参加型都市環境デザインをさぐる
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タウンクリエイター/筑波大学 松村みち子
卵の割れない道づくり
あたたかな道づくり検討会 高知市 |
高知市内で事業実施中の道路の一部区間を、 計画の段階から完成まで、 4年の歳月をかけて住民参加で整備した事業。
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試験施工による確認
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完成した道路の全景(信号から向こう側)
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正式な事業名は「あたたかな道づくり検討会」で、 事業が発足した1994年10月当初は「女性たちのロードプラン」という副題が付いていた。 これは、 道づくりに女性の視点を生かそう、 と検討委員を全員女性で構成したことによる。 女性を前面に出したのは、 モノづくりにおいてこれまで人口の半数以上を占めている女性の意見が反映される機会が少なかったことへの反省と、 県の土木技術職員の全員が男性であったので、 あえて女性だけでメンバーを構成してバランスを取ったことによる。 男性たちは準メンバーとして常に裏方として参加した。
そうこうするうち「ことさら女性を強調する必要はないのではないか」と、 副題のほうは2年くらい経つと自然に消えてしまった。 代わりに出てきたのが「卵の割れない道づくり」というキャッチコピーである。 初回の会合で「自転車で買い物にいくと家に着くまでに卵の1個や2個は割れている。 段差やでこぼこの少ない道にしたい」という意見が出て、 半年後の橋本大二郎知事への提言に盛り込んだ。 これが「具体的で生活感覚あふれている」と評判になり、 筆者が各地でPRしたことも加わり、 事業名よりも「卵の割れない道づくり」の方が有名になってしまった。
建設省が採用した PI(パブリック・インボルブメント)方式に先んじた事業としても評価できる事例。
事業の概要
- 対象道路:主要地方道高知南環状線(高知市百石町工区、 道路延長520m)。
- 検討委員:女性8名(土木の技術者3名のほか、 企画会社経営者、 高知県職員、 新聞記者、 主婦な度。座長は筆者)。
- 検討期間:1994年10月〜1998年11月。
- 道路完成:1998年7月。
検討の主な内容と経過
現地踏査、 ワークショップ方式による検討、 模型の作成と景観の検討(シンプルイズ ベストをデザインの基本コンセプトに)、 盲学校へのヒアリング、 シビックデザインの勉強会、 提言書の作成、 ボラードなどへの木材利用に関して高知県工業技術センターとの意見交換、 提言に基づく試験施工と車椅子・ベビーカーなどでの検討、 電線類の地中化について四国電力との学習会。
課題・評価・教訓
- 委員の意見・感覚は住民の総意ではない。 それを補う工夫として、 検討会のすべての過程を公開。 マスコミ報道により出てきた市民からの意見は、 できる かぎり専門家にヒアリングして検討した。
- 行政は技術的・法的に不可能と思ってもすべて前向きに対応し、 「説明責任」もきちんと行なった。
- 納得できる妥協点を見つける努力をした。
- プロセスの共有が質の高い道路空間を育む。
- 周辺住民からも概ね満足との評価を得ている。
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