行ってみたい大阪・船場
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

 

13 船場再生への空間ボキャブラリー

 

 ここから空間ボキャブラリーとして、 空間整備に関わるアイデアをいくつか列挙したいと思います。


(1) 街路のネーミングによる存在感の強化

画像img076
図45 街路のネーミングによる存在感の強化
 まず、 都市のスケルトンとしてのみち空間ですが、 船場の基盤となる街路の形状は秀吉の城下町の町割りに起因しています。 これを船場の大きな資産として生かし、 まちのアイデンティティを強化するために、 街路をナンバリングすることを提案します。

 なぜかというと、 数字や記号は誰もが理解できる単純さを持っており、 新しいイメージを醸成しやすく、 また、 国際化や情報化にも対応しやすくなると考えるからです。 ニューヨークの5番街やポルシェ911、 シャネルNO. 5などはそれに成功した例だと思います。

 船場では、 東西の通りの土佐堀通を1stストリート、 南北の筋の上町筋を1stアベニューとします。 これにより例えば三休橋筋は16番筋、 平野町は7番通となります。


(2) まちなみを活性化する多様なファサード

画像img077
図46 まちなみを活性化する多様なファサード
 みち空間そのものは変化しにくいものですが、 みちに面する建物の表情が変化すれば、 みち空間にも変化を与えることができ、 みちが都市生活の表現の場となるのではないでしょうか。 都市の多様な活動がファサードに表現されることが、 都市に活力を与えると思います。


(3) 船場建築線空間の活用

画像img078
図47 船場建築線空間の活用 ―船場の貴重なストック
 ファサードに可変性を持たせたり、 みち空間の立体化を行うにあたって、 活用できそうなものが船場独自の貴重な都市ストックである「船場建築(後退)線」です。 船場建築線は前面道路幅による容積制限の緩和など、 様々な役割を担っていますが、 最も重要な機能は歩行者空間の確保にあると考えられます。

 現状の建築後退部分は必ずしも歩きやすい空間とはなっていませんが、 ここを連続した歩行者空間としていくとともに、 思い切ってその上空利用を図ってはどうかと考えました。 上空に通路を造り、 周辺の建物との連携を図ることにより小スケールを生かしながらまとまった空間の利用も可能にすることを提案します。 実現できれば、 他にない船場独自の新しい都市構造になります。


(4) 足元に公共性の高い空間を導入

画像img079
図48 足元に公共性の高い空間を導入
 建築後退部分を歩きやすい空間にするだけではなく、 建物の足元空間にはカフェやギャラリー、 店舗などの公共性、 文化性を持った機能を導入し、 まちに活力を与える場として有効に活用したいものです。 実現するには、 スポンサーの参加やネットワークの輪を広げていくことが必要ですが、 そういった活動が「持続するまちづくり」につながる筈です。


(5) 歩ける都市の復権と建物同士の豊かな関係

画像img080
図49 歩ける都市の復権と建物同士の豊かな関係
 街区内での路地やボイド空間はスケルトンとインフィルの中間的な空間であり、 ミッドスケルトンと位置づけられます。 都市の魅力は建物と建物の間の空間にあり、 本来はプライベートな空間である街区内においても、 公共性、 社会性を供出し、 連携し合うことでまちに深みや面白みが与えられます。

 現状の船場は大変歩きにくいまちであり、 歩いて楽しいまちとすることが再生の基本の一つでしょう。 ここでは敷地間の連鎖によって徐々にみち空間が街区内に浸透していき、 通り抜け空間が生まれることでパリのパサージュのように、 回遊性、 選択性のある歩きやすいまちとなることを目指しています。


(6) 連続性の立体化

画像img081
図50 連続性の立体化
 みち空間の街区内への浸透化は、 単に平面的にだけではなく、 立体的にも発展させたいものです。 建物同士を上層階で連結するなど、 建物同士の連携を立体的にネットワークすることで、 今は空き室が多い船場の建物のポテンシャルも高められるのではないでしょうか。


(7) アーバンインフィル―空地空間

1.空き地ロストスペースを活用
画像img082
図51 空き地ロストスペースを活用
 都市の中において、 各々の建築敷地内は変えることが最も容易な、 変わりやすい空間です。 にもかかわらず、 現状はこの空間すら更新されにくい状況であり、 その沈滞がひいては都市全体の沈滞を招いていると言えます。 成熟したはずの既成市街地ですが、 実際には都市活動に貢献していない、 実質的に高度利用が図られていない実に多くの空間が存在しており、 ここではそれをロストスペースと位置づけました。

 都市にとって余白は大切なものですが、 まちに貢献しないロストスペースはそれとは違います。 今はまちにとって不必要な面白くない余白がいっぱいあるのです。 これらロストスペースを仮設的、 暫定的であってもうまく活用し、 都市を使い続け、 常に変化を加え続けることは都心再生の一つの鍵となります。

 ここではまちなかに存在する様々なロストスペースを抽出し、 その活用アイデアを提示しました。 ロストスペースの最たるものが単なる空き地です。 これらは事業負荷のかからない仮設的建築や、 期間を限定した暫定的建築などによって、 有効活用したいものです。

2.公開空地ロストスペースを活用
画像img083
図52 公開空地ロストスペースを活用
画像img084
図53 空き室ロストスペースを活用
 公開空地についても、 中には人を寄せ付けず、 まちへの貢献度が低いものが見られます。 もちろん何もないからっぽの空間、 緑の空間そのものにも価値はありますが、 オープンカフェ、 キヨスク等でもっと活動的に都市に貢献させたいものです。

3.空き室ロストスペースを活用
 御堂筋や堺筋などの幹線道路沿いでも空き室が見られる現状ですから、 一筋奥に入れば数多くの空き室がロストスペースとして存在しています。

 その多くは狭小で老朽化しており、 機能的にも更新されておらず、 その活用は非常に困難です。 しかし、 例えばみち空間の立体化やネットワーク化ができれば、 機能更新の契機となって新しい価値を付加することができるのではないかと考えました。

4.屋上ロストスペースを活用
画像img085
図54 屋上ロストスペースを活用
 屋上も活用されていないロストスペースです。 ペントハウスや屋上庭園などはありきたりなアイデアですが、 その魅力的な例はあまり多くありません。 魅力的な活用例が広く認知されれば、 連鎖的に魅力的な空間が生み出される可能性を秘めています。

5.隙間を活用、 6.駐車場上部を活用
画像img086
図55 隙間ロストスペースと駐車場上部ロストスペースを活用
 建物と建物の隙間の空間をうまく活用することは、 先の(5)項で提案した通り抜け空間のようにまちを魅力的にする大きな力を秘めています。

 また船場では現在、 暫定も含めて駐車場として利用されている空き地が数多くありますが、 その上部に仮設の床をつくり、 空中広場として開放することができれば、 多くの広場空間が生み出されることになります。


(8) 仮設的なフレーム建築による可変性

画像img087
図56 仮設的なフレーム建築による可変性
 ここまではインフィルのうち、 空き地空間について述べてきましたが、 建築空間についてもいくつかのアイデアが考えられます。

 その一つがフレーム建築という仮設的な建築の考え方です。 先のロストスペースを活性化するためにも、 変容を停止している都市に流動性をもたらす仮設的な建築を挿入することが考えられます。 この建築は都市活動に応じて増殖・変容・消去を繰り返す仮設性、 流動性を持ったものであり、 こうした建築がまちを揺り動かすことで都市の活性化を促すのです。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ