左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ

Session-2

持続可能な都市ストックの構築に向けての戦略的な社会システム構築

大阪大学 藤田壮/科学技術振興事業団 後藤忍

 活動に伴って発生する環境負荷をできるだけ削減する循環型の社会システムを構築することは、 持続可能な将来を実現するには避けることのできない課題である。 1992年の環境サミットで持続可能な開発(Sustainable Development)が国際的な達成目標として提示されて、 すでに10年が経過しようとしており、 環境に対する取組は理念を議論する段階から、 具体的な対応を設計する段階に移行している。 本稿では、 都市と建設物にとって直面する主要な環境制約について整理したうえで、 資源循環型の都市を構築する上での基本的な戦略を示す。


1 都市の直面する環境制約と対応の課題

(1)施設更新に伴う大都市からの大量の廃棄物発生
 都市空間、 特に大都市圏において、 高度成長期を通じて膨大な都市構造物ストックが集積されてきた。 建築物と土木構造物の多くは、 2000年からの半世紀の間に一斉に更新の時期を迎えることが予測される。 建設物の解体に伴い発生する建設廃棄物のうち約85%は非木造構造物の解体にともない発生する。 コンクリート塊がその90%であり、 鉄鋼材と合わせて、 95%を構成する。 鉄鋼については電炉鋼としての再生の技術開発に見通しがついており、 バージン製品との価格的競合のみが今後の循環形成上の障壁となるが、 建設廃棄物全体の3/4を占めるコンクリート塊については、 道路の路盤材としての限定的なリサイクル利用しか再利用の目処が立っていないのが現状である。

(2)都市活動から発生派生するCO2
 都心での活動に伴ってきわめて大量のCO2が発生している。 その多くが、 建設物を建築するための素材の生産と、 活動を支える交通サービスやエネルギー供給のプロセスから発生している一方で、 都心部が供給する様々な機能、 サービスを享受する主体の立地は都市内部だけでなく圏域のスケールにわたっていることも否定しようのない事実であり、 総量を抑制するための政策設計に向けては、 CO2が発生する地区、 都市、 圏域および国土の関係主体間での合理的な責任分担の原則が議論される必要がある。


2 持続可能な社会システムにむけての産業での取組

 産業セクターでは、 すでにできるだけ環境効率の高い製品と生産のシステムを志向する動きがヨーロッパの各国から始まり、 先進諸国から発展途上国まで一般化しつつある。 これらの動きは産業エコロジーと呼ばれる考え方に支えられている。 産業エコロジー(Industrial Ecology)とは、 産業革命以降の大量消費・大量廃棄のシステムを踏襲する「Bau (Business as Usual)」戦略と、 持続可能な地球社会を実現するには消費と効用の水準を抑制することを含めてあらゆる環境配慮の社会的対策を可能な限り速やかにとるべきであるとする「Radical Ecology」戦略というふたつの両極の社会戦略に対置される。 産業エコロジー戦略は、 できるだけ環境効率の高い技術システムと社会的基盤を導入することにより、 現状の社会的な効用の水準をできる限り維持しつつ、 持続可能な社会への軟着陸の実現を図る戦略であり、 社会的合意、 さらに発展途上国を含む国際的な合意形成を考慮すれば、 早い段階ではもっとも実現性の高い環境戦略であると広く認識されている。

 欧米諸国企業に比べると対応の開始が遅れがちであったわが国でも、 具体的な企業の取組や各種工業製品のリサイクル法案に見られる社会制度の構築が進められている。 これらの産業システムでの取組はこれまでの生産プロセスの末端で汚濁物質の除去や処理をはかる「End-of-Pipe」の取組や、 生産技術の部分最適を図る「Cleaner Production」の取組と区別される。


3 循環型社会の実現に向けての都市環境戦略

 都市の活動主体にライフスタイルの環境配慮型への移行を要請する規範的なアプローチと並行して、 環境効率の高い都市空間を、 土地利用の誘導や基盤システムの再構築を通じて実現する産業エコロジーのアプローチは、 循環型の都市を実現する具体の対応として有効な戦略となりうる。 ここでは循環型の都市空間を実現する戦略要素を以下に示す。

(1)都市構造物のカスケード・リサイクル
 製品、 資材のリサイクルのパスとしては、 製品としての再利用、 製品の素材を活用してのパーツリサイクル、 物理的構造や化学的組成を活かして再生製品化する物理化学的マテリアルリサイクル、 さらにエネルギー回収施設として電気や熱源として再利用するサーマルリサイクルという多層的なカスケードのリサイクルプロセスが存在する。 同じ副産物をできるだけ上位で再利用することにより、 長期的に複数サイクルの再資源化利用が可能になる。

 建築物の利用に伴って発生する環境負荷の小さな、 環境効率(Eco-Efficiency)の高い循環型社会を形成するには、 建設副産物の特性に応じて、 より高い水準のリサイクルパスで再資源化する、 カスケードのリサイクルシステムを実現することが望ましい。 21世紀の前半に施設の更新のピークを迎える、 すでに立地している建設物については、 資源の再生・再利用を考慮していない設計であるため、 再利用や部品のリサイクルよりもマテリアルリサイクルを志向する。 そのためには、 都市近郊型の再資源化基盤施設と廃棄物輸送とリサイクル資材輸送、 都市内のストックヤードなどの逆ロジスティクスの都市循環基盤の整備と、 効率的な分別技術の確立などリサイクルの社会的費用を低減するシステムの整備、 リサイクル資材の利用を義務づける制度システムの整備を用意する。 一方で、 21世紀以降に着工される建設物については、 構造物については機能需要の変化に対応できる、 Skeleton-Infill型のフレキシブル設計や、 鉄鋼材やプレキャストコンクリート、 木材などを再利用できる易解体等の環境配慮型設計(Design for EnvironmentまたはDesign for Disassembly)を設計に導入するための制度、 経済インセンティブの都市環境政策計画への導入が求められる。

(2)高環境効率都市を志向する土地利用インセンティブ
 都市の開発を制御する手法は、 住宅提供や再開発の促進など個別の機能、 目的ごとに体系化が進んでいるが、 循環代謝の環境容量を論理的なフレームとする都市の成長のマネジメントの手法体系が用意されていない。 個別の短期的な環境課題に部分的に対処するのではなく、 発生源を特定することが困難な地球温暖化ガスの制御、 長期的な次世代に影響が及ぶ環境負荷を制御するための都市システムの構造的な変革を可能にする計画体系が欠如しているとの指摘もある。

 都市集積から発生するライフサイクル総CO2発生量を都市環境政策の根拠とするためには、 環境負荷削減を異なるセクター間で分担するための原則の議論が必要となる。 産業製品での拡大生産者責任(Extended Producer's Responsibility)を拡大して、 都市に立地する主体が、 その構造物の更新と都市活動を支える地区の外部で発生する環境負荷についても責任をもつべきであるという、 いわば「拡大都市活動主体責任原則」を仮定すると、 持続可能な社会の構築に向けて「環境容量のダウンゾーニングと環境開発権による環境配慮型再開発のインセンティブ」政策が考えられる。

 すなわち、 長期間の総CO2発生量を90年代水準に抑制する、 温暖化条約京都会議の議定書を都市開発行政のフレームととすれば、 全く環境負荷削減施策を導入しない場合には、 法定容積率水準ではなく、 環境容量制約から決定される容積率までしか地区の開発は認可されないとするダウンゾーニングを採用する。 その上で、 建築物の更新時にさまざまな環境負荷の削減施策を敷地や地区単位で導入することにより、 許容される容積率が大きくなる開発インセンティブの導入をが考える。 ライフサイクル環境評価に基づく環境開発権を各敷地毎に設定するとともに、 その開発権の取引市場をつくることによって、 一律の規制よりも効果的に環境配慮型のまちづくりを実現することができる。 これまでの研究を通じて、 一括更新や歩行者交通を優先で自動車への依存を軽減するまちづくりや、 再資源化された建設資材の使用、 環境効率の高いコンパクトな街区構造を実現することによる環境効果を、 ライフサイクルの環境負荷削減として定量化するツールは用意されており、 環境容量を具体の都市環境政策に反映するために有効な手段となる。

 主要な参考文献
     ・Graedel, T. E., Allenby, B. R共著、 後藤典弘訳『産業エコロジー』トッパン、 1996
     ・藤田他「建設物の製品連鎖マネジメントによる環境負荷削減効果の算定」『環境システム研究全文審査部門論文集』vol. 28、 印刷中、 2000。
     ・藤田他「都市集積地区から派生するライフサイクル二酸化炭素の評価の都市マネージメントへの展開についての考察」『環境システム研究全文審査部門論文集』vol. 27、 pp. 355〜364、 1999。
【藤田先生は急用のため当日は欠席されます。 】

左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

フォーラムトップページへ
JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ