環境共生型都市デザインの世界
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種族維持に反する変な行動
ハヌマンヤセ猿の場合

ハーレムの乗っ取りと子殺し

 最初の例は、 日本人の杉山先生が報告した「ハヌマンヤセ猿」というインドにいる猿の場合です。

 この猿はハーレムをつくっています。 ハーレムには雌が6、 7頭おり、 一匹ずつ自分の子どもを持っています。

 さて、 その子どもが大きくなると、 雄は雌が欲しくなるので、 まず手近にいる雌である腹違いの妹に迫ります。 しかし妹は嫌がって必ず拒否します。 拒否された雄は他の妹のところに行きますが、 やはり拒否されます。 妹は全部だめだとなると、 残っている雌と言えば自分の母親ですから、 じゃあ母親でがまんしとくかということになるのですが、 そうなるとお父さんが出てきてすごく怒るわけです。 そこでこの若い雄は、 ここにいても女は手に入らないということが解るので、 しばらくして群を出てしまいます。

 群を出た若い雄は他の群を襲い、 そこのハーレムの主と猛烈な闘争をします。 そして元の主を大けがさせて追っ払ってしまい、 ハーレムを乗っ取るわけです。

 さて、 その乗っ取った雄が、 最初に何をするかと言うと、 まず雌たちが抱えている子どもを狙って、 噛みついて大けがをさせるのです。 そうすると不思議なことに、 その母親は大けがをした自分の子どもを放り出してしまいます。 当然その子どもは死にます。 結局雄はそこにいる子どもを全部殺してしまうのです。

 それを見ていた杉山先生は不思議に思いました。 「こんなことをしていたのでは、 ハヌマンヤセ猿の種族は滅びてしまうのではないか。 せっかく育ってきている子ども達を何で殺したのか」というわけです。 ここで、 考えられることは人口調節をやっているのではないかということです。 今は人間でも人口増加が大問題になっていますが、 自然界でもあまり増えすぎてはいけないのです。 だから、 その雄猿はハヌマンヤセ猿がどうもこの辺で増えすぎているから、 子どもを殺して、 人口調節をし、 種族を維持しようとしているんだろうと思ったそうです。

子殺しの目的は

 ところがしばらくしますと、 子どもを殺された雌猿が発情して、 新しい雄を受け入れてしまうんです。 それまでは雄が迫っても、 雌は怒って絶対受け入れなかった。 大抵の動物がそうですが、 子どもを育てている雌は、 雄には関心がありません。 セックスをしようなんて気は全くなく、 追っ払ってしまいます。 人間という動物はちょっと例外で、 子どもを育てている間も女性は男性を受け入れます。 ですから年子が産まれるわけです。

 けれど、 猿は子どもがいる限り絶対に駄目です。 ところが子どもを殺されると、 雌は雄を受け入れるようになります。 そこで雄は雌とつがって自分の子どもを次々と産ませていきます。 そうするとまた、 前と同じ数の子どもが生まれてきてしまう。 だから人口調節にはなってないわけです。

 これはなんだろうかということが、 よく解らなかったそうです。 しかも一例だけではなかった。 次々と乗っ取りが起こって、 乗っ取りが起こると必ず子殺しをやって、 また子どもを産ませるということを繰り返したわけです。

 それまでは、 種族維持のために子ども達はみんなで守りましょう、 みんなで子どもは育てましょう、 自分の子どもでなくても、 守っていって、 次の代に育てて種族を維持していくというように動物の行動はできているはずだと思っていたのに、 どうも話がおかしくなってきました。

 そこでしかたなくそのまま国際会議で発表されたのですが、 これには非難が集中しました。 では種族はどうなるのか、 おまえは一体何を見てきたのかというわけです。 ところが幸いなことに、 アフリカでライオンの研究をしているイギリス人が、 ライオンで全く同じことを見ていました。 やはり群を乗っ取ると、 そこにいる子どもをみんな食い殺してしまうそうです。 そして雌とつがって、 自分の子どもを産ませるのを見たと言うのです。 インドの猿がやっている、 アフリカのライオンがやっている、 これは必ずしも偶然の話ではないのではないかとなったわけです。

 不思議なもので、 誰かがこうだと言って、 ああそうかなと思うと、 すべてがそう見えてきます。 そうではないことを見て、 何か変だなと思っても、 種族維持ということが頭に刷り込まれていますから、 自分の見たものは例外なんだろうと思っていたわけです。 よっぽどその雄がおかしかったか、 何か事情があったんだろうと思っていたのです。

 ところが実はそうではないのではないかと思うようになると、 「私も見た」「私も見た」と報告されるようになり、 いろんな動物でそういうことが起こっていることが解ってきたのです。 鳥でも同じように他人の卵を壊して歩いているのがいるそうです。 動物界では、 そういうことはしょっちゅう起こっていたのです。

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