密集市街地整備の夢
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プレゼンテーション1

チマチマ型か起爆剤型か

アーバンスタディ研究所 森川稔

 

1.密集市街地への関心

心のふれいあいのあるコミュニティ

 まず私自身が密集市街地についてどのような関心を持っているのかについて、 3点ほどお話ししたいと思います。

 密集市街地と中心市街地は、 今日本で空間的に一番問題になっている場所ではないかと思います。 これらはコミュニティの衰退が言われるなかで、 人と人との心のふれあいが残っている空間でもあります。

 私自身が生まれ育ったのも、 どちらかというとそういう下町的な所でした。 最近歳をとってきたせいか、 心のふれあいのあるコミュニティ、 商店のおじちゃんおばちゃんと会話しながら買い物をする昔からの商店街が、 懐かしい、 いい、 と思ってきているわけです。 そういう空間が今、 衰退し、 その再生が大きな問題になってきています。 私自身が地元の中心市街地の問題に関わっていることもあるのですが、 そういう意味で、 密集市街地も私の関心の対象になっています。


地方分権・市民活動の高まり

 地方分権の背景として一つはっきりしているのは、 公共投資の減少だろうと思います。 要するに国も地方自治体もお金がなくなり、 密集市街地を整備するにも、 今までのようにどんどんお金を入れるということは出来なくなっています。

 一方、 「お父さんの自治会デビュー」という言葉があるように、 私も今年の4月に地元の自治会にデビューしました。 自分のコミュニティを見直し、 自分のまちのために活動するということを始めたのですが、 そういうコミュニティへの回帰が、 一つの流れとしてあると思います。

 このような市民活動の広がりに見られる「共」によるまちづくりへの取り組み、 すなわち自分たちの手によっていかに改善していくかということが、 この密集市街地では大きな問題として問われているのだろうと思っています。

 そんな流れを受けて、 都市づくりに対する考え方もまた変化してきています。 兵庫県も「人間サイズのまちづくり」と称して、 効率性・利便性・画一性から安全・安心・魅力のまちづくりへ、 それも手作りでつくっていこうという方向に踏み出しています。 この手作りでつくっていくまちづくりが、 まさに密集市街地で問われていると私は思っています。

 地方分権や市民活動という流れの中で、 密集市街地をどうしていくべきかが、 二つ目の関心事です。


実現の方策は?

 しかしながら、 先ほど難波さんのお話にもありましたが、 そう簡単に密集市街地は動いていかないという現実があります。 そのなかでどうやって市街地整備を実現していくのかが、 私の3番目の関心事です。

 


2.私の視点

 作品を見るにあたって、 私は「人と人とのふれあい」のあるまちを、 「共」(人々の連帯)が中心になって、 いかに再生させていくかという視点から見させていただきました。

 具体的には、 一つは整備を可能とする技術的手法(整備手法)です。 これについては一団地認定であるとか、 インナー長屋制度であるとか、 あるいは連棟の場合の二重壁構造など、 技術的なことがいろいろと提案されており、 私自身たいへん勉強になりました。

 二つ目は、 コミュニティの継続を含め、 人々が活き活きと暮らすことができる社会的・空間的工夫です。

 密集市街地は、 単に空間的に整備すればいいということではなく、 そこに今までつくられてきた人と人とのふれあいであるとか、 そこでの人々の生活が活き活きと継続していくための社会的あるいは空間的な工夫がないと、 再生は無理なのではないかと考えています。 そういった工夫としてどういったものが提案されているか、 という視点です。

 三つ目は、 それを実現していくための仕組み(まちづくりシステム)です。 要するに「共」である、 そこに住んでいる人々が中心になって、 いかにまちをつくっていくかという、 そのための仕組みづくり・システムづくりとしてどういった提案がされているかということです。

 この3点を中心に

の5編を取り上げさせていただきました。

 


3.具体的な作品の検討として

チマチマ型(40番)と起爆剤型(18番)と

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40番「『住み続けながらつくる、 住み続けられるまち』づくり」(藤川敏行ほか)
 そういった視点で、 五つの作品を見たとき、 特選になった40番の作品は、 建替による更新の時期を限定しないで、 建替の時期が来た所から少しずつやっていくという手法をとっています。 それまで出来てきた、 この地区が持っているまちの文脈や下町的な雰囲気を大事にしながら出来る所から出来る時に少しずつ変えていきましょうという提案です。

 個別修復積み上げ型というタイプでは、 全作品のなかでも大変良くできている、 細かいところもよく詰められている作品で、 絵そのものを見ても下町の持っている良さが伝わってくる作品です。

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18番「協棲の街」(入口嘉憲ほか)
 18番の作品は準特選にあがっています。 「協棲のまち」というタイトルで、 中心となる街区を一気に大きく建て替えてつくっていくという発想の作品です。 言うならばスクラップ&ビルド型に近い案です。

 この40番の作品と18番の作品がある意味で非常に対比的な作品なのです。 かたや個別修復型で少しずつ変えていく、 それまでの文脈を活かしながら少しずつ変えていくという案と、 18番の思い切って大胆に変えていくという案です。 これは多分どちらも密集市街地の改造案としてはあるのだろうと思います。 最終的にどちらをとるかを決めていくのは地域の住民です。 ですから、 地域の住民が何を望んでいるのかということが、 ここで問われなければならないと思います。

 このコンペそのものは、 地域の人が何を望んでいるのか、 居住者はどういう年齢層かといったことが事前に示されていませんので、 こんな鬱陶しいまちは嫌だからバサッと変えて欲しいと考えておられる、 と仮定して提案されているのかもしれません。 しかし、 もし具体化していくのならば、 次のステップとして、 地域の住民が何を望んでいるかを踏まえていかねばならないでしょう。

 さらに安全性などへの対応も考えねばなりません。 密集市街地は、 火災などへの安全性が問われているわけです。 そういう意味では40番の作品は大丈夫かと不安を覚えます。 これについてはこの図録についている「コンペを振り返って」という座談会で作品を出品された方も口にされていましたが、 緊急車両の進入等を含めて40番の作品の気になる点です。

 さらに実現可能性も問われるだろうと思います。 本当に実現していけるのかということです。

 ですから地域の人が何を望んでいるのか、 安全性への対応はどうなのか、 実現の可能性はどうなのかと、 その辺の三つくらいのポイントから、 少しずつ変えていく案なのか、 思い切って変えていく案なのかが決まってくるのだろうと思います。 また、 案を進めていくためには、 地域の人が自分たちのまちをどう変えていくのかという学習をすることが必要になるだろうと思います。


どちらが実現可能性が高いか

 実現可能性とは、 要するに整備の戦略・戦術です。 座談会の記録を見ていてとても興味深かったのは、 18番の作品を出された方が、 「起爆剤がなければまちは動きません。 チマチマやっても仕方がない。 そういうことで、 (18版番の案は)実際は一番実現性がある案ではないかと思っています」とおっしゃっていたことです。 このチマチマ型は正に40番のことを指しているのではないかと思いました。

 私自身は40番のチマチマ型の方が実現性が高いんじゃないかと思っていたのですが、 やはり起爆剤的にドカンとやらないとまちというのは変わっていかない。 この作品を出された方の事務所は、 あちこちの密集市街地の整備を手がけておられますので、 経験に基づく話ならば、 説得力があるのかもしれないとも思ったわけです。

 このチマチマ型と起爆剤型の実現の可能性については、 私は良く分かりません。 ただ、 密集市街地と中心市街地の関連で言いますと、 例えば中心市街地であれば、 再開発をドカンとやって、 そのまちが生き返った例は、 あまりないのではないかと私は思っています。

 今必ず話題にのぼる滋賀県の長浜市は、 まさにチマチマ型でやってきたまちで、 何か大胆に起爆剤的なものをドカンと建てて、 それにつられて周りが動いていったというまちではありません。 本当にチマチマしたことをジワジワやってきて、 それがだんだん味が出てきて賑わいが出てきたというまちです。

 商業ゾーンと住宅地を一緒に語るのは無理があるかもしれませんが、 私自身は下町とか密集市街地独特の良さ、 あるいは手作りの味の良さなどを考えるとチマチマ型の方が良いし、 その方が実現への戦略としては説得力があるように思えるのです。 その辺の実現への戦略というか戦術としてどうなのか、 またその後つくっていくまちの将来像も含めて、 チマチマ型と起爆剤型どちらがどうなのかは、 少し議論していく必要があるのではないかと思います。 その辺が40番と18番の作品について、 私が思ったことであります。


「まちづくり会社」によるまち経営

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31番「みんながまち経営者」(吉田寛史ほか)
 31番も入選作品ですが、 「みんながまち経営者」というものです。 これは住民が自分たちでまちをつくり変えていく「共」によるまちづくりを考えていく場合、 どういうまちづくりシステムがあり得るのかという非常に具体的な案を出されている作品です。 要するにまちづくり会社をつくっているのですが、 この案の面白いところは、 まちづくり会社が自己財源をつくるために路地につくった駐車場を経営しようと提案している点です。

 路地に駐車場をつくるというのは、 せっかくの路地が車だらけになってしまい、 引っかかるところもありますが、 財源確保は大変重要ですし、 実現できれば素晴らしいと思います。


高齢者にいかに活躍してもらうか

 私が四つ目に取り上げたのは、 20番の「火付けの『ろ』組」という作品です。

 これはまちづくりシステムあるいは社会的空間的工夫がどうなっているかという視点で取り上げた作品です。 地域の高齢者の方で『ろ』組という組織をつくり、 古材を活用しお風呂を沸かして銭湯にしようというものです。 古材がそんなにあるとも思えませんが、 仕組みとしては面白いと思います。

 密集市街地に限らず高齢者に活躍して貰うということは大事なことです。 しかも活躍して貰ったことに対してお金を払うのではなく、 銭湯券を渡すという、 いわゆるコミュニティマネー(地域で循環するお金)を出すというシステムを提案している点も面白く、 取り上げさせていただきました。


住民による自治管理

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46番「穏やかで、 自主的・自然発生的にたたずまいを更新継続できるまち」(寺田高久ほか)
 最後に私が取り上げたのは、 46番の「穏やかで、 自主的・自然発生的にたたずまいを更新継続できるまち」という作品です。 今回のセミナーのタイトルが「密集市街地整備の夢」でしたので、 夢のある作品を一つは選びたいと思い、 選んだ作品です。

 これは今まで地域の中心の道路だった部分を芝生にし、 地域のみんなで自由に使える空間にしましょうという大胆な案です。 芝生のところでは、 ゲートボールをやったり、 地蔵盆をやったり、 映画会をやったりと地域のいろんな活動ができ、 こういう場所が密集市街地のなかに整備できたら本当に面白いし、 楽しく、 夢があると思ったわけです。

 ただ、 現実的な事を考えると、 緊急車両は通しますとは書いてあるんですが、 本当にいざという時に緊急車両が通れるだろうかと疑問に思います。 また、 ここで一般交通を遮断してしまうと周りの道路にかなりの負担がかかってしまいます。

 また、 一番問題になるのは、 維持管理の問題です。 たぶん勝手に車を駐車する不行き届き者も、 ゴミを捨てる輩もいるでしょう。 あるいは木の管理なども含めて、 本当に維持管理は大丈夫だろうかと思います。 この維持管理を地域住民組織で出来たら、 本当に素晴らしいものになるでしょう。 まさに地方分権に相応しい夢があるということで、 取り上げさせていただきました。

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