大きくはアメリカと欧州という区分がある。 世界の流通システムの最先端実験地と言っても過言ではないアメリカであるが、 都市中心部の空洞化が最も強烈に進んだ国でもある。
'90年代に入って、 人々が歩ける街、 商店の並ぶストリートを再生しようという取組みが全米各地で本格化した。 とりわけBID(ビジネス・インプルーブメント・ディストリクト)という地区再生のための特別区を設けて環境整備からテナントミックス、 プロモーションまで、 まるでショッピングセンターの運営に似た方法で街をマネジメントしようという制度が定着(約1200地区)して成功したケースも増えてきた。
これがわが国の中心市街地活性化法におけるTMO(タウン・マネジメント・オーガニゼーション)のモデルとなったことは衆知の通りである。 流通システムの最先端が郊外において強烈な過当競争を招き、 それが新たな業態を発生させるという状況の中で、 都心が郊外に勝つためには、 都心にしか実現できない買い物環境、 歩行者空間を創り、 しかもマーチャンダイジングにおいても郊外と違うものを提供する。 これはやはり、 世界で最も進んだ都心部活性化の手法だと思える。 しかし、 それが歴史的、 文化的背景の異なる欧州や日本で通用するのか。 というと否と言わざるを得ない。
しかし欧州は広い。
今回訪問したイタリア、 フランス、 スペインという国は米英ほど都心の衰退が厳しくなかったし、 歴史的な街並みを保全しながら、 路面型の独立専門店が中心の商店街を維持してきた。 ラテン系特有のおおらかさ(パリは少し違うが)を有している。 まちづくりという観点から見ると、 英独が相当進んでいる。 これは、 ゲルマン人的発想なのかよく判らないが、 とにかく、 問題を計画的、 制度的に解決していく。 そのためにとことん都市整備の手法を厳密化し、 ドイツでは建物一つ一つのデザインまで自治体が計画図に描いていくというところまでやっている。 イギリスはどちらかというとプロジェクト開発が主流だが、 第3セクターによる事業化、 最近ではエージェンシー制度、 PFIなどの事業主体やエンタープライズゾーン、 チャレンジ・ファンド制度など具体的な収支に結びつく手法がやはり徹底している。 わが国は各国の良い所をつまみ食いするのだが、 どうも中途半端な印象をぬぐえない。
商業政策についてはどうか。
大きく、 大型店舗の規制という側面と都心部の商店街活性化施策という観点がある。 大型店規制は、 米英独のゲルマン系では都市計画として規制する方式、 仏伊などでは商業調整法によって規制し、 独には閉店法という商業規制があるなど欧州全体で商業のコントロールはかなり厳しいのが実状である。 とりわけ仏では1973年のロワイエ法をより厳しくしたラファラン法(1996年)を制定するなど、 実態的に止まらない郊外の商業開発をとことん押え込む動きがある。 (その結果、 仏の大手流通企業は日本に進出して郊外開発をやるというおかしな現象もおきている)英でも1996年にPPG (プランニング・プログラム・ガイダンス)の中で大型店舗の出店は中心市街地へ移行させるように定め、 '97年のブレア政権もアーバンビレッジ構想(自分が住んでいる所から歩いて買い物に行けるような環境作り)※1を発表し'99年夏には小売店舗一般の設置について既存の都心を優先させるよう政策として明確に打ち出すなど※2、 都心を再生し、 国際競争力のあるものにしていくとう流れが完全に定着してきた。
しかし逆に、 EUの競争の中でそれまで保護されてきたが由に競争力の弱い都市の活性化を図る動きもある。 それがイタリアである。 今回の視察で始めて知ったことだが、 伊は欧州でも隋一と思える都市の商業配置を定める商業網開発・調整計画(商業計画)制度をもっている。 これは都市の地区毎に14の商品区分毎の店舗配置を定めるもので、 自治体当局者がまるでショッピングセンターのマーケティング・ディレクターのような存在となる。 しかし、 こうした官僚の計画は結果的に既存店の保護につながり、 欧州で最も店舗密度の過剰な国(人口99人に1店、 独―220人、 仏―230人)となってしまったことから、 1998年1月に商業調整基本法の大改正が行われた。 これは実に大胆なもので(1)300m2以下の商店の出店が届出だけで良い(2)14あった商品分類が食品、 非食品に集約(3)営業時間の自由化など、 一気にEU内でも最も規制のゆるい国となった。 個人的には、 人口当たりの店舗数が多いからといって、 それが即、 流通の近代化の遅れや、 都心の衰退と結びつくものではない、 と思っているので、 この法改正がどのような結果をもたらすか大いに注目したい。
スペインは今回、 バルセロナしか行ってないので国の話はできないが、 伊以上に歴史的な街並みや遊歩空間の素晴らしい地であり、 英独仏などのような急速な工業化とその後の都心衰退といったプロセスから最も遠い国であったように見える。 中世以来、 都心は人々で賑わっていて当たり前(もちろん、 郊外化の波はあるが)といった印象である。 世界的に有名なランブランス通りだけではなく、 個性的な専門店がストリートに点在していて楽しい遊歩空間を形成している姿は、 意外と都心再生の(一周遅れの)最先端かも知れない。
今、 わが国が進めようとしているTMOというコンセプトは、 このように世界でも限られた国の一部の取組みであって、 TMO万能の論議は、 とりわけ多様なわが国の都心部再生の本質を見誤らせることにもなりかねず、 今後、 十分な検討と検証を実施しつつ柔軟にやっていくことが必要だと思う。
1. 欧米の中心市街地を比較する
欧州の都心
欧州は今、 EU統合の嵐が吹き荒れている。 国という枠組みが、 そのボーダーが限りなく消滅する中で、 各国は欧州内での競争に勝ち残るための大戦争を仕掛けている。 それが国境を越えた都市間競争であったり、 スイス、 フランス、 ドイツにまたがるレギオ(REGIO)という広域的な経済連携圏(約9000km2)であったりする。 都市間競争のグローバル化の中ではっきりしたことは、 都市の個性やアピールする魅力が際立っていることが求めらているということだ。 その対象は空間的にも象徴されている必要があり、 どうしても郊外のショッピングゾーンやサイエンスパーク、 田園風景では打ち出せない。 やはり歴史、 文化、 行政中心、 都市型産業などが集積する都心部にしか創り得ないということが認識され、 各国の国土政策は明確に都市の、 しかも都心部の再生に向かって動いている。 これはもちろん、 環境問題からの要請でもあるが、 既存のストックが充実している都心部をより有効活用することによる行政投資の効率という面からも時代にふさわしいのである。 このあたりの発想は、 わが国の中心市街地活性化法の中で正しく組み込まれている点でもある。
※1 1999年2月 田中登志雄(長崎県立大)
※2 1999年11月 ブライアン・ラゲット(英国都市計画学会長)
TMOの観点からみるとどうか?。
これは圧倒的に米国のBIDが進んでおり群を抜いているが、 英国のTCM(タウン・センター・マネジメント)はわが国と比較的近い国家の枠組みの中で多様なパートナーシップを構築しているという点で大いに参考となる。 しかし、 これ以外の国で都心部の商業マーケティングを制度的にやっている国はない。 ドイツではとちらかというと都市交通や街並み景観、 環境、 福祉の視点からのまちづくりが中心である。 今回、 パリのグラン・ブールバール委員会を訪れて、 話を聞くことができたが、 詳しくは後述するとして、 これもニューヨークのブロードウェイBIDを参考にしているといいつつも、 実態としてはパリ市の市街地環境整備の域を出るものではなく、 商業マーケティングには至らないものであった。
表1 欧米の都心部商業のパターン分類
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