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Session-1

地形と水系を基調とした
ランドスケープ

大阪府立大学 増田 昇

 環境重視型社会や地方分権型社会に代表される成熟型社会への転換の動きの中で、 都市環境デザインにおいても総合的視点からのアプローチの重要性が再認識されつつある。 このような状況の中で、 今後の都市環境デザインを考える上でランドスケープの持つ意味と役割を考えるとともに地形と水系との係わりを探る。


ランドスケープの役割

 ランドスケープとは、 土地(地形や土壌、 水系などの基盤的要素)、 大気環境(気象や気候条件)、 建築物、 道路や設備、 緑地的要素(植生や空間)によって構成され、 それぞれの要素が相互に作用しながら長い時間的経緯を経て形成された姿であると言える。

 これらの要素の中で、 土地と大気および緑地的要素の一部は自然が支配する要素、 建築物と道路や設備および緑地的要素の一部は人間や社会が支配する要素にカテゴライズできる。 なお、 ここでの緑地的要素が持つ自然と人間や社会の両側面とは、 自然植生を有する空間(緑地)は前者、 人間や社会の文化的意図が強く働いた空間(広場や空地)は後者と考えられる。 従って、 ランドスケープは人間や社会と自然との相互作用によって形成されたものであると言い換えることもできるが、 地域の環境の総合的・総体的な認識とともに地域の環境を構成する諸要素間の関係を調節する基本的な枠組みを示すものとも考えられる。

 以上のようなランドスケープの捉え方をすると、 ランドスケープは失われつつある地域のアイデンティティの再生や醸成を図り、 地域性や場所性を持った空間を保全あるいは創造するうえで重要な役割を担い、 また、 破壊されつつある地域の生態システムの保全や再生を図り、 持続的な代謝・循環機能を持った空間を保全あるいは創造する上でも重要な役割を担うものと考えられる。


地形や水系とランドスケープ

 暖温帯に位置するモンスーン気候と急峻な山地地形を背景に、 豊かな水系と多様な地形が育まれてきたわが国の国土環境のもとでは、 農村集落や近代都市の礎ともなった城下町に見られるように、 地域のランドスケープは水系と地形に深く係わりあって形成、 維持されてきたと考えられる。 また、 そこでは多様で個性的なランドスケープが展開されてきた。

 地形を見ると、 平坦部では都市活動が成立し、 急峻部では都市活動が制限されるように、 また、 高標高ではブナ林帯、 低地部では照葉樹林が成立するように、 人間活動や植生の成立性を制限する要素として働く。 従って、 同一地形では等質の空間が形成されるとも言える。 一方、 水系、 あるいは、 流域は、 山岳部から海に至るように、 地形によって形成された多様な等質空間を繋ぐ要素として働き、 複合的な質を持った空間領域を形成させる。

 従って、 わが国のランドスケープは、 社会活動の反映としての土地利用が水系と地形によって形成される土地(ランドシステム)の上に投影されたものであるいえ、 地域のランドスケープは、 地形と水系を基調として展開されてきたといえよう。


関西圏(大阪大都市圏)の特徴

 関西圏、 あるいは、 大阪大都市圏では、 微地形の発達が稀薄なものの大阪湾を囲む六甲山系から和泉葛城山系に見られるように大地形が発達している。 この大地形によって京都、 大阪、 神戸の3都が同質化することなくそれぞれのランドスケープの個性を維持できてきたと考えられる。 一方、 水系を見ると、 この大都市圏は琵琶湖・淀川水系や大和川水系、 武庫川水系などの大流域とともに芦屋川などの小流域から形成されている。 この流域によって琵琶湖総合開発に見られたような広域連携を成立させたことや都市と農村、 都市と山村とのあらゆる面での交流が育まれてきたと言えよう。 また、 水系の中心をなす河川は、 生命の源ともなる水と空気とともに多様な生物や遺伝子の供給路ともなり、 都市の生態系を持続させてきたと考えられる。

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