下村(京都造形大):
セッション3はスライドを中心とした分科会で、 しかも快適性がテーマになっているだけあって大変気持ちのいい楽しいスライドが多く、 見ているだけでうっとりする内容でした。 話し合われた内容を短く言うと、 快適性に焦点を置いて技術以外に文化的なアプローチもあるということを4人のパネラーにお話ししていただきました。 パネラーは鳳コンサルタントの佐々木葉二さん、 現代計画研究所の江川直樹さん、 ランドデザインの中村伸之さん、 セスタ・デザインの清水泰博さんの4人です。
佐々木さんの仕事の事例としては、 北摂ニュータウンのゆりのき台、 埼玉新都心のケヤキ広場を紹介いただきました。 私が大変興味深いと思ったのは、 ケヤキ広場はいわゆる「環境共生風」には見えないことです。 グリッド状に同じ寸法のケヤキが植えられているのですが、 これは一定の枠を与えることで、 そこからこぼれ出るものが予感として、 あるいは気配として発生することを狙われたのでしょうか。 それが、 環境と人間が関わるキーワードになるのだというお話だったと思います。 それは、 日本人の伝統的な環境との関わりの文化を受け継いでいるのかとも感じられ、 興味深くお話をうかがいました。
全体に共通していたのは、 その場に身を置いて五感で感じられる幸せとは何かということです。 まさに「環境デザイン」から見た光景といえ、 夕日の姿や海辺のレストランなど本当に気持ちのいい光景でした。 どういう風に感覚を開いていくのかが大事なのだということを考えさせられました。
環境の中にまず自分が入ってみて、 そこで五感に感じること、 そしてそんな五感に応える環境を用意することが大事ではないかというのが、 江川さんがおっしゃりたいことだったと思います。 デザインはとかく視覚に訴えるものばかりを作り勝ちですが、 そんな状況への示唆的なご指摘だったと思います。
共生というテーマでは、 ニュータウン公園に残された現況林や団地のリニューアルでケヤキがどれだけ大きくなったかということを紹介いただきました。 ケヤキが時間の経過で大きくなるのは、 土地に潜在していたものが顕在化するプロセスであり、 時間の中でゆっくり現われていくものに共生というものの本質があるというご指摘です。
第2点目の循環については、 エイジングしていく素材をリサイクルすることでその場の歴史性を表現したり、 なじんでいくことの美しさが出てくるのではないかというお話をされました。 材料を繰り返し使っていくことが、 生活に誇りを与えたり味わいを与えたりする。 リサイクルの本質はそこにあるのではないかというご指摘でした。
それに対して、 清水さんが丹後のデザインスクールに作られたエコ・トイレの試みを紹介していただきました。 なかなか面白いデザインの屋外トイレなのですが、 エコロジカルなプロセスはあくまで技術として使っていくというアプローチです。
もうひとつの事例としては、 島根県出雲地方でフジ・サンケイグループが主催していた環境芸術大賞に応募したプランです。 地場のヨシを使って風車を作り、 水の浄化をすると同時に風景も作るという植物都市のプランをご紹介いただきました。
佐々木さんは自然の直接的な表現がある一方、 予感や気配、 関わりを表現していく方法があるというお話をされました。 しかし、 今日は直接的な自然の表現についての話があまり出ませんでした。 雨が降れば川も表情を変えるように、 自然は我々の外部にあって、 突然他者として現われてくることがある。 そういうコントロール外にある自然をあえて都市に持ち込もうとしているのが、 今言われれているビオトープなのだと思います。 これについてはいろんな批判があろうかと思うのですが、 それについてのご意見がほとんどありませんでした。 ビオトープは基本的に幼稚なものなのか、 デザイナーとして関わりようのないものなのか、 はたまた本気で関わっていくべきなのかの議論を、 私個人としては聞きたかったのですが。
もうひとつ、 テーマ設定としてはやむを得なかったのかもしれませんが、 環境共生的な技術を持ちながら感性的に我々に美しく訴えてくるものをテーマの軸としていました。 しかし、 私達が受け取るものがあり、 かつ返すものがあってこそ共生と言えるのではないかという気がします。 以前、 枚方で全国水環境交流会のシンポジウムを企画したとき「水の恵み得るもの、 水への恩返し」というタイトルを付けたのですが、 今日の議論では「恩返し」の部分があまり話題になりませんでした。 共生のプロセスの中で、 何が恵みであり、 何が恩返しなのかを聞きたかったという気がします。
以上、 今日話題になったこと、 話題にならなかったことをお伝えして、 セッション3の報告を終わります。
session 3の報告
佐々木さんの報告
佐々木さんからはいろんな綺麗な写真を見せていただきましたが、 お話のポイントとしてデザイナーのアプローチの問題があげられました。 近代において環境がいためつけられ、 それに対する反省として様々なアクションが出てきた。 その中で一つには直接的な自然の表現として、 例えばビオトープが登場しましたが、 しかし、 それ以外に予感とか関わり、 気配のようなものを自然として受け取るアプローチがあるのではないか。 むしろそちらの方がデザイナーとして関われるアプローチなのではないかというお話でした。江川さんの報告
江川さんのお話は二つに分かれており、 前半では兵庫県多紀郡の山の中に建つ住宅が紹介されました。 本当に山の中にぽつんと家があるという印象で、 回りの自然と直接交流できるような大変気持ちの良さそうなお宅でした。 後半は、 世界中のいろんな街のいろんな風景を見せていただきました。中村さんの報告
中村さんは共生と循環というテーマ設定で語られました。清水さんの報告
清水さんのお話はこれまでの3人のアプローチとはやや異なり、 今の環境共生論は無理をしているという指摘から始まりました。 例えば、 自然環境を回復するためには生活は不便になってもいいという議論がありますが、 それに従ってマニアックにエコロジー生活を展開したり、 エコロジー自体を自己目的化していくことが本当に現代社会の中でリアリティを持っているのかという問題提起です。話題にならなかったこと
快適性というテーマに違わず、 我々の感性に訴えてくる形の環境共生のデザインが次々と紹介されて楽しかったのですが、 ここでは話題にならなかったことを私見として付け加えさせていただきます。
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