Session-2持続可能な都市ストックの構築に向けての戦略的な社会システム構築大阪大学 藤田壮/科学技術振興事業団 後藤忍 |
活動に伴って発生する環境負荷をできるだけ削減する循環型の社会システムを構築することは、 持続可能な将来を実現するには避けることのできない課題である。 1992年の環境サミットで持続可能な開発(Sustainable Development)が国際的な達成目標として提示されて、 すでに10年が経過しようとしており、 環境に対する取組は理念を議論する段階から、 具体的な対応を設計する段階に移行している。 本稿では、 都市と建設物にとって直面する主要な環境制約について整理したうえで、 資源循環型の都市を構築する上での基本的な戦略を示す。
欧米諸国企業に比べると対応の開始が遅れがちであったわが国でも、 具体的な企業の取組や各種工業製品のリサイクル法案に見られる社会制度の構築が進められている。 これらの産業システムでの取組はこれまでの生産プロセスの末端で汚濁物質の除去や処理をはかる「End-of-Pipe」の取組や、 生産技術の部分最適を図る「Cleaner Production」の取組と区別される。
建築物の利用に伴って発生する環境負荷の小さな、 環境効率(Eco-Efficiency)の高い循環型社会を形成するには、 建設副産物の特性に応じて、 より高い水準のリサイクルパスで再資源化する、 カスケードのリサイクルシステムを実現することが望ましい。 21世紀の前半に施設の更新のピークを迎える、 すでに立地している建設物については、 資源の再生・再利用を考慮していない設計であるため、 再利用や部品のリサイクルよりもマテリアルリサイクルを志向する。 そのためには、 都市近郊型の再資源化基盤施設と廃棄物輸送とリサイクル資材輸送、 都市内のストックヤードなどの逆ロジスティクスの都市循環基盤の整備と、 効率的な分別技術の確立などリサイクルの社会的費用を低減するシステムの整備、 リサイクル資材の利用を義務づける制度システムの整備を用意する。 一方で、 21世紀以降に着工される建設物については、 構造物については機能需要の変化に対応できる、 Skeleton-Infill型のフレキシブル設計や、 鉄鋼材やプレキャストコンクリート、 木材などを再利用できる易解体等の環境配慮型設計(Design for EnvironmentまたはDesign for Disassembly)を設計に導入するための制度、 経済インセンティブの都市環境政策計画への導入が求められる。
都市集積から発生するライフサイクル総CO2発生量を都市環境政策の根拠とするためには、 環境負荷削減を異なるセクター間で分担するための原則の議論が必要となる。 産業製品での拡大生産者責任(Extended Producer's Responsibility)を拡大して、 都市に立地する主体が、 その構造物の更新と都市活動を支える地区の外部で発生する環境負荷についても責任をもつべきであるという、 いわば「拡大都市活動主体責任原則」を仮定すると、 持続可能な社会の構築に向けて「環境容量のダウンゾーニングと環境開発権による環境配慮型再開発のインセンティブ」政策が考えられる。
すなわち、 長期間の総CO2発生量を90年代水準に抑制する、 温暖化条約京都会議の議定書を都市開発行政のフレームととすれば、 全く環境負荷削減施策を導入しない場合には、 法定容積率水準ではなく、 環境容量制約から決定される容積率までしか地区の開発は認可されないとするダウンゾーニングを採用する。 その上で、 建築物の更新時にさまざまな環境負荷の削減施策を敷地や地区単位で導入することにより、 許容される容積率が大きくなる開発インセンティブの導入をが考える。 ライフサイクル環境評価に基づく環境開発権を各敷地毎に設定するとともに、 その開発権の取引市場をつくることによって、 一律の規制よりも効果的に環境配慮型のまちづくりを実現することができる。 これまでの研究を通じて、 一括更新や歩行者交通を優先で自動車への依存を軽減するまちづくりや、 再資源化された建設資材の使用、 環境効率の高いコンパクトな街区構造を実現することによる環境効果を、 ライフサイクルの環境負荷削減として定量化するツールは用意されており、 環境容量を具体の都市環境政策に反映するために有効な手段となる。
主要な参考文献
・Graedel, T. E., Allenby, B. R共著、 後藤典弘訳『産業エコロジー』トッパン、 1996
【藤田先生は急用のため当日は欠席されます。 】
・藤田他「建設物の製品連鎖マネジメントによる環境負荷削減効果の算定」『環境システム研究全文審査部門論文集』vol. 28、 印刷中、 2000。
・藤田他「都市集積地区から派生するライフサイクル二酸化炭素の評価の都市マネージメントへの展開についての考察」『環境システム研究全文審査部門論文集』vol. 27、 pp. 355~364、 1999。