第二は、 分業的、 市場的、 情報的な都市的活動が一定の場所に集積する状況は第一の場合と共通するが、 この都市化では恒久的な建造物を必要とせず、 広場的なオープンスペースが活動を支えている。 市場を中心とする人の恒常的集積がその原初的なものであろうが、 そこでは仮設的な構築物に支えられて多様な人々の活動がみられる。 このような建築物に因らない都市化を「フォーカル(焦点的)なアーバナイゼーション」と呼びたい。
第三は、 第二の都市化の概念に似ているが、 人々の生活様式からみた都市化であり、 L. ワースの指摘する「都市的生活様式」が認められることから、 形態的に農山村であっても都市化の段階にあるとみなせるものである。
ここで、 第一の都市化は都市のストックを、 第二、 第三の都市化は都市のフロー現象をもたらす傾向がある点を指摘しておきたい。
この2つの側面は古代ローマ都市の系識についてもあてはまる。 行政的活動が展開するところを Civitas (キビータス)と呼び、 商業的活動が展開するところをUrbs(ウルブス)と呼んだが、 前者は恒久的なシンボル建築物をもたらしたのに対して、 後者は必ずしもそれを必要とはしなかった。
このような都市化の性格はひるがえって東洋の「都市」という言葉にもあてはまる。 「ミヤ・コ」という〈宮のあり処〉と「イチ」という概念から構成される都市には、 共同体の精神的シンボルないしは市民行政的な活動空間と、 商業的・世俗的な活動空間がともに意味されている。 前者には地縁的かつ高密度な建物によるローカル・アーバナイゼーションが、 後者ではストックになりにくいフォーカル・アーバナイゼーションが特徴的に認められよう。
ところでブルジョワジーが優先された近代都市では、 共同体的な性格よりも市場的、 商業的な性格から都市の価値が決まってきた。 つまり、 ストックづくりよりフロー現象の重視である。 人々のふるさと感や帰属意識を形成するストック型都市よりも、 富を得る手段としてフロー型都市が重視され、 結果として共同体の記憶が削りとられ、 私的=個的な記憶の集積する都市がもたらされた。
多様性を前提にする現代都市には多様なサブカルチャーが介在するが、 これが持続水準を高める重要なファクターである。 多様な人種、 多様な職種、 多様な所得階層、 多様な居住地観、 多様な自然などが存在することで、 他を(ホームレスも)排除しない「インクルーシブな」都市が可能であり、 こうした都市をガヴァナンス(統治、 経営)できることが都市の持続水準の向上につながるのではないか。 そこで、 それぞれのサブカルチャーごとにストックを形成することが当面の課題であろう。
Session-2
コミュナルな都市ストックを
関西学院大学 加藤晃規
1 財政再建か景気浮揚か?
次世代において安定的な都市活動が持続できる都市政策をとるのか、 あるいは現下のニーズに取りあえず応える活性化策に妥協すべきか、 こうした枠組みで都市問題を捉えると、 前者は「財政再建」的政策であり、 後者は「景気浮揚」的政策であろう。 ストック型都市づくりは「財政再建」的政策であり、 フロー型都市づくりは「景気浮揚」的政策に思われる。
2 都市におけるストック、 都市におけるフローとは?
都市化(アーバナイゼーション)には大きく3つの概念が設定できる。 第一は、 物理的に建物が密集し、 それらの構築物に支えられて様々な都市的活動が高度に展開する状態であり、 その原初的な形態はギリシャ都市や西洋中世都市の城壁都市に示されている。 これらは一定の場所に高密度な建築群の集積がみられることから「ローカルなアーバナイゼーション」とされる。
3 ストック現象とフロー現象からなる都市化
アクロポリスを核とするギリシャ都市は神殿を設けて聖なるポリスをつくり、 そこに確固とした共同体が生まれたが、 これを都市のストックの発生と考えてよい。 しかし同時に、 古代アテネではアクロポリスの下にアゴラがあり、 イチや演説や演劇が展開されていた。 当初はそれらの活動を支える諸装置が仮設的であったとされるが、 ここに都市のフロー的性格の発生がみられる。 都市は、 この2つの側面、 つまり共同体の結合シンボルを継承することとイチや交流を展開する空間をともに擁してきた存在であり、 この「ローカルな」都市化と「フォーカルな」都市化が相まって都市空間が形成されてきた。
4 中間な結論
フロー型都市とは、 市場的、 商業的な性格を優先するフォーカル・アーバナイゼーションの展開する都市のことであり、 ストック型都市とは共同体的な性格を顕現させるローカル・アーバナイゼーションの展開する都市と考えておきたい。
5 サブカルチャーの多様なストックを
「脱」近代の地平に環境共生時代を前提にするならば、 都市における私的=個的な機能水準よりも、 居住集団の環境水準が、 さらにはこの環境水準よりも、 都市そのものの持続水準が重視されることになろう。 平たく言えば、 効率的に富を得られる都市よりも、 居住者の快的な生活が保証される都市よりも、 さらに重要なことは、 幾世代にもわたって様々な人々が使用(居住、 活動、 訪問)できる都市が求められてくるだろう。
6 戦略的な都市像
そのためには「既存の都市要素の無条件の受容」とそのガヴァナンスが必要であるが、 そのひとつの戦略が「我々の都市空間」と感じられる(コミュナルな)コンパクトシティづくりであろう。 かってのアクロポリスやCivitasにみた都市モデルの未来的適用で、 新たな都市居住や都市産業や都市の自然のストックをつくる必要がある。 まさに都市の「財政再建」の時代といってよいのである。
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