密集市街地整備の夢
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

プレゼンテーション3

新しい人々をいかに招き入れるか

寝屋川市・都市建設部・萱島整備課 三崎信顕

 

1.密集市街地との関わり

 私は現在寝屋川市に籍を置いておりますが、 大阪府の職員です。 現在は2年間の派遣で来ております。 密集市街地整備については、 関わったのが1年ちょっとという状態ですので、 まだまだ素人というところです。 元々は住宅政策関係に携わっていました。 特にシルバーハウジングや府営住宅の建設など、 高齢者や障害者の住宅供給などを長年やってきております。 ここ3年間は都市計画部局におり、 用途地域の設定や地区計画の指定などの仕事に携わっておりました。

 大阪府の密集市街地には、 高度成長期に出来たかなり密集した地域があり、 それをどう改善していくのかが重要な課題です。 これまで密集市街地市街地整備はどちらかというと住宅政策系の事業として位置づけられてきましたが、 阪神・淡路大震災以降、 大阪では防災面を中心として都市計画系の事業として位置づけられることが多くなってきております。

 それでは実際に私がやっている業務を踏まえ、 その視点から、 今回の課題地区を捉えてコメントさせていただきたいと思います。

 


2.対象作品と主な提案内容

画像mi03a
3番(竹内徹)
画像mi17a
17番「いえは街、 まちは家」(山田正司ほか)
 対象作品について、 私がこれが魅力的だと感じた作品を簡単にあげさせていただきたいと思います。 まず一つ目として3番。 この作品は立体道路や緑のネットワーク空間、 そういう路地裏空間を緑とからめながら整備していこうという提案です。

 それから「いえは街 まちは家」という17番の提案です。 これはソフト面の提案がかなりされています。 高齢者が多いことから、 生活支援施設やデイサービスセンターなどをやっていこう。 その担い手としてはボランティアやNPOを考えているというものです。

 それからまちづくり会社による共同建替として、 定期借地権による提案をしています。 これは他の提案にもありましたが、 ABO方式です。 すなわち元々土地を持っている人が第三者に貸して、 そこに自分も借家人として住み、 余剰床については市町村に借り上げて下さいという提案をしております。

画像mi46b
46番「穏やかで、 自主的・自然発生的にたたずまいを更新継続できるまち」(寺田高久ほか)
 46番の「穏やかで、 自主的・自然発生的にたたずまいを更新継続できるまち」では、 かなり具体的な整備手法が提案されています。 一つは密集市街地沿道形成型ミニ区画整理事業です。 これは中央線を公共的施設(緑地)と位置付け、 市が買収することにより減歩ゼロで整備しようというものです。 いわゆる密集法の権利移転計画や沿道整備型の街路事業で権利移転をして、 芝生の空間をつくっています。

 それから不整形街区密集型一団地認定の提案(これはいわゆる公庫型の一団地認定とどう違うのか、 読み込みが足らないのかわからなかったのですが)もなされています。

画像mi65a
65番「風呂屋のあるまち…、 路地のあるまち…」(赤坂誠治ほか)
画像mi67a
67番「サスティナブルコミュニティ」(久野道夫)
 それから65番の「風呂屋のあるまち…路地のあるまち…」です。 この作品の特徴としては、 駐車場や倉庫を集約して、 できるだけ車を排除している点です。 また、 背割り部分を利用した路地の再生・ネットワーク化が提案されていますが、 これについては他の作品にも共通している事項かと思います。

 こうした路地空間については、 町並み誘導型地区計画で背割り部分に地区施設を設けなさいという神戸市のマニュアルがあって、 それをうまく使ってやっていると思います。

 次に67番の「サスティナブルコミュニティ」です。 これは建替方式・住戸プラン・協調建替の全てについて、 サスティナブル(持続可能性)をキーワードに提案がなされています。 住戸プランでは、 他の提案にもありましたが、 例えば世帯ニーズが変化したなかでも対応ができるようフレキシブルな提案がなされています。

 


3. 私の視点

課題地区の認識

(1)民間ベースの改善が図られていない
 私は家が近いこともあり、 現場を見させていただきました。 感想としては衰退している感は拭えず、 民間の投資が全くなされていないように思いました。

 私も同じ様な密集市街地である萱島地区を担当しているのですが、 萱島では戸建てやワンルームマンションなど民間が地主として入って、 結構自立更新しています。 それに対してこちらの方は、 震災後にできたものは確かにあるんですが、 空き地のまま残っていたりする土地も目につき、 その他についてはどうも不動産価値というか魅力性がかなり低いのではないかというのが私の観点です。

(2)都市構造上隔離されている
 それから都市構造上、 神戸に近いわりに認識度が低いように思います。 私も2号線はよく通るのですが、 沿道沿いにわけのわからない建物が並んでいて、 地区としての表に向いた顔のようなものがこの地区はないというのが二つ目の観点です。

(3)戦前長屋が多いが、 持家より借家が多くなっている
 それから三つ目として、 地区の権利関係を見てみますと、 借家の長屋が結構あるんです。 借家ですから当然地主さんがいらっしゃるわけで、 またその地主さんは1棟だけ長屋を持っているわけではなくて、 例えば200mとか300mを持っているはずです。 ですから更新後もわざわざ接地型にして長屋を継承していくのかどうか。 どちらかというと一体として使って出来るだけ共同化し、 細分化させないようにするのが良いのではないかということです。

(4)コミュニティがどの程度温存されているか
 四つ目として、 ここのコミュニティが本当に温存されているのかという問題があります。 萱島でも長屋住宅が結構あります。 それも高度成長期に出来た長屋なので、 こちらの戦前長屋とは違うんですが、 路地的な空間があり、 結構緑化されています。 手入れもきちんとされ、 花が咲いて、 子どもも遊んだり、 洗濯物が干されたりで、 生活の匂いがするんですが、 どうもここの長屋はそういうものが感じられない。 寂しいというか本当に人が住んでいるのだろうかという感じさえします。

 ですから、 ここのコミュニティをどう捉えるのかが、 問題意識としてありました。 従前コミュニティがこの地区にとってどうなのか、 どちらかというと新たなコミュニティをつくっていくことを重点的に考えた方がよいのではないかと感じました。


整備の方向として

 そういった基本的認識を踏まえた個人的な見解なんですが、 できるだけ新しい人を入れて新たなコミュニティを中心に整備の方向を考えていくべきではないかと思います。 その時の視点として、 従前の方への配慮・高齢者の方への配慮は当然必要ですが、 配慮の仕方として長屋をそのまま補償するのが良いのかが問題です。 むしろ、 神戸市さんの場合は民間や公団からの借り上げを精力的になされているので、 そういう細かい対応で従前の方にもできるだけ地域に住んでいただいて、 もともとあった所については新しい人を入れてコミュニティをつくっていくのが良いのではないかと思っております。

 借家長屋のところについては、 先ほど申し上げた通り、 細分化せず共同住宅を建設すべきではないかと考えています。


整備手法について

(1)コンペ当時と比較すると
 整備手法については、 具体的で夢とはあまり関係がないのですが、 ここでは簡単にどういう問題意識を持っているかを紹介します。

 まずコンペ当時に比較して、 連担建築物設計制度が導入されたこと、 つまり建築基準法86条2項でいうところの既存建築物を含めた形の一団地認定ができたことがあげられます。 それからこの2000年6月に国会を通りましたが、 隣地側に壁面線の指定等がある建築物の建ぺい率の緩和が制度化されたということ。 しかし神戸市では、 以前から地区計画を指定した場合、 街区単位の角地適用を行っているので、 あまり意味はないのですが、 それとは別に建築基準法の改正がなされたということです。

(2)3項道路(路地協調型)について
 それから二つ目に、 いわゆる3項道路(路地協調型)についてなのですが、 これは普通は幅員4mのところを2.7mでいいのではないかという制度です。 これについては大阪府や大阪近辺では、 こんなことでいいのか、 やはり4mが原則ではないかという議論があります。 その議論についてはここでは詳細は申しませんが、 先ほどの法律上でできた建ぺい率緩和の話とあわせて、 やはり4mは確保して建ぺい率を緩和すべきではないかという個人的意見をもっています。

(3)街並誘導型地区計画(街並み協調型)について
 また三つ目として、 街並誘導型地区計画についてです。 背割り部分の地区施設として、 路地裏空間のような形で今回も色々提案されていますが、 地区施設に位置づける必要はないのではないかと思います。 専用庭で採光や通風の意味で空間を確保するくらいがちょうどよく、 むしろその方が誰もが使える路地裏空間より安全ではないかと思います。

 


4. コンペ作品を通して感じたこと

 私がコンペの作品を通して感じたことを少しお話ししたいと思います。

 一つ目にはデザインコンペである本コンペで、 課題設定の時に細かい条件を決めることは仕方がないのですが、 その結果、 全体的に同じ様な提案になっている印象を受けました。

 二つ目として路地裏空間を本当に存続させていくのかということです。 私は新たに外から人を入れるためには、 この路地裏空間は閉鎖的で近寄りがたい空間でマイナスであると思います。 ですから路地的な空間を残すとともに、 表に発散するような住宅形式も必要です。 行政が一から十まで出来るわけではないので、 コミュニティの存続に期待しても不可能で、 結局外から人を呼び込まないとなかなか難しいのではないかということです。

 ましてまちづくり会社についてはどこから資金を集めてくるのかということが大切で、 その辺を意識したまちづくり計画を考えていく必要があるのではないかと思います。

 三つ目については、 先ほども申し上げましたが、 地区の分かりやすさが重要な視点です。 これによって防犯上の観点からもよりよいまちづくりができるのです。 ですからこの点で背割り部分の緑道などはあまり好ましくないと思っています。

 四つ目として中央線についてです。 中央線は確かに俯瞰的に見た場合、 都市計画道路からの位置として、 また二つの都市計画公園を結ぶ防災のバッファとしてはかなり良い位置にあると思います。 しかし、 実際に地区をみると、 あの空間は提案をもとに色々整備しても、 周辺からはあまり評価されそうにありません。 地区の人たちにとっては良いかもしれませんが、 せっかくきれいな空間にするのであれば、 周辺にピーアールできるような、 例えば2号線に開かれた地区の玄関口をつくるとか、 車に乗っていても見えるような地域の顔にできたらと思います。

 その点、 コンペの課題設定で示された中央線のあり方自体に事業の実現性や魅力という面で問題を感じます。

 実は私の担当している萱島でも京阪沿線沿いに共同建替をした住宅があり、 京阪の電車から見て「ああきれいな住宅だな。 あそこに住んでみたいな」という若者が結構いて、 問い合わせが来るんです。 ここの場合は高速道路からはあまり見えないにしても、 せめて2号線から地域の顔が見えるような雰囲気にしたら、 もう少し地域のポテンシャルが上がってきて、 利便性が活かせると思います。

 


5. 密集市街地について思うこと(夢)

どこまで行政が係わるべきか

 私自身、 行政の立場で関わっていますので、 基本的には建築基準法や都市計画法で一定のまちづくりの誘導をやっていくべきだと思っています。 例えば今回の地区のように歴史的経緯から既存不適格などの歪みがあったり市場性がないなどの不経済を起こしたりしている場合は、 行政が積極的に手を差し伸べて、 それを改善していかねばならないと思います。

 しかしそれ以上の、 例えばコミュニティなどの問題について、 行政がどこまで顔をつっこんで、 それを活かしていくべきかが疑問です。 当然地域活性化のシステムづくりは我々の仕事としてやっていくべきだと思いますが、 それ以上、 どこまでやっていくべきなのかが、 常々考えているところです。


さまざまな顔をもつ密集市街地、
それぞれの整備方法を

 私が担当している萱島地区は高度成長期に建った文化住宅や長屋住宅が結構あるんですが、 他の地区でも一口に密集市街地と言っても色々な顔があって、 混在しているまちもあるかと思います。

 またそれぞれの地権者の方や、 借家人もいらっしゃいますので、 どの方のお話を聞いていくのか。 例えば借家人でしたら、 借家法のこともありますが、 地主さんの意向も大切だと思うんです。 例えば協議会をつくった場合、 地主を入れるのか借家人を入れるのか、 それとも借地人を入れるのかと悩むことが往々にしてあるわけです。 本当に誰のためにまちづくりをやるのか、 それとももう少し高い視点で行政はこうあるべきだとやっていくのか、 その辺のことを議論する必要があると思っております。


地区の人々と共に
整備に携わる人も夢を持ち続けたい

画像mip01
東大利地区パンフレット(表紙/寝屋川市)
 最後に寝屋川市で現在密集事業として取り組んでいる東大利地区についてお話ししたいと思います。

 神戸市では、 改良住宅などの全面買収型で市が経営したり公団が経営したりしていますが、 東大利地区は民間の共同建替です。 ですから民間の家主さんに「こういう建替をしませんか」と我々がお願いして、 地区を再生しております。 これは行政がお金をかけてやるよりも大変で、 思いの違う借家人に「こんなまちにしましょう」と朝晩持っていって、 怒鳴られながらもやってきたところです。

 実際に建替わって皆さん喜んでおられるんですが、 地区ができるにあたって、 私の今の上司である担当者が「この地区はこうしなければ」という思い(夢)をもってやってこられたことが大きな要因であったと思います。 地権者の意向を必ず聞く必要はあるんですが、 同時に実際にまちづくりをやっている人間のポリシーがないと、 なかなか密集事業は続かないと思います。 これも10年かかっています。 その10年間、 組織上持続的に取り組める体制を組めたことが、 事業が成功した大きな要因だろうと思っております。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ