参加型都市環境デザインをさぐる
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ゆう環境デザイン計画 祐乗坊 進
多摩の里の炭焼き窯づくり
多摩市域市民活動活性化事業 東京都多摩市 |
環境をデザインするとは、 空間的なまとまりや形態的な美しさだけでなく、 人と場と自然との関係式を形に表したものであると考えている。 これは住都公団の多摩ニュータウン事業30周年記念の一環としてその考え方を実践した事例である。
■里の生活文化体験の場づくり
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里の体験活動シンボルとなっている炭焼き窯
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炭焼き窯は市内の一本杉公園(地区公園)の一角に作られた。 ここには多摩の里の生活文化体験の場を整備していく構想があったが、 博物館が目玉だったため現在凍結されている。 しかし、 炭焼き窯の完成により、 箱物に頼らない新しい場づくりの方向を示すことになった。 炭焼き窯は、 公園内の古民家、 畑、 雑木林とセットになり、 里の体験活動のシンボル的な存在となっている。
■伝統的な炭焼き窯づくりの技術を伝承する
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子どもも参加しての炭焼き窯づくり
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このプロジェクトには3つのこだわりがあった。 その一つが伝統技術の伝承である。 生業として成立しなくなった炭焼きを、 市民の生活文化として新たに引き継いでいくには、 先人達がストックしてきた伝統技術を多くの人が共有しておく必要がある。 昔ながらの窯づくりの技術を現代の新しい素材を使って伝承する。 古き知恵から新しいものを創造する、 そんな知恵を大切にした。
そのこだわりが市民参加型ながらも最新型の窯を完成させた。 約15俵(225kg)製炭できる本窯で、耐火煉瓦、 セラミックウールなど炭焼き窯にはまだ目新しい素材を使用した。
■参加者の“手垢(アイデンティティ)”を残すデザイン
窯づくりは2日間だけ行事とし、 あとは参加者の意志にまかせる自由参加方式となった。 地域の専門家の指導を受けながらの作業だが、 自分で積んだレンガが少しづつ窯の形になっていく工程を体感することは、 まさに自分のアイデンティティを埋め込む作業である。 窯口正面の玉石の裏側には各自のメッセージが書き込んである。 これも自分達で製作した窯へのアイデンティティを増幅させる仕掛けとなっている。 これが2つ目のこだわりである。
■地元の資材を活かしたデザイン
炭焼き窯は本来炭を焼く場所で採れる粘土や石を使って築窯する。 だから窯のデザインは全国各地様々である。 それが地域性にもなっている。 できるだけ地元の資材を活かすこと、 これがもう一つのこだわりである。 窯口の化粧積みに多摩川の採石場で拾い集めてきた玉石を、 炭焼き小屋には奥多摩の杉丸太を使用した。 杉丸太は「東京の木で家を作る会」のメンバーの協力を得て入手、 ついでに炭焼き小屋を作れる大工さんも紹介してもらった。
■市民参加型の環境デザインの原点
初窯の火入れには窯づくりの参加者に市長も加わり盛大に行われた。 炭材は公園などの剪定枝を使用しており、 炭焼きが資源循環型の都市デザインの一翼を担っている。 窯づくりの参加者を中心に「一本杉炭やき倶楽部」を結成し、 市民参加型で窯の運営を担える人材も整っている。
このプロジェクトにかけたこだわりが、 単なる公園施設ではなく、 関わる人たちによって様々に展開できる種が蒔かれた場としてデザインすることができた。 これが市民参加型の環境デザインの原点ではないかと思う。
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