夏の奈良には春日大社の中元万灯籠、 東大寺の万燈供養会、 高円山の大文字送り火といった光のページェントがあるが、 今年から新たに「なら燈花会(とうかえ)」が加わった。 燈花会は、 奈良公園一帯の4つのゾーンを約6,000本の蝋燭の灯りを使って彩るもので、 初回の今年は8月6日から14日までの9日間にわたって繰り広げられた。 この催しは、 奈良青年会議所などの民間団体に県・市が加わった「なら夏のイベント推進委員会」が企画したもので、 観光客が減る夏の奈良の魅力を高めようというねらいを持っている。 県の調べでは期間中に約17万人が蝋燭の光を楽しんだといい、 奈良の新しい夏の風物詩として定着しそうである。
燈花会は、 県内外から集まった多数のボランティアによって支えられたという点で、 参加型都市環境デザインの新しい形ではないかと思う。 多くの人手が必要な理由は、 毎日6,000本の蝋燭を野外にセットし、 19時に一斉に点火し、 22時までの3時間の間、 倒れたり消えてしまう蝋燭を再点火する必要があるからである。 新聞などを通じた公募によって、 県内外から642人のボランティアが集まり、 雨のため中止になった15日を除く9日間に、 延べ721人が行事に参加した。 期間中は、 いろいろと予期せぬ事態も起こったようである。 なかでも「鹿の妨害」が最大のハプニングだったようだ。 夕方から水を張った器にセットした蝋燭を並べていくのだが、 奈良の鹿がその水を飲もうと集まってきて、 鼻を使って灯具をどんどん倒してしまう。 その鹿追いに人手を多くとられたという。
燈花会はよく見られる観光のための行事なのだが、 奈良という土地に特別の関係を持っているわけではない人々がこの10日間のために集まって、 光のイベントに取り組んだ。 地縁や血縁で支えられるイベントではない。 新興市街地でのまちづくりイベントでもない。 情報ネットワークの糸をたどって縁もゆかりもない人々が古都に集まり、 協力して夜の奈良を演出する。 新しい都市環境の作り方、 捉え方のヒントを含んでいるように感じる。
(株)アーバンスタディ研究所 土橋正彦
ボランティアが灯すろうそくの火
燈花会
奈良県奈良市
4000本の蝋燭が灯された飛鳥野ゾーン。
鷺池の様子。 池の上のボートにも提灯がかけられている。
アマチュア・カメラマンが、 日の高いうちからカメラの放列を作った。
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