Session-2
イタリアのチェントロに見る
ストック型都市の思想コーディネータ/京都造形芸術大学/INOPLAS 井口勝文
メルカテッロ・スル・メタウロ(修復工事) |
そこでは指定区域内の建築行為を6つのカテゴリーに分けて管理している注2。 その内、 2つの比較的軽微な保守工事が届け出制で、 それ以外はすべて許可制である。 しかしいずれの場合も現在の外観を変更しないことが前提であり、 変更が認められるとしても街並の外観の連続性を保つことに主眼が置かれている。 そこには24項目の技術指針が記されており、 建造物の外観のみならず舗装材や植栽、 街路照明や店の看板等について細かく定められている。 例えば外壁に使用する石材はこの地方に産する石材であること、 そしてその積み方はこの地方の伝統的手法に従うこととされている。 地区詳細計画が単に物理的に建物の外観を残すだけでなく、 それを支える社会的な仕組みまでをストックしようとしていることを伺い知ることが出来る。 このような都市を私はストック型都市とよんでいる。
地区詳細計画の序文に記されている「チェントロ・ストリコ再生の目的」を読めばストック型都市の意図するところを理解することが出来る。 序文に記されたチェントロ・ストリコ再生の目的は次の4つである。
(2)社会的効果 現代においても学ぶべき価値のあるチェントロ・ストリコの共同体を活かし続けること。 (筆者注:チェントロ・ストリコは人が住む場所であり、 同時に郊外の市民をも含めてあらゆる意味でその都市のコミュニティの中心であり続けようとしている)
(3)経済的効果 大切な技術、 経済的な秩序によって伝統的に支えられてきた現在の豊かさを破壊しないこと。 (筆者注:商業の中心地はチェントロ・ストリコであり続けなければならないということになる。 すなわち、 郊外の商業開発は厳しく規制される)
(4)生態的効果 生産農地を侵食する徒な市街地の拡大を抑制すること。 (筆者注:都市の領域をできるだけコンパクトに規制して自然環境を保全しようとするヨーロッパの伝統的な世界観を継承している)
省資源、 自然環境保全という視点からはひとつのありようとして高く評価することに、 異論はないだろう。 そこで営まれる生活のスタイルにも学ぶべき点が多い。 事が単純でないのはこのようなストック型都市が同時に省エネルギー的であるのかどうかという点である。 それもエネルギーのランニングコストをどう計算するのかという点が重要である。 論点は次の2点に要約される。
前に 目次へ 次へ注1:参考資料
・都市環境デザイン国際(イタリア)セミナー・巨大都市時代における地方都市の可能性 http://web.kyoto-inet.or.jp/org/gakugei/judi/semina/s97it/index.htm
・メルカテッロ写真展 http://web.kyoto-inet.or.jp/org/gakugei/judi/semina/s97it/meru001.htm
注2:拙稿『Re』 No.110 「イタリアの建築修復体験記」参照