次に、 “共生”について、 次の三様の意味合いがあることをを区別しておきたい。
(2)自然環境系は、 生物生存環境系を含み、 局地的気候系、 自然地理系、 水系などからなる。
(3)自然環境系に対し、 “共生”関係を回復するのは、 困難だろう。 「自然環境系∩人間環境系(=都市環境系∪生活環境系)」の領域を限定し、 その領域内では、 インパクトに対するミティゲーション、 “共和”関係の構築が必要である。 領域外とは、 むしろ“共存”を目指すべきであろう。
(4)生物生息環境系、 特に生態系に対しては、 回復と“共和”“共存”が望まれる。 “共和”“共存”が都市環境・生活環境に果たす役割と意義の吟味・評価が必要である。
(5)都市環境系・生活環境系は、 それが外部領域に与える負荷(汚染)とともに、 内部でフリクション、 コンフリクトを生じていることが問題である。 基本的には、 機能・活動の集積に伴う都市の大規模化によってそれが生じる(江戸を考えれば、 “都市化”自体が都市環境問題を引き起こすわけではなく、 都市構造、 社会・経済システム、 技術のあり方が、 大規模都市化の弊害を顕わにする)。
(6)環境基盤の基礎的役割は、 環境系を再構成し、 “上物”を支える土地、 地盤を生み出すことであり、 環境基盤づくりは、 不可避的に、 自然環境系、 生息環境系を改変する。 保全と創造の内部目的化は、 すでに建設行政の中で決められているようだが、 その推進と方策づくりが欠かせない。 自然の土地を残すこと、 自然を育む地盤づくり(新しくは関西空港、 古くは淀川のわんどや多くの干潟形成など、 自然・生息環境系の回復、 創出の事例は少なくない)が必要である。
(7)環境基盤は、 自然環境系制御の役割を担う。 水系管理・制御はその典型である。 より広く水環境系と捉えた対処が必要である。 先日の名古屋地域における水害からもわかるように、 人間の生存環境系に関わり、 また、 機能環境系、 快適環境系にも密接に関わるので、 問題は多岐にわたる。
(8)環境共生のための(環境負荷を軽減し、 自然環境・生息環境との“共和”“共存”を目指し、 生活環境系を豊かにする)新たな都市基盤(下水処理水・雨水の活用を含む水循環システム、 土壌による大気浄化装置を備えた緑道、 「風の道」、 エコロード、 生態系回廊……)は、 基本的には、 望ましいものである。
(9)環境基盤の利用に伴う環境負荷ばかりでなく、 それ自体の建設・維持・更新における負荷がある。 エネルギー利用、 資源利用、 ライフサイクル・コストの問題も含め、 寿命が長い程、 有利であろう。 建て替えにおいては、 機能の“つなぎ”(空白があってはならない)の問題がある。 リスク回避のためにも、 代替施設を要する。 さらに、 「河川は明治期の財産で食べている」と言われるが、 空間(土地)がその可能性をつなぐ(この問題だけに限らないが)。
(2)環境共生型の都市圏として、 一極集中型より、 多極分散ネットワーク型の広域都市圏の方が優れているだろう。
(3)都市圏が与える環境負荷は、 個別都市圏別ではなく、 トータルでゼロエミッションであればよい。 多極分散型広域都市圏ではよりフレキシブルな対応が可能である。
(4)個別都市環境系は、 一般にはその規模が小さい程、 内部での環境共生への対応が容易と考えられる。
(5)問題は、 個別都市環境系の間で、 連携・パートナーシップの保持が可能かどうかである。 すなわち、 “都市と都市の共生”がキーポイントになる。
(6)都市環境系の外部の自然環境・生息環境との“共和”“共存”については、 ことはやや複雑である。 都市圏規模(面積)がトータルで等しい場合、 都市圏が一つだけの場合の方が、 複数ある場合より、 縁辺部延長は、 一般に小さく、 異環境系との接触も少ないので、 フリクションも少ない。
(7)しかし、 フリクションが無いか少ない縁辺部のあり方がある。 たとえば、 異なる環境系が入り混じるのではなく、 画然と接する場合である。 要するに、 “構造”次第である。
(8)以上は、 都市環境系の内部構造にも、 同様に当てはまる。
(9)「Philadelphia Inquirer」(2000/8/25)は、 「ニュージャージーは、 32年後には、 全米で最初の“建て終わった(bulilt-out)”州になる」と専門家の調査を踏まえて伝えている。 一定の密度を保ち、 保存すべき土地は保存すれば、 いつか、 開発余地はなくなる。 環境共生型都市では、 当然、 “都市容量”に限界がある。
(2)交通系が環境に及ぼす影響は極めて大きいが、 交通需要の多寡と都市構造とは密接に関連する。 多極分散型都市圏と一極集中型都市圏とでいずれの交通需要がより少ないかは、 即断できないが、 局地への過集中の排除、 分散化(交通の局地的完結、 幹線的交通の密度低下)の促進などの点で、 多極分散型都市圏の可能性の方が高いだろう。
(3)さらに、 一極集中型都市圏では、 空間制約がより大きく、 そのことが、 交通施設の建設・維持コストの増大に結びつく。
(4)ゼロ・エミッション型交通系への転換(公共交通依存型、 非自動車依存型、 歩行(あるいは自転車)交通重視型、 ……)は、 交通需要密度の高さ、 交通需要規模の確保、 交通需要領域の限定、 快適な歩行空間の確保などを必要とする。 都市構造に対する影響力は高い。
(5)自動車交通は、 特に環境影響が大きい。 TDM=Traffic Demand Control(短期的な需要調整、 中長期的には都市構造の改変、 交通システムに見合った都市開発、 物流システムの整備等)は、 自動車交通において特に重要である。
(6)一方で、 道路システム・道路構造による道路交通円滑化、 技術革新(ITS=Inteligent Transport System、 ERP=Electronic Road Pricing、 ETC=Electronic Toll Collection……)による道路交通システムの合理化などの手段を用いた環境緩和が必要である。
(7)その他の技術革新(無公害型自動車の開発、 新交通システム、 鉄道の高速化……)も環境問題への影響は大きい。
Session-1
環境共生と都市基盤
大阪産業大学 榊原和彦
1 はじめに
図1 環境の諸相と相互関係
さまざまな位相やレベルで捉えられる“環境”について、 まず、 図1のように整理する。
(1)symbiosisとしての共生:各環境系の間および環境系の内部での主体(生活環境系における人間、 生息環境系における生物)− 環境間における、 相互依存的な生存・存在、 あるいは、 “寄生”。
(2)“共和”としての共生:共同和合しての、 調和的な生存・存在。
(3)“共存”としての共生:独立的、 相互不可侵的生存・存在。
2 都市における環境共生の問題
(1)地球環境系に対し、 都市環境系は、 寄生的であって、 宿主の破滅を招きかねない。 都市環境系のカプセル化等による“共存”は、 技術的には可能であろうが、 非現実的であろう。 社会システム、 経済システムの変革が迫られている。
3 広域都市圏における環境共生
(1)広域都市圏は、 複数の、 個別的領域を有する都市環境系の集合体である。 それに対し、 全体的規模が同程度の、 一つの巨大都市環境系を有する一極集中型巨大都市圏がある。 それらの比較から、 都市圏構造のあり方を考える。
4 環境共生と都市環境基盤(交通)
(1)都市間の機能分担を可能にするには、 コミュニケーション・ネットワーク、 中でも交通ネットワークの充実が欠かせない。
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