ワイルド・ニューヨーク
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4。 アフォーダブル・ニューヨーク?

 

 ニューヨークをアフォーダブルにできるかどうかという事で、 いろんなグループがいろんな事をやっています。


(1)コミュニティ開発

 コミュニティ・デベロップメント・コーポレーション(Community Development Corporation、 通称CDC)というノンプロフィットのデベロッパーがあります。 住民が理事会を創って、 プロを雇って非営利組織(NPO)を創り、 デベロッパーとなって街づくりをやろうとしています。

 今現在、 ニューヨークにこういうCDCは220団体あります。 これはかなり多くて、 どの地区にも必ずあるという感じです。 またCDCの管理している住宅は5万戸くらいあります。 そんなに多くはない感じもしますが、 神戸市の市営住宅が5万戸くらいですから、 それをイメージすると、 まあまあ、 かなりあるという感じです。

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図表2 ブルックリンのCDC(セント・ニコラス)の活動の様子
 ブルックリンのセント・ニックスというグループはその一つの例です。

 彼らはコーポラティブ住宅やストックの修復事業、 賃貸住宅や持家の開発、 あるいは商業施設の開発、 コミュニティパークづくり、 さらには小さな工業団地の設置など、 いろんな事をやっています。

 オフィスは元小学校の建築、 インナーシティの人口が減って小学校が廃校になったので、 それを利用しているものです。

 ブロンクスにはMBD(Mid Bronx Desperados)というヒスパニック系のグループがあります。

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図表3 1970年代のブロンクスの荒廃地区
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図表4 MBDが建てた住宅
 写真はMBDができた1970年代当時の街の様子です。 住宅放棄が進んで「街が無い」というくらいに荒れ果てています。 先ほどもお話した「住宅放棄」の際に、 大抵の家主は火災保険目当てに住宅に火をつけてから逃げるので、 そのために街がこんなふうになってしまったわけです。

 そこでMBDが一生懸命やって、 今は写真のような家が並んでいます。 建築的にどうって事はないし、 デザインに興味ある皆さんが見たら笑ってしまうかもしれません。 けれども、 ブロンクスに住宅をつくった、 ということはたいへんな成果なのです。

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図表5 MBDの活動マップ
 図は、 MBDが街づくりとして家を造ったり、 公園を整備したり、 社会サービスをしている活動を示したものです。

 この町の中で家を造っているのはこのグループだけで、 またこの町で最も多く雇用しているのはこのCDCです。

 このような形で、 コミュニティ開発をやっているグループがあります。


(2)アフォーダブル住宅

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図表6 フィップスハウスが建てた住宅マップ
 フィップス・ハウス(Phipps Houses)というグループは、 CDCとは少し違い、 特定のコミュニティにはこだわらずに、 ニューヨーク・ベースでとにかく住宅を沢山つくろうというグループです。

 フィップス・ハウスが所有している住宅が3,670戸(11プロジェクト)あり、 他の非営利団体の8,976戸の物件を管理しています。

 つまり、 まちづくりと言うよりは、 住宅供給のグループです。

 フィップス・ハウスのほかニューセトルメントハウス(New Settlement Houses)というグループがありますが、 これらは19世紀の慈善運動から出てきたものです。


(3)インレム住宅

 アバンダンメント、 すなわち住宅放棄された住宅は固定資産税を払わないわけですから、 ニューヨーク市役所が接収します。 その接収した住宅をインレム住宅と呼びます。 一番多いときでニューヨーク市は10万戸のインレムを所有していました。

 10年前ニューヨークのインレム住宅を赤色で示した地図を市役所で見せてもらったのですが、 ニューヨークのインナーシティは真っ赤で、 ほとんど社会主義に近いという感じでした。

 このインレム住宅は、 市が持っていても仕方がないどころか、 管理負担が大変なのです。 というのも居住者がいるわけですから、 市役所は管理に対する法的な責任を持たなければなりません。 市はそんなものをいちいち持っていられないということで、 とにかく処分したいというのが本音でした。

 そこで、 非営利組織を巻き込んで、 インレム住宅を再生するというプログラムを一生懸命やってきました。

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図表7 ニューヨーク市が差し押さえた住宅(インレム住宅)の総戸数とそのうち各プログラムで販売された戸数
 例えばダンプ(Division of Alternative Management Programs)ですが、 その中身は借家人所有プログラム、 非営利組織所有プログラム、 個人・企業所有プログラムという3つから成っています。

 表中の「TIL」は、 捨てられた住宅の借家人がコーポラティブの組合を創って、 1年ほど自主管理の訓練をした後、 その物件を10ドルくらいで購入するという借家人所有プログラムです。

 ポンプ(POMP)は、 CDCなどに所有権を移転し、 修復して賃貸住宅にしてもらうという非営利組織所有プログラムです。

 このインレム・プログラムはニューヨークに特徴的な、 有名な活動でしたが、 少し残念なことに、 現在ほぼ終了に近づいています。 これはジュリアーニがこの政策をやめてしまい、 インレム住宅を競売で売り払うという新自由主義的な発想に切り替えたからです。


(4)持家所有プログラム

 ノンプロフィット・センターに、 市役所が少し補助金を入れ、 安い持家を開発するというプログラムです。

 ニーマイアという方法はブルックリンの教会がCDCを創ってやっているプログラムです。 因みにニーマイアはネヘミアの神様の名前です。 他にもいろいろあります。


(5)トランジショナル住宅

 トランジショナル住宅は、 ホームレスの母子世帯のための一時的な住宅です。 2年間ここに住む事ができ、 その間に社会サービスや、 生活再建へ向けての支援を受けられます。

 仮設住宅に社会サービスがついてもう少しマシになった感じの、 社会復帰への準備のための家で、 これも全てノンプロフィット組織が経営しています。

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図表8 ロシュマン・レーマン・ハットン・ハウス(ニューヨーク)−−母子世帯のためのトランジショナル住宅
 図はそのプランの一例です。 4、 5世帯が各寝室に寝泊りして、 それぞれに共同のダイニングとキッチンがあります。 母親が仕事で忙しいので、 一緒に住んで交替で食事当番にあたるとか、 共同生活によって社会関係を取り戻すといった意味があるようです。

 しかし何より、 家が狭いので家賃が安いというのが重要です。

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図表9 リー・グッドウィン・ハウス(ニューヨーク)
 同じ様なプロジェクトで有名なのが、 リー・グッドウィン・ハウスです。 1階にお店とか社会サービスのオフィスが沢山入っていて、 生活再建のための空間になっています。

 基準階は非常に小さい面積の居室を複雑に組み合わせてアクロバティックなプランニングをしています。


(6) SRO住宅

 SRO(Single Room Occupancy)は釜が崎の簡易宿泊所のアメリカ版、 つまり単身の低所得者のためのホテルで、 以前はニューヨークに10万戸あったのですが、 ジェントリフィケーションでどんどん無くなってしまったのです。

 これはSROがマンハッタンのど真ん中に立地していたため、 ジェントリファーが入ってきたためですが、 それに対して今では市役所とノンプロフィットがSROを保全修復して、 ホームレス用の住宅に改造しようと一生懸命やっています。

 1990年に新しいプログラムができて、 今ニューヨークの住宅政策の中心的なものの一つとなっています。

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図表10 ザ・ハイツ(ザ・ハイツ・インウッド・ホームレス機構)
 プランを見ていただきますと、 やはり共同生活型で、 共用のキッチン・ダイニングがあって、 部屋の中にはベッドだけです。

 現在このSROはサポーティブ住宅というタイプに変わりつつあります。 これは社会サービス系のノンプロフィットの参画を得て、 住宅にサービスを加えたものです。

 またSROに関して重要な事は、 SROは長い間ニューヨークでは住宅としては違法だったという事です。 つまりニューヨークの建築基準法や住居基準法によると、 SROは家の中に台所がないので、 住宅とは言えなかったのです。

 それがどうして問題かというと、 ゾーニングなどで住居地域に指定されると、 SROは既存不適格になってしまうのです。 あるいは住宅政策の補助金は一切使えないという事があります。

 そこでCDCのグループが運動して、 家の中に台所がなくても住宅だという事を訴えたのです。 日本でも、 接道していなくても住宅だとか、 いろいろ難しい問題がありますね。

 そういう法律を揺るがすような活動が背景にあって、 今現在、 ニューヨークはSROを住宅として認めています。


(7)アドボカシー

 今までの話はローカルなグループが自分でプロジェクトをやる、 というものでしたが、 もう一つ大事なのは運動的なグループの活動です。

 もう少し攻撃的というか、 プロテスト系のグループが沢山あります。

 たとえばチャイナタウンには「アジア人平等会」というグループがあります。 ここは自分たちの所でもプロジェクトをやっていますが、 どちらかというと政治活動を重視しています。 アジア人の権利を守るとか、 住宅問題に抗議するという事をやっています。

 またロワー・イーストサイドにはクーパー・スクエア(Cooper Square)というグループがあります。 ここも非常に有名なアドボカシー組織です。

 ロワー・イーストサイドは昔からヒッピーやパンク、 それからラディカルな運動家の溜まり場みたいな街で、 こういうグループが多くあります。

 やはりこういうプレッシャー運動があることが重要だという事です。


(8)ホームレス・ヴィーグル

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図表11 ホームレス・ビークル
 これも非常に面白いプロジェクトですが、 クリストフ・ウォディスコ(Krzysztof Wodiczko)というアーティストが建築家とグループを創って、 ホームレスを救済するための建築はどうすればよいかと考えて作った移動住居です。

 先ほどのSROやトランジショナルも、 建築家が一生懸命係わって作ったものでした。

 ここで重要なのは、 ホームレスの意見を聞きながらデザインしたことです。 ホームレス・ヴィーグルはまず機能的です。 移動でき、 軽金属で軽く出来ています。

 ホームレスはいつもふらふら移動していると思われがちですが、 実は荷物を一杯持っていて、 そんなに身軽ではないのです。 荷物を収納できて、 かつ人力で移動できるという点が重要です。

 さらに、 シリンダー部分は伸ばすとベッドになり、 移動時は縮めます。 先頭部分を空けて水を溜め、 そこで顔を洗ったり出来ます。 それから椅子や、 缶拾いのための収納ボックスもつけられています。

 ウォディスコはこれに「マンハッタンから出ていったホームレスがみんなこれで戻って来い」という意味をこめています。

 また「重要なのはかっこいいことだ」「ショッピングカートにロケット砲弾を載せたデザインはアメリカの消費社会と軍国主義に対するパロディだ」と言っています。

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