熊取町長池地区は約20年前に開発された住宅団地と田園空間が接する地域である。 平成6年度より、 当地区にある老朽したため池のあり方について、 周辺住民と水利組合、 大阪府、 熊取町が共に考える取り組みに関わってきた。
当地区をはじめとする都市近郊に立地するため池は、 農家の高齢化や後継者不足から維持管理が困難になっており、 農業水利としての役割も低下しつつある。 また、 都市住民は管理が行き届かないため池に対して、 「危険」「汚い」などのマイナスイメージを抱いている一方で、 都市における貴重な緑や水辺空間であるため、 整備への強い要望も持っている。 両者の問題やニーズに対応しながら、 機能面や空間面、 維持管理等しくみの面で、 新しいため池のあり方が求められている。
当地区では、 ため池の整備計画の検討に加えて、 将来的な管理運営主体の形成もめざして、 周辺住民、 水利組合、 町、 府からなる「ため池環境づくりワークショップ(WS)」という検討の場を設け、 平成6年度にはレクチャーや現地調査などを踏まえた構想マップづくり(8回のWS)、 平成7年度には手作り型のマップ発表会や草刈り大会(7回のWS)、 平成8年度には構想マップを踏まえた実施設計の検討や子供向けのPRイベント(16回のWS)を行ってきた。 その結果、 ため池を周回する遊歩道やボードウォーク、 水性植物帯、 体験農園などの整備が決まった。 そして、 平成9年度からは、 検討の場であるWSから住民主体型の組織への移行をめざして、 ため池管理・運営のための準備会組織を立ち上げ、 維持管理の方法や体制、 体験農園の運営などの検討とともに、 PRイベントの継続、 広報誌などの発行を行ってきた。 ちなみに、 管理運営は体験農園の利用料を活用して行うことになる。 そして、 平成11年度には正式な管理組織を設立し、 平成12年度のオープンを目指して活動を継続しているところである。
これまで、 周辺住民、 水利組合がお互いの立場を配慮しながら話し合い、 行動を共にし、 時間をかけてゆっくりと新しいコミュニティをつくってきた。 完成後はため池や体験農園の利用を通じて、 コミュニティの輪がさらに広がることが期待されている。
都市近郊にはため池や水路、 里山、 棚田など存亡の危機にある地域資源も多くなっている。 それらは当然自然環境面での重要性も高く、 保全されるべきであろうが、 実際の保全・活用を継続的に進めるためには、 都市住民と農家が交流する中で、 それらに新しい意味を見出し、 地域の実情にあった新しい仕組みを追求していくことが求められているのではないだろうか。
地域計画建築研究所 原田弘之/堀口浩司
住民と農家による新しいため池環境づくり
熊取町長池地区のため池環境整備・管理運営
大阪府熊取町
ワークショップで構想を検討(平成6年度)
ため池ふれあいマップ発表会(平成7年度)
ため池ふれあいまつり(平成10年度)
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