることであり、 大衆が公的な場面につながるということでしょう。 これまでは情報は極めて狭い範囲にしか届きませんでした。 情報を占有する人が権力であり、 地元のボスが情報を握ってその指揮下で街が出来上がってくるという仕組みでした。 それを大きく変えるのが、 住民参加の状況です。 状況を大きく変えるストーリーが出てきているというのが私のひとつの認識です。

改行マークもう一つ感じたことを述べます。 今日のワークショップの中でも対象の地域をどうやって知るかに力を入れて議論されていましたが、 地域を知るということはそこにどんな問題があるかを知ることにつながります。 しかし、 問題だけを取り上げるのではなく地域全体のいろんな要素の関係の中で確認する、 つまり地域の中では問題がどう位置づけられているかという視点が求められると思います。 それが地域を知ることになると思うのですが、 これはきっと知恵の力と言えるのかもしれません。 つまり、 情報の使い方ですね。 情報と知恵の両方がうまく絡まないと、 いい仕組みにならない。 まちづくりを展開する上で、 知恵を上手に出していく仕組みが必要です。 そうした知恵は誰が持っているかというと、 やはり住んでいる人でしょう。

改行マークですから、 住民参加の時代のまちづくりの有り様としては、 情報の開示と人々の持つ知恵を引き出してガイド化していく、 活用化していく仕組みをどんどん作っていくことだというのが私の結論です。 そういう場面でお手伝いをしていくのが、 我々専門家の役割だろうということを締めくくりの言葉といたします。

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