これまで示した例は、 ナショナルトラストが主張している「スプロール反対」と「今ある街はどうすればよくなるか」という事例です。 またメインストリート・センターは1100近い街を支援していると紹介しました。 具体的な例として、 人口5万4千人のマンスフィールドの例を紹介しました。 もちろん成功した街だけでなく、 失敗した街もいっぱいあります。
我々はアメリカの都市問題と聞くと、 つい大都市の中心部を思い浮かべてしまうのですが、 地方都市にもこれだけ深刻な都市問題があるということを私はこのレポートで初めて知りました。 状況や都市の規模はそれぞれに違いますが、 したたかにこの問題に取り組む姿が面白くて一気に読めました。
さて、 アメリカでは都市の成長管理という概念が生まれた頃から、 アーバンビレッジ・キャンペーンなども登場し、 まちづくりを考える様々な提案が出てきました。 昨年紹介したマンチェスターの取り組みは、 フロリダのシーサイドのプロジェクトに刺激されてまちづくりを考えようとするものでした。
マンチェスターの再開発を計画したグループは、 最初に、 アンドレス・デュアニーとエリザベス・プラーター・ザイバークという人たちがいたDPZというコンサルタント事務所に頼もうと考えたようですが、 ここはかなりスター的な事務所で委託が難しかったので、 同じようなタイプのプロジェクトを行うカナダの事務所に頼んだのだと思います。 このようにマンチェスターの都心を復活させる計画の検討にも、 アメリカの都市再生の知恵が活かされているのです。
次はDPZのデュアーニ氏が企画中のLiberty Harbor Northを紹介します。 レイクサイドのまちづくりで、 古い概念の街の構造をそのまま作るのが彼の一貫した姿勢です。 (これはPDFファイルなのでhttp://www.dpz.com/9901-02-Main.pdfをダウンロードして見て下さい)。
ファイルにはいくつかのパースが載っていますが、 いずれも古そうに演出されています。 こういうスタイルの街はダウンタウンにあるのだから新しく作らないで既製の街を良くして欲しいというのがモエ会長の言いたいことなんですが、 皮肉なことに新しく作った街の方がものすごく評判がいいようです。 デザインコードなどいろいろな約束ごともあり、 環境にとても配慮している住宅地ですから、 こういう所に住むと「私はとても地球に優しい」と思えるのでしょう。
現実のダウンタウンはどうなるのかというジレンマはありますが、 アメリカのプレゼンテーションは随分前からこういうスタイルになっているようです。 「古そう」というのが、 今の新しいまちづくりの特徴です。
ファイルの9ページ目にその街のメインストリート(Liberty Avenue)の様子が載っています。 既存の街にもこういうストリートはあるのですが、 わざわざ新しく作っています。
ニューアーバニズムの展開
古くて新しい街の提案
では、 今のアメリカの新しい住宅開発はどんな流れなのかをホームページやカタログから見ていきます(ホームページについては記録ではリンクを貼っています。 時間がたつとなくなっているページもあるかもしれません)。
The Lakelands
これは湖の畔に建つLAKELANDSという住宅の宣伝です。 最近こうした手法が流行っているようです。 アメリカのまちづくり運動の一つでもありますが、 どちらかというと新しい住宅開発のモデルです。 「環境にやさしい」と売り出しています。 初期の頃の様子です。
The Lakeland's Community
同じLAKELANDSの紹介です。 マーケットプレイスだと思うのですが、 プレゼンそのものをとても古そうに作っています。
Highland's Garden Village
別の住宅地Highlands' Garden Villageの宣伝です。 田舎町のような団地をわざと造っています。 このような街は「ニューアーバニズム」で検索していくと、 いっぱい出てきます。
a New Old Neighborhood Chapel Hill
A New Old Neighborhood in Chapel Hillというタイトルがスゴイと思ったので取り上げてみました。 「教会の丘にある新しくて古い街」です。
Southern Village
その中で紹介されている地域の地図を見ると、 囲み型の古い街のスタイルをとっています。
Southern Village
売り出し中の家々です。 Single-family homesが売り出されていますが、 これは一世帯用の独立住宅のことです。 クリックすれば間取りや値段が出てきます。 どの家も「おいしそう」に作っているようです。
最先端コンサルタントの提案とは?
SEASIDE
SEASIDEはDPZが手がけてとても有名になった住宅です。
コンサルタント達
DPZのホームページには3人のコンサルタント達の写真も載っています。 真ん中の人が多分アンドレス・デュアーニ氏です。 左の人はおそらくアーバン・デザイナーのジェフ・スペック氏でしょう。 どういう街を作りたいかはナショナル・トラスト会長のモエ氏とも共通しているところはあるようで、 「スプロールが広がるとアメリカの夢は消えてしまう」と主張しています。
A SENCE OF PLACE (villagetannin)
彼らの仕事のスタイルを見ていると、 JUDIのメンバーがよく使う言葉と共通している部分が多くあることに気づきます。 A SENCE OF PLACEという住宅団地の開発プロジェクトの1ページ目を見ると、 「私達の作りたい街はこうだし、 参加するみなさんもそれを応援してもらいたい」と書かれています。
住宅団地の紹介
次のページを見ると、 作りたい街の様々な要素が9枚の写真で紹介されています。
ヴィンセント・スカリーのコメント
ヴィンセント・スカリーは建築の先生ですが、 この人にコメントを寄せてもらっています。
雑誌での紹介1(ARCHITECTURAL RECORD)、 2(TIMEほか)
この街が建築雑誌で取り上げられると、 即座にそれも宣伝に利用しています。 なかなかやるもんだと思います。 こうした利用は、 日本でももっとやってもいいと思います。
Summary of Declaration Provisions and Tannin Codes
これが、 この街のアーバンデザインやこの街の魅力を作る基礎になっている宣言文で、 このコードを守ってまちづくりをしていくということです。 面倒くさいことも多いのですが、 よく組み立てられていると思います。
Town Codes
その中で決められているタウンコードには、 アセスメントやコベナント(契約)などについて定められています。
The Codes
そのコードがだんだんと細かくなって、 制度的なもの、 デザイン的なもの、 建築的なもの、 通りのタイプが決められていきます。 このスタイルのまちづくりの手法は、 マンチェスターのまちづくりとして昨年報告したタウン・デザインガイドラインの手法と同じです。 つまり、 マスタープランによるまちづくりでは全体像を最初につくりますが、 ここではそういったことをせず、 道路を作るためにはどんな条件が必要かだけを示し、 後は実際にその条件にそって道がつくられてゆくことで街が組立てられてゆく手法で、 マスタープランによらないまちづくりを行なっています。
ニューアーバニズムと下町再生
図5 ニューアーバニズム論のデザイン条件(新島亜希子他による) |
UGB(Urban Growth Boundary)は先ほど紹介した成長限界線のことで、 街を拡大させないよう回りを緑地で取り囲む方法です。 TOD(Transit Oriented Development)は開発を交通機関の整備と初めから結び付ける鉄道をベースにしたまちづくりです。 TND(Traditional Neighborhood Development)は昔ながらの街並みをもっと作っていこうという考え方ですし、 地域固有の自然・文化をまちづくりのベースにしている手法です。 パブリックスペース、 歩行を促す空間、 多様性はアワニー原則でも重視されている条件ですが、 この論文ではそうした条件をこれらのプロジェクトがどこまで配慮したかを検証しようとしています。
図6 PRINCIPLES FOR INNER CITY NEIGHBORHOOD DESIGN |
この資料を見ると、 先ほど紹介したデュアニーさんのまちづくり指針と呼応していることが分かります。
まず住民参加やエコノミック・オポチュニティ(コミュニティ経済発展への機会)、 ダイバーシティ(多様性)、 近隣住区、 ミックスドユースなどが取り上げられています。 今のまちづくりの出発点はみな同じなんだということです。
次のステップの議論に進むと、 公益的な位置づけやストリート、 パブリックオープンスペースなどをどうとらえるかに触れられています。
例えば、 建築とランドスケープの基本はストリートやパブリックスペースにあるのだから、 それをどう作るかが肝心だと書かれています。 考えてみれば当然のことなのですが、 それを大真面目に取り上げることから始まっているのです。 こういう資料を見ているとどこでも基本は一緒なんだなと思わされました。
昔はジェイン・ジェイコブスが、 今はニューアーバニズムの人たちがよく言うのですが「見守っている街」=Street Communityのあるまちづくりがよく強調されています。 「住宅は自分の鏡だ(Dwelling as Mirror of self)」とも言っています。
この資料は架空の街を対象としていて、 どこか特定の街を取り上げているのではありませんが、 市民と一緒に検討することも大事だと指摘しています。 地域の特徴を生かすためには、 市民参加も大事な要素だということです。
こうしていろんなものを組み合わせ、 デザイン・ガイドラインに仕上げて整理した段階の様子です(図7〜図10)。
先ほどのコンサルタント達が考えた「古そうで新しい街」のデザイン・ガイドラインと、 下町を再生させるためのデザインガイドには、 ほとんど同じ項目が並んでいます。 昨年紹介したイギリスのマンチェスターのデザイン・ガイドラインともほとんど呼応しています。
それはこういうことではないでしょうか。 たとえば幕張のまちづくりをしたときにみんないろんな事を勉強したと思いますが、 それは幕張の街のためにだけに考えたわけではないと思います。 今ある普通の街にも応用できるものとして、 デザイン手法などを考えたのではないでしょうか。 日本の街を思い浮かべると、 アメリカのようなデザインコードが受け入れられにくいということは理解できるのですが、 ではどのような項目であればいいのかということを考える時に、 このような資料は有効ではないかと思います。
アメリカのまちづくり手法を鵜呑みにするのは問題ですが、 それを日本の事例にあてはめて再考してみると面白いんじゃないかとも思います。
今日の話は、 一昨年に私が報告した「新アテネ憲章」と昨年のセミナーで報告した「サステイナブル・アーバン・ネイバーフッド」を結びつけているのが、 アメリカでスプロール反対運動を繰り広げているナショナル・トラストだったということになるのです。 そこから、 ニューアーバニズムのデザインコードの手法とナショナルトラストの主張がうまく関係していることに気が付きました。
会長が書いた「Smart Growth 」の条件がニューアーバニズムの主張に影響を与えていることが分かって、 マスタープランや全体像を作らないで、 デザインコードで共通性を作っていくという今のデザイン論がいろんな所で有効に使われていることも知ることが出来ました。
冒頭に述べた堤清二さんの本の中にあるようにアメリカの田舎町の市民社会はアメリカにとっても大切なものなのですが、 それがスプロールによって失われようとしていること、 それに対して様々な取り組みがなされていること、 そしてもうひとつは新しいデザイン論が生まれていること、 さらにその両者に関係があることをご紹介させていただきました。
図7 近隣住区
図8 住宅は自分の鏡(Dwelling as Mirror of self)
図9 地域性を生かしたファサードのパターン
図10 デザイン・コード
このページへのご意見はJUDIへ
(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai
学芸出版社ホームページへ