もともとあのデッキは消防法上の避難通路になっていて通行を妨げる私有物は置いてはいけない共用空間なのですが、 住まい手参加で設計を行っていくうちに要望を受け入れてああいう設計になりました。 当時、 どうするかを建設委員会で話し合ったのですが、 私的な空間ではなく緊急時には人が通るのだということを納得してもらったうえで、 デッキを張り出すことになったという経緯があります。 つまり、 鳴海先生がご指摘になった通りの「共用空間の私有化」がすぐに起こってしまったわけです。
この403住戸は他の入居者から見ると、 うらやましい部屋です。 NEXT 21は南側の一番気持ちの良いところを立体街路にしているのですが、 この部屋だけが南側空間を私的な空間として使えるからです。
やはりルールブックを住人だけで決めていくのは危険です。 回遊性よりは自分の家の前のベランダの方が大事だということになって、 4階以外の階も回遊性がなくなってしまうかもしれません。 ですから、 住人以外の公的機関がうまく介入していく必要があるのではないでしょうか。公と私がからみあうNEXT 21の居住実験
大阪ガス 加茂みどり
皆様ありがとうございました。 では今までのコメントやご質問について、 私なりに感じていることも含めてお答えしていきたいと思います。
「共用空間より私の空間を広く」の
まず鳴海先生が指摘された403住戸「ハーモニーの家」の南側デッキの使われ方についてです。 立体街路の評価を入居者にアンケートで答えてもらったことがあるのですが、 その時4階の満足度が圧倒的に低いという結果になりました。 5階と3階は回遊性があって誰もが回れて良いという雰囲気なのですが、 4階だけはご指摘のとおり403住戸の入居者から「囲ってしまいたい」という要望が出て私用に使われることになったのです。
要望をどうするか
住人だけにルールを任せたら
自由な住み方によるルールブックとオーナーが決めるルールブックがあると田端先生からご指摘がありましたが、 私が思うに、 もしNEXT 21のルールブックを住人だけで作っていたら、 おそらく立体街路はもっと狭くても良いということになっていたと思います。 歩ける道が広いのは良いことですが、 自分の家の広さを犠牲にしてまですることはない、 自分の家はやはり広い方が良いと思うのではないでしょうか。 ルールブックの変更が入居者だけで決められるとしたら、 最大外壁線も簡単に変更されてしまいそうです。
SI住宅が定着しにくい要因
SI住宅がなぜまだ社会に定着しないのかを考えると、 結局頭では良いと分かっていても、 いざ自分の問題になったとき「百年先のまちなんて考えていられない。 なぜそんなことにお金を出さなくちゃいけないのか」となっていくところが難しさだろうと思います。 結局、 住環境や住宅を良い方向にしていきたいという意志がみんなにある一方で、 それが私的な判断のみに左右される場合は、 良い方向にいかないことになると感じています。
4階平面図 |
東ウイングの部屋ですと朝日は入って西日が入らないし、 南に面しているから快適なんです。 反対に402住戸「すこやかな家」は北側の西ウイングですから、 西日が入るうえに北側で寒いという条件です。 それをプランニングで明るい部屋にしていますが、 売りにくいですね。
303住戸「自立家族の家」 |
ですから、 誰が何のためにお金を出してつくるのかが明確になってないように思うのです。 もう少し一般的に分かりやすいようにした方が良いように思うのですが。 今は、 多分、 その方向で動いているのかもしれません。
それと、 スケルトン住宅にすることで建設コストが高くなった分、 公的機関が補助することが必要だと思います。 百年住宅のスケルトンにしたら構造部分の建設コストは3割ほど高くなると言われています。 構造躯体は建築費用の半分を占めますので、 全体のコストは15%ほど高くなるそうです。 その15%分は優遇されないのかと思ったことがあります。 優遇する代わりにスケルトンの性能や、 ルールブックをしっかり作って立体街路の幅員を確保するなどの方法を考えられないのでしょうか。 これはガス会社が考えなくても良いことなのかもしれません。
いずれにしても、 私的都合だけを優先してしまうとあまり良くない結果になるような気がします。
法規的には、 NEXT 21は大阪ガスの建物であり、 共用部分・私用部分も一筆で不動産を持っているという形態です。 それがこの実験を成立させているひとつの鍵だったかもしれません。 これがもし区分所有法のもとで分譲されるとすれば難しい問題が多々出てくると聞いています。
また、 意識としては社宅ではなく実験施設であり、 入居者は実験に参加しているのだというストーリーが成立しており、 それも含めて全部大阪ガスのものなんだと言えるので、 『逃げられる話』が多かったのかもしれません。
住戸の面積も、 リフォームするたびにどんどん変わっています。 それも実験住宅だからこそ出来たのだろうと思います。 自分の私的空間を共用空間として供出するわけですから、 普通の住宅ではありえない話だろうと思っています。
コミュニティの問題にしても同じ会社の人だけが住んでいるコミュニティから得られる知見を一般化するのは難しいという気がします。 また、 いろんなライフスタイルの住宅を作りましたが、 おそらく日本人全体を10種類に分けたとしたら、 その中のほんの1、 2種類の人だけをめざして多様と言っているに過ぎないでしょう。 そういう意味では社宅だからこそできた、 あるいはだからこそ限界があったという両方の感想を私は抱いています。
ただし、 おおむね評価が良い中で、 NEXT 21の真隣りとエコロジカルガーデンの真向かいにあるお宅の評価はさんざんでした。 「NEXT 21ができたせいで虫が増えた」「落ち葉で樋がつまって困っている」と極端に悪い評価です。 これは前のセミナーでも申しましたが、 屋根の改修工事もこちらの費用でさせてもらいましたが、 関係は良くなることもなくNEXT 21のイメージは悪いままです。 何かにつけて「近くのゴミ置き場が汚い」などのクレームをちょうだいしております。
普通の住宅のすぐ近くにこうした立体緑地を持つ集合住宅を建ててしまうと、 確かに管理が大変なんです。 やはり住人自身が自分の住環境なんだと自覚してもらわないと難しい問題が出てくると実感しています。
周辺の評価をまとめて言うと、 街の中に緑が増える分、 まあまあ評価されているといったところでしょうか。
実験は社会に寄与できるか
佐藤さんが言われた「得られた知見をどう社会に寄与させるか」については、 まだまだ扱い切れていないというのが正直なところです。 このプロジェクトの結果が社会に寄与することになれば、 それ以上の喜びはないのですが、 今は居住実験をしてそのデータを取っているというレベルにとどまっています。
社宅だからこそできたし、
丸茂先生がおっしゃった「社宅だが、 一般的に使えるデータにした方が良い」というご指摘にも、 この実験では答えきれない部分があるかもしれません。 居住実験をしていて感じるのは、 社宅だからこそ成り立つし、 社宅だからこそ限界があるということです。
社宅だから限界があった
NEXT 21の評判
続いて、 田端先生からのご質問である「周囲の評判はどうか」についてお答えします。 以前、 NEXT 21の周辺住宅400軒にアンケートを配布して「この建物は好きか嫌いか」「緑地はどうか」と尋ねたことがあります。 7割の人が回答を寄せてくれたのですが、 それによるとおおむね良い評価を得ていることが分かりました。 特に縦方向に植栽があるのが皆さんの印象に残っているようです。 下に緑地が広がっていることよりも、 縦方向に緑が見えることの方が印象に残りやすいということだろうと思います。
202住戸「Tepeeの家」 |
以上、 皆様のコメントに対しとりとめのない話をしてしまいましたが、 何かご意見がございますでしょうか。