井口:
今話されていたことと、 先ほどの私の話は関係がありそうだと思いながら聞いていました。
もう少し割り切った言い方をすると、 アーバンデザインの仕事を空間構成と景観形成に分けて考えるなら、 私達は空間構成の方に軸足を置いている立場だと思うんです。 その時、 空間に対する明確なイメージを持っていますし、 私は加藤さんのような心境には至っていないので、 意匠にも口を出したいし、 何なら全てを設計してしまいたい。
しかし、 実際の現場ではそういうわけにはいかないし、 景観形成の段階になると他の人とのコラボレーションがむしろメインの仕事になるのですが、 本当は自分がイメージした空間をそのまま作りたいものなんです。
それをどう伝えていくか、 どうコラボレーションの仕組みに取り入れるかが大事なんですが、 いつもそれが出来ずに失敗してしまいます。 「こんなになるのだったら作らなきゃよかった」というのが、 けっこう出来てしまうんです。
加藤さんの仕事ぶりを見ていると「誰でも頑張れば出来るんだよ」と見えますが、 実際には設計者が他者のイメージとの垣根を飛び越えるのは難しいというのが実感です。 どうすれば空間構成のイメージと設計行為がうまくつながっていけるのか。 個人の力の差うんぬんより、 空間構成のイメージを継承することを常識とするプロセスが出来れば、 私達も安心して他者に次の仕事を委ねられるのですが。
加藤:
私達は井口さん達のようにオールマイティな存在ではないんです。 それとお話をうかがっていて疑問に思ったのは、 私達が設計までやってしまうと、 基本構想、 基本計画段階の作業や仕事は、 次の段階の建築デザインやランドスケープデザインの営業をやることになってしまいませんか。
要するに自分たちにとって後の段階でやりやすい構想、 計画を作って、 一気に走ってしまうというのは筋が違うと思います。
民間の事業であればそういうことも可能だろうと思います。 しかし私達の仕事は100%公共を相手にしていますから、 私達は建築設計の世界には入れないんです。 ランドスケープに比べたら、 設計者を選ぶルールが確立されているじゃないですか。 ランドスケープアーキテクトでしたら、 私達の傘下で働いてもらうことが可能です。 もっとも私達はそれをせずに、 彼等の脇で調整する仕事に専念していますが。
民間の事業を例に取ると、 槇文彦さんが20年かけて代官山の仕事を次々にやっていったことがありますが、 あれは朝倉不動産という槇さんの学校の同級生だった地主が槇さんに設計を頼んだことから始まったんです。 朝倉さんの土地に順番に建てていって、 それが評判になり代官山という街がクローズアップされましたが、 私は槇さんに「あれをアーバンデザインだと思われたら困る。 あくまで建築家の仕事で、 大学のキャンパスプランをやっているのと同じだ」と言ったことがあります。
しかし、 槇さんにとってはあれがアーバンデザインなんです。 私から見れば一人の地主さんの土地を順番に槇さんの思いで作っているだけで、 建築家の仕事です。 そんな条件だったら行政や経済の影響や多様な地権者の調整等はほとんどありませんから、 確かに建築家の思うとおり何もかもできます。
井口:
槇さんの代官山の仕事については、 私も全くそう思います。 「全部やりたい」と建築家が思うのはその通りなのですが、 じゃあ実際に建築家に加藤さんのような仕事をさせるかというと、 それは無理だと思います。 アーバンデザインにならないとおっしゃる意味もよく分かります。
私が言いたかったのはそうではなく、 建築家ははっきりとした空間イメージを持っているしそれを大事に思っていますから、 加藤さんも意匠についてイメージを持ってとことん口を出しても構わないということです。 その上で、 建築家やランドスケープデザイナーと対等に渡り合う場があって欲しいんです。 立場は違っても、 空間イメージをとことんモノづくりの現場で話し合うことが大事なんだと私も思っています。
他者のイメージとつながるのは難しい
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