ワイルド・ニューヨーク
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3。 クリーン・ニューヨーク

 

ワイルド・ニューヨークの制圧と文明化

 グローバリゼーションを進めると、 「都市をきれいにしなければならない」ということが課題とされます。

 というのも、 ツーリストの落とすお金が都市経営の核心になっているからです。 彼らが落とす金は、 10年前に比べてものすごい勢いで増えています。 だからクリーンにしなければいけないわけです。

 ご存知かと思いますが、 70年代のニューヨークは物騒で危ない所だったのですが、 今は当時に比べると危なくなくなり、 汚い所も無くなってきれいになりました。

 地理学者のニール・スミスは「アメリカはワイルド・フロンティアの文明化によって国を創ってきた」と言っています。 どんどん西へ行って、 フロンティアが無くなってしまって、 次にどうしたかというと、 都市の中が野蛮化しているじゃないか、 それをフロンティアに見たててもう一度文明化しよう、 それが都市再開発なのだと言っています。

 そういうワイルドな部分を文明化していくことによって、 グローバルな都市を創るという戦略が出現したわけです。

 この方向性をはっきり出したのが1994年に市長になったルディ・ジュリアーニです。

 ヒラリーに対抗して国会議員選挙に出るや出ないやと言ってた挙句に、 いろんな事情で選挙は降りてしまいました。 もうすぐ政治家生命は終わってしまうと思いますが、 とにかくこの6年間にニューヨークをガラリと変えた男としては、 歴史に残ると思います。

 どういう事をやったかというと、 一つは先ほどお話したタイムズ・スクエアの再開発です。

 タイムズ・スクエアから42丁目までの一帯は、 歌舞伎町をもっと危なくした感じで、 ポルノとドラッグのエリアでした。 そこをきれいにしなくてはいけないということで大再開発をやって、 今はディズニー・カンパニーが進出しガラっと変わりました。

 ジュリアーニは、 ニューヨークのど真ん中をポルノ・ドラッグエリアからディズニーへと変え、 クリーンにしたということです。


ポリス・ストラテジー

 それから、 犯罪を半分以下に減らしました。 今は東京の方が犯罪率が高いという感じです。

 どうして半分になったかというと、 警官を倍にしたのです。 ニューヨーク市のポリス・デパートメントの予算が倍になり、 住宅局は半分になっている事からもわかるように、 ジュリアーニが一番重要視したのは警察行政です。

 これはニューヨークだけの傾向ではなくて、 世界の大都市を見ていると、 都市計画と警察行政の関係は非常に密接になってきています。

 要するにグローバリゼーション、 あるいは「ツーリスト都市」を創ろうというときに、 ポリス・デパートメントとアーバン・プランニングの部局がどういう関係を持つかが重要になっているということです。 例えばゾーニングを決定するときに警察部門が口を出すという事が一般化してきています。 その辺は知っておく必要があると思います。

 ニューヨークではどういう事になったかというと、 まず街頭警官が倍になりました。

 それとホームレスが10万人いるのですが、 彼らをマンハッタンから一掃しました。 10年前ではマンハッタンのいたる所でホームレスの姿を見かけましたが、 今では一人も目に入りません。

 この問題について、 ジュリアーニは「路上に暮すという事は違法行為である」と主張して裁判を試みています。 今の所は負けていますが、 それでもとにかくマンハッタンの公共空間、 パブリック・スペースからはホームレスは絶対に排除するという方向性です。

 警察はホームレスのデータベースを作って追跡するという事をやっています。 あるいは、 地下鉄にホームレスが多いのですが、 「貴方のお金をホームレスに与えるな」というキャンペーンをやって追い出しにかかっています。

 また「トンネル・シャンティ」では、 トンネルの中に万単位の人が住んでいます。 シャンティというのは南米のスラムの事です。 日本でも「もぐら人」というタイトルでこれについて本が出ていますが、 そこに警察を投入してシャンティを破壊するということを一生懸命やって大論争になっています。


バトル・パーク

 ニューヨークの公園も非常にきれいになりました。 ブライアント・パークという、 ど真ん中の気持ちが良い公園がありますが、 実はそこは10年前はニードル・パーク(麻薬の針が散らばる公園)と呼ばれていて、 麻薬常習者やホームレスが一杯住んでいました。 それを駆逐したのです。

 あるいはトンプキンス・スクエア・パークでは、 警官隊が投入され、 住んでいた300人くらいの人が駆逐されました。

 またニューヨークに行った方はご存知だと思いますが、 ワシントン・スクエア・パークはホームレスやゲイ、 大道芸人に開かれた空間でした。 バンドもずっとやってるといった感じで、 かなりアナーキーな公園として有名だったのですが、 今は監視カメラがずらっと並んで、 勝手な事はできない状況になっています。

 今現在、 ほぼ全ての公園に監視カメラが設置され、 ホームレスは完全に駆逐されています。


アメリカン・アパルトヘイト

 さてこのような状況について、 どういうことが言われてるかと言うと、 ニューヨークにはいろんな名前がついています。

 MollenkopfとCastellsが言った「デュアル・シティ」は、 一つの都市が二重になってるというものです。

 あるいはWillsonが言った「アンダークラス」。 これは階層(クラス)じゃない階層という意味です。 階層は上から下まで繋がっていて、 低階層であっても上に連続している、 上に上がれる可能性があるという意味で階層という言葉を使いますが、 そこから切れた「アンダークラス」が存在するということです。

 またアメリカの中のアパルトヘイトという言い方をした「アメリカン・アパルトヘイト」というMasseyとDentonの本がすごく売れました。 Peter Marcuseが言ったのはニューヨークには「アウトキャスト・ゲットー」(追放されたゲットー)が存在するということです。 あるいは「サード・ワールディング」(ニューヨークの中の第三世界化)と言い方があります。

 それからSmithの「リバンチスト・シティ」。 これは直訳すると“復讐都市”となりますが、 ジュリアーニが新自由主義のもとで社会主義者、 環境保護活動家、 フェミニストなどに復讐を開始したのだという捉えかたです。

 このように、 グローバリゼーションによって厳しい状況が生まれ、 またグローバリゼーションのためにニューヨークをきれいにしなければならないという事から、 さらに軋轢が生まれていると言えます。

 それに対してローカル・グループがどんな反応をしているかという事を、 次にお話したいと思います。

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