イタリアの景観デザインと商業政策
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まちづくり制度の各国比較

DAN計画研究所所長 吉野国夫

 

改行マーク今日の資料は、 今年の2月に『福岡商工会議所欧州視察団』のコーディネーターとして渡欧した際の報告書の抜粋ですが、 これをもとにコメントしてみたいと思います。

資料:多様な個性発揮で活気づく欧州ラテン系都市

改行マーク今回の渡欧はイタリア(ローマ、 フィレンツェ)、 スペイン(バルセロナ)、 フランス(パリ)の中心市街地の現場を見ることが目的でした。 また、 1年前の2月にアメリカ東部のBID(ビジネス・インプルーブメント・ディストリクト)の主なケースを見る機会がありました。 半年前には、 イギリス・ドイツの都市再生の現場を見てきましたし、 今日のテーマであるイタリアのまちづくりと他都市の比較をしてみるのも面白いかと思います。


アメリカの制度(BID)と
それをモデルにした日本のTMO

改行マーク欧米の中心市街地活性化で、 一番進んでいるのはアメリカの制度です。 各市ごとにいろんな組織があるのですが、 ゆるやかなものから地区に税金をかけて環境整備や警備、 プロモーションまでするという本格的な組織まで様々に存在します。 テナントミックスまでまちづくりの現場では行なわれています。 そうした市街地活性化の試みがアメリカ全土で1200〜1500箇所行われているそうです。 成功しているところもあるのですが、 全部が成功というわけでもなく、 実際に見ても「これで成功か」と首を傾げてしまうところもありました。

改行マーク日本でも中心市街地活性化の目玉としてTMO(タウン・マネジメント・オーガニゼイション)を導入しました。 TMOはアメリカのBIDをモデルにしたのですが、 実に中途半端な制度になりました。 BIDで行われているような権力も権限も財源もない形の制度ですから、 導入してから1年半も経たないうちに国でも「失敗だ」と言っている人もいます。 これから成功するかもしれないと言う人もいますが、 明らかに制度を修正する段階にきています。

改行マーク欧米、 特にアメリカでは中心市街地の衰退が悲惨なところまで行き着いています。 ロサンゼルスのダウンタウンは未だに歩けない状況です。 アメリカと比べたら、 ヨーロッパの都心は衰退したといってもまだ都心空間が機能していると言えるでしょう。


EU統合によるまちづくりの変化

改行マーク今回の欧州視察では、 EUの中での都市づくりの変化を感じました。 EUではEU補助金と国の補助金、 自治体のお金をかけて都市の生き残り競争を行っているようです。 補助金では国の割合が低くなっていますので、 都市間競争あるいは都市連合を作って我が都市をPRしようという動きが目立ちました。 都市連合とは、 都市ごとにある特徴を組み合わせて(例えば歴史文化施設で有名な町と都市の利便性が高い町、 国際空港のある町などがグループを形成するなど)一緒にPRしていこうというもので、 国を越えた都市連合(スイス、 フランス、 ドイツにまたがる広域都市圏REGIOレギオ)というものも現れています。

改行マークそういう中、 各国とも都心部の再生を明快に意識した政策を打ち出しています。

改行マークフランスではロワイエ法というかなり厳しい商業調整をする法律があったのですが、 さらに厳しくする方向のラファン法が制定されました(1996年)。 それにもかかわらず、 郊外の大型商業開発がどんどん進んでいます。

改行マークイギリスではアーバンビレッジ構想(自分が住んでいる所から歩いて買物に行けるような環境作り)を押し進めていて、 本格的に都心再生へ取り組んでいるようです。

改行マークイタリアでもこれまでの商業政策は、 地区ごとに14の商品区分について店舗の出店を規制していました。 業種ではなく商品配置ですから、 より厳しいテナントミックスの考え方の制度だったのですが、 こういう厳しい調整をしていたせいで、 ヨーロッパの中では最も店舗密度が過剰な国になったのです。 具体的に言うと、 ドイツが220人に1店、 フランスが230人に1店なのに対し、 イタリアでは99人に1店で、 よその国の倍以上の店があるということです。

改行マークそんな状況だったのですが、 EU全体の規制緩和の中、 イタリアも1998年1月に商業調整基本法の大改正が行われました。 内容は(1)300m2以下の出店は届け出のみでよろしい、 (2)14あった商品分類を食品・非食品の2種類のみにする、 (3)営業時間を自由化するといったものです。

改行マークただ規制緩和したと言っても、 先ほどの宗田先生のお話にあったように(噂話で店をつぶすといった)コミュニティの自主規制があるでしょうから、 実態はそれほど甘くないと思います。

改行マークこのようにヨーロッパ各国の商業政策は大きく変わろうとしています。 ただ現地に行ってみた限りではあまり大きな変化はないようで、 急速に店舗が減ったといった話は聞いておりません。

改行マークさて、 欧米の都心部商業をパターン分類してみたのが、 表1です。 各国を比べてもアメリカはやはり別格だと思います。 都心部の衰退が最も激しかっただけに、 商業マネジメントにおいては一番本格的な手法や制度を取り入れています。

 

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表1 欧米の都心部商業のパターン分類
 
改行マークその次に本格的な制度があるのは、 イギリスのタウンセンターマネジメントです。 どちらにしても、 より衰退した所ほどより本格的な制度があると言えます。

改行マークまた産業革命を一番最初に進めた都市が都心部の衰退が一番早いとも言えます。 逆に大陸の国で、 イタリアやスペインのように産業革命が遅れていた国は、 都心部の衰退は緩やかだと言えます。 これは民族の違いもあるのかもしれません。

改行マークでは、 続いて最近ローマを訪れた時のスライドをお見せして、 私なりの印象をお話ししたいと思います。


最近のローマの印象

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高級ブランドが並ぶコンドッティ通り
改行マーク高級ブランド店が並ぶコンドッティ通りです。 たしかに、 世界ブランドの本店があるのですが、 歩道も車道もアスファルト系で街路環境整備面では何の工夫もないと私は思いました。 世界中の観光客が訪れる空間としてこれでいいのかと、 みなさんにうかがいたいところです。

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ハードロックカフェ(ヴェネト通り)
改行マーク97年の新しい商業政策で、 スペイン階段の東側ヴェネト通りを若者向けのカジュアルな通りにしようということになりました。 その政策の象徴的な店舗が、 この「ハードロックカフェ」の誘致です。

改行マークヴェネト通りで面白いのは、 車道側に沿った歩道にレストラン、 バー、 キオスク的な店といろんな業種を出店させていることです。

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ヴェネト通りのプラネットハリウッド
改行マークヴェネト通りには写真の店のように、 ちょっと何屋か分からないような怪しい店(よく見るとプラネットハリウッドという若者向けの有名店)横手には坂道があり大きな階段もあります。 これも看板規制の結果なんでしょうか。

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トラステヴェレという中世の職人町
改行マークこの写真は、 最近のローマを歩いていて一番楽しかった通りです。 トラステヴェレという中世の職人町で、 いわゆる下町の風情があり、 お店もそんな下町の良さを持った店が並んでいます。 ローマにもこんな所があるんだなと思いました。 けっこう、 観光の穴場になっています。


「行きたくなる商業ゾーン」に必要な要素は何か

改行マーク中心市街地の活性化について、 先ほど井口さんは商業活性化というより文化のシンボルゾーン作りをするべきだとおっしゃいました。 確かに来てもらうのが商業の立場で、 行きたくなる街のひとつの解として文化のシンボルゾーンがあろうかと思いますが、 「行きたくなる商業ゾーン」というのもひとつの解としてあると思います。

改行マークその「行きたくなる商業ゾーン」をTMOでつくろうとしたのですが、 TMOの制度には財政的な裏付けがないのです。 中小企業庁の様々な高度化事業の枠組みにしても建設省の制度にしても、 市街地活性化のための新たな財政的な裏付けはありません。

改行マークTMOもひとつの組織ですからそれを支えるための財政的基盤が必要なのですが、 既存の商店街組織を残したまま新たにTMOを作っている状況ですので、 誰がお金を出して誰が利益を受けるのかという図式があいまいなままスタートしているのです。 うまく運営していけない状況にありますので、 今後どうしていけばいいのかという議論が盛んに行なわれています。

改行マーク私はTMOという形を固定的に全国一律に考えるのではなく、 各都市で自由に枠組みを作っていけばいいと思っています。 その場合、 既存の商店街組合や組織をまとめてそれをTMOとしていくとか。 おそらくもう、 1都市1TMOでないとだめとか、 TMOはこうあるべしと国が指導していってもうまくいかないと思っています。

改行マーク福岡に唐人町という商店街があります。 そこは今、 再開発でとても面白い動きをしています。 法定再開発ではなくて、 建設省の優良建築物等整備事業という制度を使った開発ですが、 ひとつ完成して、 今は二つ目、 三つ目が動き出しているところです。 小さな商店街の中で、 再開発が連続して起きようとしているのですが、 それを動かしている組織がユニークなんです。 商店街組合、 非組合、 それぞれの事業組合などがあり、 これからの事業のあり方で参考になると思っているところです。

改行マーク以上で私のコメントを終わります。

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