イタリアの景観デザインと商業政策
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イタリアの商業政策

消費者不在、 政策不在だったイタリアの商業政策

改行マークここで、 イタリアの都市商業政策(マルケティング・ウルバーノ)を紹介しておきます。 イタリアも日本と同じように近代化が遅れた国です。 特に小売商業の近代化が遅れました。 日本も同様ですが、 問題はあまりに多くの伝統商業が残っていることです。 21世紀にもなろうかというときに、 小売商業は未だに家内工業です。 親子代々やっている小さな店を、 なぜ我々が守らなければいけないのかと常々私は不満に思っています。 たまたま親がそこで商売していたからといってなぜ保護する必要があるのでしょうか。

改行マークイタリアでもそんな伝統的な家内工業としての零細商業がたくさん残っていたのですが、 急速に駆逐されていったのが60〜70年代です。 この頃、 都心は空洞化して町中は荒れていたし、 スペイン広場のような美しい所にも違法駐車がびっしり並んでいました。 とても買い物がしたくなるような雰囲気ではなかったし、 裏町で生活していた人たちも大概の人が高齢者を残して郊外のアパートに引っ越していきました。 そんな中で小売業は次々とつぶれ、 今スペイン広場界隈には肉屋1軒、 八百屋1軒しかありません。 もちろん逃げる必要のなかったお金持ちはまだ住んでいますが、 そういう人たちはフィリピン人のメイドに遠くまで買い物に行かせています。

改行マークさて、 小売がつぶれてしまった後はどうなったか。 70年代に入ってから、 そうした空き店舗にグッチやフェラガモなどの高級ブティックが入ってくるようになりました。 そして現在へ至っています。

改行マーク商業におけるこのダイナミックな動きを誰かが誘導したかというと、 そんなものはありませんでした。 イタリアの産業政策において、 商業政策は忘れられていたのですから。

改行マークイタリアでは事業者の権益を守るために、 デパートが出店するときに既存の商業者との間で商業調整をする法律が戦前からあります。 60年代にスーパーマーケットが進出した時には、 それを規制する商業調整もありました。 しかし、 それは間違った政策でした。 なぜかと言うと、 日本の大店法もそうなのですが、 消費者の利益を全く無視していたからです。

改行マーク都心の衰退は商店を圧迫する大店法にあると言う人もいますが、 地元の商店街が強くてスーパーが進出できないと、 その地域に住んでいる人はスーパーなら安く買えるものを商店街で高く買わなければいけなくなります。 例えば電池をスーパーで買うと一ヶ月持つのに、 商店街の電気屋だと一週間しか持たないといわれます。 あまり売れないから古いものを売っているからだそうです。

改行マークそういう不便さを消費者に押しつけるのが、 今の商業政策だと言えるでしょう。 こういうことを言うと「いや、 商店街は地域のコミュニティの支えだ。 地域の発展に役立っている」という反論が出てくるのですが、 それとこれは別です。 消費者を無視していては長続きしません。 ですから日本でもまちづくり三法ができ、 消費者を無視した政策はやめようという動きになってきました。

改行マーク消費者を無視していた点では、 イタリアも同じです。 たしかに完全な自由競争を進めると、 生活はとても不便なものになったのかもしれません。 しかし、 一方でその市場原理を有効に使って、 都心を世界有数のショッピングセンターにしていこうという配慮があったのも確かです。


EU統合と規制緩和の流れ

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20 新聞記事「ローマのショッピングマップが変わる」
改行マーク写真20はローマのレ・ポブリカという新聞の95年の記事です。 見出しは「ローマのショッピングマップが変わる!」。 ローマ市の商業局長が出した新しい商業政策についての記事で、 若者が集まるような通りを作ろうという目的でハードロックカフェ、 プラネットハリウッドなどの新しい店の出店を認めようというものです。

改行マークしかし行政が出来るのは許認可だけで、 誘導はできません。 ドイツやフランスだと行政が市営の建物に商業床を持っていて商業を誘導するのですが、 ローマ市には自前の商業床はなく直接コントロールできないのです。 その代わり、 商業局長のバックにはグッチやフェラガモなどのブランドがついています。

改行マーク高級ブランドが嫌がるのは雰囲気が違う店が近所にできることです。

改行マーク実際にあった話なのですが、 別に変でも何でもないヴェネトンが出店しそうになると、 「あそこのビルはピンクショップに貸すらしいぞ」というとんでもないデマがグッチやフェラガモサイドから流されたらしいのです。 そこでビルのオーナーは、 あ、 この契約はまずいんだなと気がついて、 「どうも回りの反応が良くないので断りたい」と言うわけです。 ヴェネトン側にすれば裁判に訴えることもできるのですが、 やはりそんなことで裁判にするのは嫌ですから、 お金でうやむやにしたりしています。

改行マークこんな風に、 商業者同士の調整が働いているのです。 そんなことに市役所の商業局長が手を貸していいのかという問題もありますが、 こういうドロドロしている独特の自主規制があるのは確かです。

改行マークではどのレベルで商業政策が決まっていくのかについてですが、 国の商業法と州の商業法、 自治体の条例という3つの枠組みがあったのですが、 やはり時代の流れで規制緩和は避けられそうにありません。 ローマのように厳しい商業調整をやっていない街でも、 やがては商業者同士の調整の是非が議論になると思います。 また、 広告物や看板の規制も、 規制緩和の対象になってしまうかもしれません。

改行マーク幸いイタリア人は、 規制緩和は経済活性化の問題であって、 歴史的市街地の保存とは別の問題だと言います。 ただ、 歴史的市街地の厳しい規制は商業者同士の競争をとても分かりやすいものにしてきた、 と私は考えています。 歴史的市街地で商売をするときは建物や看板が規制されますから、 そういったもののデザインで競争する必要がなくなるのです。 歴史的建物の良さをどう引き出すがというかなり狭い範囲の選択をするだけであり、 それに合った商品を並べ、 それに合ったサービスでお客を引きつけられるかが勝負になるのです。

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