参加型都市環境デザインをさぐる
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(株)アーバンスタディ研究所 土橋正彦

子供達の目が川を見つめ、 川を変える

佐保川探検隊(奈良県奈良市)/松尾峡
長野県辰野町

 

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「水辺の楽校」の活動コンセプト
改行マークかつて、 川は魚採りの大人や水遊びする子供達でいっぱいだった。 かくいう私も、 昭和30年代から40年代にかけて、 夏休みともなれば朝から日が暮れるまで時間の過ぎるのを忘れて魚の手づかみに興じたものである。 当時の川は、 ゴミを捨てる人もなく水は清澄で、 三面貼のような護岸もまだ姿を現していなかった。


◇佐保川探検隊

改行マーク佐保川は、 奈良市の北東部から流れ出て市街地を貫き大和川に合流する一級河川で、 平野部の流路は8世紀に平城京造営のため大改修を受けた堀川の面影を残している。 「千鳥鳴く佐保の川門清き瀬を馬うち渡しいづか通はむ(大伴家持)」。

改行マーク御多分に漏れずこの佐保川でも河川改修やゴミ投棄などによる排水路化が進んでいたが、 沿川の小学校、 自治会が中心となって「佐保川水辺の楽校(がっこう)協議会」が組織され、 生活の場としての河川空間を取り戻そうという活動に取り組んでいる。 特に川辺にある佐保川小学校では、 川の生態観察、 水質調査、 スケッチ大会、 歴史学習、 ホタルの飼育・放流といった多彩な催しを行い、 子供を中心にして川を守り、 育てる運動を実践している。 小学生達も「佐保川探検隊」を作って、 川マップづくりや発見したこと・ものの発表会、 川の清掃といった活動を楽しんでいる。

改行マークこうした活動に応え、 河川管理者も身近な水辺空間の再生を目指した河川整備を行っている。 しかし、 家の間を縫って流れるという都市河川の宿命のため、 河川区域を現状より広げるのは困難で、 階段護岸、 人工ワンド、 伝い石といった整備内容にはやや物足りないものがある。 しかし子供達の心に芽生えた川への愛着は、 21世紀には佐保川の姿を一変させているに違いない。 協議会のパンフレットには「昔、 川で遊んだ皆さんへ」という呼びかけが記載されている。 この呼びかけが意味を失うまでに残されている時間は、 あとどのくらいであろうか。


◇ホタルの名所の復活

改行マーク長野県上伊那郡辰野町の天竜川沿いに、 源氏蛍の名所として知られていた松尾峡がある。 農薬汚染や河川改修の影響を受けて、 昭和40年頃から“名が廃る”状況に陥っていたが、 辰野中学校の水棲昆虫クラブ、 辰野高校のホタルクラブが30年以上にわたって熱心にホタルやその生息環境の研究、 飼育・放流活動を続けた。 その成果がやがて行政を動かして、 いまでは、 かつてのホタルの名所が復活している。

改行マーク行政は、 水路や休耕田を利用したホタル公園、 遊歩道などを整備し、 中学生や高校生が、 研究成果をもってその整備を指導するという経過をたどったのである。 ホタルは、 町の重要なアイデンティティとして復活し、 今では昔からのホタル祭り(1週間に20万人を集める)に加えて様々なイベントがホタルを中心に繰り広げられ、 町の活性化に一役買っている。 ハードウェアはほとんど行政が整備したが、 目指すべき生態環境の目標設定に関しては、 アマチュアである中学生や高校生が大きな役割を果たしたのである。

改行マーク子供達の目が川を向けば、 川もその姿を変える。

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