和歌山県御坊市の島団地は、 昭和34年から44年にかけて建設された226戸の公営・改良住宅であるが、 住民の貧困化、 物的状態の劣化、 コミュニティ機能の停滞等の問題が深刻化していた。
1990年に神戸大学の平山洋介が実態調査を行い、 ケースワーク、 ハウジング、 コミュニティの3つの問題を総合して専門的に扱う、 “オンサイト”かつ“横割り”の行政組織の設置の必要を提言し、 市は1992年には“横割り”の島団地対策室を現地に発足させた。
1993年に我々(現代計画研究所・大阪)が参加し、 ハウジング・プログラムの基本構想がまとまった。 現在の敷地での即地的な建て替えは非常な高密度を結果することから、 近傍に別途の敷地を確保し、 全体として地域の全体環境を高める密度とし、 周辺地域との融合性を意図したボリューム計画、 住棟の分節化、 地域性に配慮した景観計画、 コミュニティ形成に配慮した閉じつつ開く囲み型配置、 共用空間の豊富化、 ワークショップ方式の導入、 といった内容で、 島団地の全体的な問題を解決しながら、 地域の環境形成を図るというものである。
市は、 10年で 240戸を建て替えることとし、 1995年には、 ワークショップ方式にもとづく建て替え事業がはじまった。 1997年末に第1期15戸が、 98年末には第2期30戸が、 そして本年末には第3期13戸が完成し、 ようやく、 街区としてのまとまりをみることになる。
我々の提案は、 すきまやあいまいな領域をできるだけ多く創り出し、 それを環境の骨格として、 住民の生活が表出する立体的な環境が形成されることを狙ったものであり、 分節された住棟間や廊下、 バルコニーはすべて不整形として、 異なる場所を創出させ、 さらに良好な下町的環境を立体的に実現した、 いわば“立体集落”を創り出すために、 南廊下タイプの立体路地を設けている。 2期から3期へと立体街路は北廊下や東廊下、 西廊下とまるで曲がりくねった道のように連続し、 回遊していく。
住民とのワークショップは、 模型を前にして仮想空間を体験し、 議論を重ね、 将来の生活を思い描きながら、 場所と生活にあった独自の住戸プラン、 南廊下型立体路地への緊張、 対話、 同意などに発展していく。
平山はこの過程で、 ワークショップにおける空間の両義性に注目する視点を指摘している。 人々の求める相反する両義性、 両面性、 二重性に対して、 それは対決的な関係ではなく、 同一軸線を共有する同位対置だとし、 説明不能の空間が軸線の中間領域に現れ、 両端の妥協・折衷ではなく、 固有の地帯を発生させ、 論理の仮構を迂回し、 二律背反の緊張を駆動させ、 混濁した均衡を誘い出すとし、 「現代の空間が何らかの危機に直面しているとすれば、 その核心は両義性の緊張に向き合う体力を断念しているところ」だとし、 ワークショップは矛盾、 対立、 反発をひき出し、 両義性、 両面性、 二重性を“可視化”するための空間を形成すると理論化している。
従来の平等・標準の観点からは想像しにくいこの建て替えプロジェクトであるが、 矛盾を孕みながらも生き生きとした生活の表出が親しみのある新しい都市景観を形成していくであろうことは想像に難くない。
現代計画研究所 江川直樹
ワークショップ・ハウジング
島団地再生計画
和歌山県御坊市
ワークショップの様子
3Fレベルの立体路地の風景
3Fレベルの立体路地の風景
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