参加型都市環境デザインをさぐる
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住環境学研究所 谷口知弘/京都工芸繊維大学 田端修

まち案内のデザイン

坂越地区サイン整備計画
兵庫県赤穂市

 

1. 専門家チームと地元の関わり方

改行マーク赤穂市の市街地景観形成地区に指定されている坂越地区では、 景観整備施策の一環として数年来〈まち案内〉のサイン整備をすすめてきている。 来訪者に伝統的町並みをはじめ数多い文化・歴史資産などをわかりやすく案内する役割とともに、 住み手がその作成過程に参加することによって自分たちのまちへの愛着・誇りを育てることに役立てたい、 というのが当初からの目的である。

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坂越のまち並みを考える展覧会と原寸モデルを用いた現場検討会
改行マーク既に地元で活動している「坂越のまち並みを創る会」と、 プランニング・歴史・建築・プロダクト・グラフィックの「専門家チーム」、 そして行政担当者が集まるという形で、 共同作業の枠組みを最初に定めた。 具体的にはサイン整備の計画内容を検討する会議のあと、 展覧会・座談会などによりその結果を住民に公開し、 意見交換を行うという公開手順―「情報公開と参加の場」と呼んだ―を年2回の割合で繰り返してきた(写真1)。

改行マーク各分野の専門家が成果を受け渡してゆく分業方式でなく、 チーム全員が公開参加型手順のすべてに出席し、 地元の意向確認や専門家の想いの伝達ができたこと、 つまり〈地元+専門家チーム〉の共同作業方式が、 手前味噌ながら、 いい設計につながっていると考えている。


2. 参加の場が生んだ「かたちと活用」のデザイン

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木戸門跡のシンボリックサイン
改行マーク木戸門跡のシンボリックサイン(町並み形成を進めるシンボルとして整備)は単なる記念碑に終わらないよう完成後の使い方が議論された。 そして祭りの時などにはハレを演出する装置として機能するものということで意見がまとまり、 この方針を軸に提案した専門家チーム案を「参加の場」でみんなで揉み合うなかでデザイン(かたち)が決定した。 完成時には廻船の帆に旧坂越町の町章をあしらったバナーが住民の手でつくられ、 今では船まつりやたこまつり用のもの、 「歓迎」の文字入りのものなど、 何種かのバナーが用意され、 事あるごとに活用され、 風になびいている(写真2)。


3. ゆったりした時間と継続して関わるチャンス

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記名・学習サインのプロトタイプ(左から船タイプ、 広場タイプ、 大道タイプ)と設置場所にあわせて修正したデザイン
改行マークまち案内の全体計画は約10年間をかける予定でゆっくりと進められている。 このうち、 坂越の子供たちに文化・歴史資産の来歴や魅力を知ってもらうことを目的とする「記名・学習サイン」整備がある(写真3)。 毎年5基前後を設置するというスケジュールが公開参加型の方式にフィットしているようである。 説明文の検討に加え、 場所ごとの条件にあったデザインへの修正が、 このなかで可能となった。 継続してこの作業に参画している専門家チームとしては、 完成後の利用状況を確認し、 次の作業に活かし、 もっといいデザインにしていくための考え方を探ることができるのも有り難い。 参加型のデザインには、 ゆっくりした時間が必要であるといえよう。

改行マークなお、 この「坂越地区記名・学習サイン」は平成10年の「第6回さわやか街づくり賞(シングル・サイン部門)」(兵庫県)を受賞している。

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