昨年(1998)秋、 大津市々制100周年記念事業の市民提案イベントとして市内の商店街で開かれた美術展「アーケードアーツin中町」に参加した私は、 出品作の等身大の群像をめぐる商店街の人たちの対応に、 主体的な市民参加の大切さとおもしろさを見た。
像は「ヴォワイアン」。 フランス語で「見る人」のとおり、 これは“見られる”よりも像自体が“見る”もので、 600メートルの商店街に65体の黄色いヴォワイアンたちが、 まちや往来する人たちを眺めることになる。
各店舗に置いてもらうというのではなく、 お店の人が自ら預かる気持ちが望ましいため、 私は事前に商店街の例会の席で同作品の主旨を説明し、 各自治会が展示希望の店舗を募ったところ、 すべての“ヴォワイアンのホーム(ストア?)スティ”先が決まった。 また会期中に始まる大津祭の伝統ある法被がこのために貸し出されることになったが、 私自身ヴォワイアンたちがどの店に置かれるのかは、 開会の前日まで知らなかった。
というのも当初からこの『中町のヴォワイアン』は、 商店街の人たちとのコラボレーション(共同制作)と考えていたからだ。
そして始まってみたら、 果物店の像は手にメロンを持ち、 時計店では腕時計をはめているなど各店のさまざまな“表現参加”があったことは私の予想外であり、 このような創造的な誘発によって地域のコミュニティもまた“つくり手”となりうることを実感したのだった。 まちづくりにおいても、 住み手がときにつくり手となるきっかけづくりや、 その進め方の可能性についてもっと考えられていいのかもしれない。
※同催については10月中旬、 東方出版から出る「商店街と現代アート―大津中町の試み」に詳しい。
造形作家 今井祝雄
ヴォワイアンが見たアートへの地域参加
アーケードアーツ in 中町
大津市
商店街事務所で行われた主旨説明会(撮影/石川亮)
各店頭に並んだヴォワイアンたち(撮影/生田恵子)
同じ像でも各商店の特色ある“表現”が加わった(撮影/生田恵子)
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