近年のドイツにおける都市計画の動向
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生活者の視点で見るドイツのまち

 

さまざまな古い街並み

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オルデンブルクの古地図 
 オルデンブルクは北ドイツにある街で、 この図は1660年に描かれた古い地図です。 見てお分かりのように、 昔のヨーロッパの都市はこのように市壁で都市を囲んでいました。 壁の外は水郷をめぐらし、 都市と郊外をはっきりと分けるのがヨーロッパの街の作り方でした。 人びとはシュタット(Stadt=都市)の中に住むものとされ、 郊外はランド(Land)と呼ばれ、 両者をはっきり区別していました。

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中世の都市の街並み(ランツフート)
 都市の中はこのように家が密度高く建てられました。 きちんと計画され、 家並みも揃っています。 限られた空間に家を建てるので、 計画されたまちづくりが必要だったのです。 ここはランツフートという南ドイツの古い街ですが、 バロックからゴシックまで時代ごとに建物の様式が違うのに、 全体としては揃って見える街並みが何百年と続いています。

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近代の街並み
 産業革命後、 都市が急に拡大し始めた頃の街並みです。 ここは1890年頃に建てられました。 この頃の建物は3〜4階建でエレベータのいらない高さになっています。 しかし、 ちゃんと前庭があり、 通りにも並木が植えられ、 今でもとても環境のいいところです。

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近代の家
 この3階に私の友達が住んでいるのですが、 5部屋ぐらいのアパートで、 現在もとても住みやすい環境です。

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産業革命の頃の田舎町
 同じ頃に建てられた田舎町の通りです。 市壁に囲まれた都市の中ではなく、 郊外に自然発生的に出来た街です。 計画性がなくできた街ですので、 並木もなく自然に乏しい街になってしまいました。

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20世紀に出来た街
 これは1920年代にできた街です。 フランクフルトのレーマーシュタットにエルンスト・マイが計画した街で、 当時としては頑張って作られた住宅地です。 労働者住宅として計画されたもので、 平屋建か2階建の建物が並び、 部屋数は多くないのですが、 小さな前庭がついて、 住宅としての体裁を整えています。 家の片側には広い道路空間がとられています。

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労働者住宅の庭
 同じ労働者住宅の裏庭部分です。 各戸に長い庭がついています。 この庭は菜園にしたり鶏を飼えるようになっており、 ここで低い労働賃金を補ってもらうという発想でつけられたものです。 今でも良く保存され良好な環境で使われているようです。

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戦後の住宅地
 ダルムシュタットのラインシュトラーセに建てられた1960年代の住宅地です。 建物は道路に対して直角に建てられていますが、 これは敷地に対して効率よく建物を配置しようとしたものです。 しかしその後急速に交通量が増え、 自動車の騒音や排気ガスが奥の方の住宅の中にも入ってしまうという悪影響が出てきたので、 こんな建て方はすぐやめられました。 その後はなるべく道路に平行になるよう建物を配置しています。


今、 作られている街

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現在の住宅地(1)
 これは1980年代から90年代に建てられたダルムシュタットの団地です。 写真で見ると1棟の建物に見えますが、 1軒1軒がそれぞれ違う分譲住宅です。 Bプランに従って、 屋根の高さや方向、 勾配が決められています。 カーポートの形がそれぞれ違うことで、 家が違うんだなということが分かります。

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現在の住宅地(2)
 もう少しゆったりとした建て方をするとこうなります。 戸建てや2階建が建ち並ぶ新しい住宅団地です。 こうした新規住宅地を作る場合、 まず最初に道路や歩道、 並木が計画され、 その後に家をはめ込んでいくのがドイツのやり方です。

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団地用の道路
 今の住宅団地に通っている生活道路です。 ここで見ていただきたいのは、 電灯や並木、 歩道の取り付け方です。

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団地の中に空いている敷地
 同じ団地の中で、 敷地がひとつ空いているのを見つけました。 しかし、 この団地の詳細計画は非常にしっかりしているので、 両隣の住人もこの敷地に家が建つときはだいたいどんな家が出来るのかが分かります。 同じ高さ、 同じ幅、 同じ屋根勾配の家が出来ます。

 日本に比べると相当に厳しい規制なのですが、 この規制は住人にとっては住環境が悪化しないという安心感につながるのです。 日本はドイツとは反対で、 自分の敷地内は何をやっても自由ですが、 反面、 住宅の快適度が続く保証はないということになります。

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新しい家が建つ場合
 空いた敷地に新しい家が建ちました。 隣家と比べると色も屋根の材質も違うのですが、 規制をきちんと守って建てられた同程度のボリュームの家なので、 後ろの緑地が潰されることはありません。

 ドイツのまちづくりは最初にインフラがきちんと出来、 どんな家を建てるのかも決められた上で少しずつ街が出来上がっていくのです。

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規制はあってもデザインはできる
 フランクフルト・レイマー広場のすぐ裏にあるザール・ガッセという通りです。 ここの建物もBプランによって高さや用途がきっちり決められています。 ですから建築家の腕のふるいどころがないように思われるかもしれませんが、 規制はあってもこのようにいろんなデザインが可能なんです。


環境を買うドイツのお金持ち

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お金持ちの住宅地(1)
 お金持ちになると、 住宅を買うというより環境を買うという意識が強くなるようです。 この写真ではわりと通りに近いところに家が建っていますが、 広い林の中にあまり目立たない家が建っています。

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お金持ちの住宅地(2)
 道路が狭いのも、 この住宅地の特徴です。 あまり車が通らず、 鬱蒼としているほど緑が多い環境を買うのがお金持ちです。

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お金持ち住宅地近くの繁華街
 そのお金持ちの住宅地から歩いて4〜5分の所に繁華街があります。 路面電車も通っている便利なところです。 ここも4〜5階で高さがそろっている街並みです。 1860年頃の建物ですが、 古い建物をストックとして良く手入れしながら使っています。


厳しい規制

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ミュンヘンの街並み
 ここは7〜8階建に高さを規制しています。 ここの所有者の誰かが「お金がないから7階建に出来ない。 2階建にしたい」と言っても、 その要望は通らないのです。

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町中の広告規制について
 今まで見てきたスライドには広告があまり写ってなかったのにお気づきでしょうか。 実際、 町中では広告があちこちに散乱しないよう、 このような広告塔にまとめて掲示されるようになっています。

 郊外で広告をほとんど見かけないのは、 広告塔には建築許可が必要で、 普通の広告は大半がはねられてしまうからです。


高層ビルの扱い方

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フランクフルトのスカイライン
 ドイツでは高層ビルが建ち並ぶ都市はほとんどありません。 フランクフルトぐらいでしょう。 高層ビルを作るかどうかも市議会で決めて、 Bプランを作りながらまちづくりをしています。

 戦前までのフランクフルトは木造の建物が並ぶ非常に綺麗な街だったのですが、 戦災で大部分が焼失してしまいました。 その後、 1970年代までは高層ビルが建つことを許していなかったのですが、 このように1970年以降、 高層ビルが建ち並ぶようになりました。 当時は私達も「フランクフルトに高層ビルは似合わない」と言っていたのですが、 こんなふうになってみると、 これはこれで綺麗な風景だと思えるようになりました。

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マイン川沿いの大聖堂周辺
 ただしフランクフルトの高層ビルは、 このようなドームなど歴史的に重要な建物がある周辺では造られていません。


歩行者と車

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ダルムシュタットの町中
 ダルムシュタットの一般的な道路。 商店と歩道、 その先には路面電車と自動車が共存しています。 このような道路の使い方に注目しつつ、 次のスライドを見て下さい。

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フランクフルトのツァイル商店街
 フランクフルトの商店街ツァイル通りです。 ここの商店街も以前はダルムシュタットの道路のように、 道路は歩道+路面電車+自動車という使い方をしていました。 しかし、 プランニング次第で、 このように歩行者専用道にも出来るということを分かっていただきたいと思います。

 ただ、 歩行者専用道にしたことに批判がないわけでもありません。 商店が閉まると人通りがパッタリと絶え、 夜8時以降や日曜になるとここを浮浪者や麻薬中毒者達が占拠してしてしまうのです。 治安が悪化して良くないから1本ぐらい車が通れる道を作ってはどうかという案も出ています。

 どんな道路にしたらよいのかは、 今後もいろんな案が出てくると思います。

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買い物通り
 日本でもそうでしょうが、 買い物通りをプランする時、 歩行者専用に出来ない、 どうしても車を通さないといけない場合があると思います。

 これは車を1車線だけ通して、 両サイドには商店が並んでいる道路です。 道路もカラー舗装にして、 速度を出しにくくしました。 これだと人も乳母車も自由に道路を交叉できます。 こちら側からあちら側のお店のはしごが可能です。 私は以前は車と人が買い物通りなどで共存するのは無理だと思っていましたが、 これならなんとかやれそうだと思いました。

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ダルムシュタットからハイデルベルグへ行く道(ハイデルベルガー ランドシュトラーセ)
 路面電車が片側に通っている道路です。 路面電車を片側に寄せておくと、 少なくとも一方から降りた人は車道を横切らず安全です。 また、 注目して欲しいのは、 並木が整備された自転車道です。 並木があることで電車の路面からも切り離されていて、 小さな子どもが自転車に乗っていても安全ですし、 なかなか良くできた作り方だと思います。

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ミュンスターの駐車場【駅前駐輪場ではなかったですか】
 見ていただきたいのは、 車の駐車場を一部分カットして自転車のための駐輪場にしていることです。 自動車と自転車は同等の権利を持っていることを分からせてくれるやり方です。

 自転車のために町中にきちんと整備された施設があると、 自転車を使う人が自然に増えてきます。 そうすることで、 市内の車の数も減らすことが出来ると思います。

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ダルムシュタットの都心
 ダルムシュタットのルイーゼン広場です。 全面がカラー舗装された歩行者専用道になっていて、 歩行者もいれば自転車も走るという空間になっています。 ここには、 バスと路面電車も乗り入れています。 けっこう発着が多いのですが、 私は警笛を聞いたことがほとんどありません。 バスや電車の運転手は路上の相手が気が付くまで気長に待つという感じです。 事故がないことはないのでしょうが、 ガードレールや柵は見られません。

 この風景に比べると、 日本はあまりにも安全を意識しすぎているのではないでしょうか。 安全を表に出しすぎると、 景観や住み良さが壊れてしまうことにつながりかねないと思います。 私の実家は愛知県の一宮ですが、 そこの大江川に今では高い柵が作ってあって川で遊べないようになっているんです。 おそらく何か事故があったとき、 役所が責任をとらされないようにということなんでしょうが、 そういう発想でまちづくりを進めると街はつまらなくなってしまいます。

 ドイツの場合はそこまで徹底した安全策を採らないかわり、 人間同士がお互いの良識で街を壊さずなんとかうまくやっています。 そうしたまちづくりに注目していただきたいと思います。

 以上が生活する視点で見たドイツの街です。 では次に、 このようなドイツの街がどんな仕組みでコントロールされているのかを見ていただきます。

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