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問題提起

環境共生型都市デザインの世界

立命館大学 山崎正史

 

「環境共生」の意味するもの

 フォーラムのテーマ設定のための議論の中で、 「環境共生」というテーマについても、 その語の意味するところについてもかなりの疑問が表明された。 確かにその語の意味するところは明解でない印象を与えている。 その理由は、 筆者にはそれが二つの内容を含んでいるために生じているように思われる。
 つまり、 「環境共生」は、 「地球環境と人類の共生」を短縮した語のように見えるが、 その内容は突き詰めれば「地球温暖化防止」と「自然と人類の共生」の二つの課題を一語で表していると理解される。 後者は人類以外の生物と人類との共生ということであり、 生態系の保全ということに他ならない。

 地球温暖化問題は、 人類にとって火急の課題である。 この問題自身が疑わしいとする説もあるが、 人類の生存に関わる問題である場合、 疑わしきは対処せよ、 というのが当然だろう。

 二つの課題は別個の動機によるものと思うが、 問題の原因と、 解決の方法は両者複雑にからみあっている。


「世代間倫理」と「環境倫理」

 我々は自分の世代だけが快適な環境で過ごせばよいのでなく、 次世代も、 またその次の世代も快適に生存できるような地球環境を伝え残す義務がある、 という倫理が提唱されている。 地球環境問題、 特に地球温暖化問題を取り上げる立場の底流にはこの倫理観が指摘されるが、 異常気象の続く昨今ではほとんど今の世代のための問題の観がある。

 同時に、 地球に生存する人類以外の生物に対しても、 その生命を尊重すべきとする倫理が唱えられている。 世代間倫理が人類としての利己的なものでありうるのに対し、 これは人類にとって他利的倫理である。 「環境共生」は二つの倫理観に支えられているし、 また両者に応えるべきものといえよう。


「環境共生型都市デザイン」

 環境を形成する都市デザインという分野は、 「環境共生」という課題と別な所にあるのではなく、 まさにその内部的存在といわなくてはならない。 これは、 建築に装飾を取り付けるかのように、 都市デザインに「環境共生」を付け足すような課題ではなく、 都市デザインのあり方そのものに関わる課題というべきだろう。 フォーラムのテーマを「環境共生と都市デザイン」としなかったのは、 この意味からであると理解して頂きたい。


環境共生の課題とされる項目

 現在、 環境共生という大目的の達成のために課題として、 いろいろな項目があがっているが、 私なりにまとめて紹介しておきたい。

 これらの問題をまとめて解決するための方法として、 「資源・エネルギー循環型システムの構築」があり、 同じことを効果として表現して「環境負荷の軽減」が言われている。


環境共生型都市デザインの側から見た問題と課題

 都市デザインと、 よりひろく建設業から見た問題点について、 フォーラムの討議に基礎的情報を提供するつもりで、 得られた情報を紹介したい。 (情報は主に、 日本弁護士会『日弁連の意見書』1997、 および『地球環境と巨大都市 岩波講座地球環境学8』岩波書店、 1998による。 )

 都市デザインのありよう、 特に土地利用の配分は交通発生量を左右する。 CO2発生量に占める運輸部門の割合は国内総排出量約3億トンの約19.2%を占めており(1994)、 しかも、 他の部門に比べて増加の傾向にある。 そのうち自動車が87.2%と圧倒的な割合を占めている。 地球環境保護の立場からは鉄道への移行(モーダル・シフト)が唱えられ、 駅関連用地の他用途への変更が危惧されている。 貨物線の容量がすでに一杯のため、 新たな鉄道建設が必要とされ、 ドイツなど欧州では新たな鉄道建設が進められている。 LRT(ライト・レール・トランジット)や、 自転車交通の促進も課題である。 運輸交通発生を軽減し、 またエネルギー消費の少ない交通手段への移行をはかる都市デザインが求められている。

 民生部門でのCO2排出では、 家庭部門が3,948万トン、 業務部門が3,975万トンあり、 国内総排出量の約23%を占める(1990)。 冷房による消費が思い浮かぶが、 家庭用では照明・動力が約40%、 給湯が約28%、 暖房が約24%、 厨房が約6%、 冷房は約2%と報告されている(1990)。 照明・動力が増加の傾向にある。

 昨年、 私が訪れたヘルシンキでは市街地の端部に火力発電所があり、 そこから給湯して地域暖房を行い、 家庭の暖房費は極めてわずかで済んでいるとのことであった。 発電所はエネルギーのロスが多く、 不要な廃熱利用が望まれている。 交通発生とも絡めて、 土地利用形態に多いに関わる課題である。

 我が国の最終エネルギー消費量に占める建設業の割合は1.6%(1994)と低く、 省エネルギーという課題の中では建設業はあまり問題にされていない。 しかし、 建設資材の製造・運搬のためのエネルギー消費を含めると、 国全体の最終エネルギー消費量の26%(1990)を占めるいわれる。

 資源収支(マテリアル・バランス)において、 建設用採石・砂利の年間投入量は9億7千万トンで、 わが国の全資源投入量の実に49%を占める(1994)。

 廃棄物量については、 建設廃材発生量は6,150万トンで、 我が国の全産業廃棄物の15%を占め、 再生利用率は約50%といわれる(1993)。 最終処分量としては産業廃棄物の中で最大である。

 膨大な資源の製造・運搬においてCO2発生という問題を生じ、 廃棄物処理はこれに加えて環境汚染という問題も抱えている。 これに対処するには、 保全型の都市デザインへの移行が考えられる。 フォーラムの第2分科会のテーマであろう。

 さて、 私としてはともかく開発・建設を減らし、 保全と修復にしようという考えには素直に賛成しがたいところがある。 というのは、 我が国の大半の都市環境の質、 特に景観的視点から見た質は、 率直に言えば戦後の応急復興の観を呈しているように思われるからである。 ヨーロッパの都市の立派さを知る者には、 とても日本の都市をこのままで保存する気にはなれない。 モルタル塗住宅の延々と続く過密状況を見てもそう思う。 環境共生と共に、 美しい風景の創出(アメニティの実現)という二つの課題が21世紀の日本の都市計画・都市デザインの当面の課題であるように私には思われる(建設省のエコシティ計画は、 ここでいう環境共生とアメニティの両者を含んでいる)。 環境共生という課題にこたえ、 美しい都市風景を作り出し、 且つ永く存続しうるような環境に日本を順次造りかえてゆくべきではないのだろうか。

 都市の緑化は望ましく思われるが、 都会的風景や伝統的都市景観との関係をどう調整すべきなのか。 都心よりも、 駐車のためのスペースが以前の庭園に置き換わり、 これまでの建ペイ率制限では緑が減少するばかりの住宅地こそ、 緑化の対象地かもしれない。 ビオ・トープは市街地に造るべきか否か。 他の生物と人間とが共生する環境は、 次世代のために教育的価値をも持っているように私には思われる。 人が生存を続けられる健全な生態系を感性として教育するために。 近隣住区理論に従って、 各小学校区に少なくとも1ビオ・トープの設置という考え方もありうるのではないか。

 環境共生という課題に応える環境デザインが、 結果として如何にアメニティと両立するものでありうるか、 さらにアメニティを高めるものでありうるか。 その知恵をフォーラム第3分科会に期待したい。

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