魅力ある個性的な“地域デザイン”を求めて
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

 

3。 「地域の文脈」にもとづく魅力的
かつ個性的な地域デザインの
役割とプロセス

 

 では今まで申し上げてきた「地域の文脈」にもとづくことを前提とし、 それをうまく把握し、 生かすことで魅力的かつ個性的な地域デザインを生み出していきたい。 そのことをひとつの仮説として提言します。


五つの視点

 まず、 そのために何をすればいいかを五つの視点からまとめてみます。

 (1)これまでの地域づくりの反省に立ち、 同じ失敗は避ける。

 (2)21世紀の日本は成熟的停滞期にある。

 今の日本は数十年前に比べて、 「これが買いたい」というモノがなくなっています。 それだけモノはあふれかえっているんです。 じゃあ、 何が不足しているかというと「本物」とか「本質」、 あるいは自分を充足させてくれたり成長させてくれるようなことです。 生涯学習やボランティアに自分の価値を見いだすようになっていると思います。 ですから、 同じような物をどんどんつくっても売れないし、 買いたいと思う人も少ないでしょう。

 また日本が成熟する一方で、 世界のボーダーレス化や高度情報化が進んでいます。 そうなればなるほど、 地域らしさ、 自分らしさ、 個性が大事になってくると思います。 別の言葉で言うとデジタルテクノロジーの一方で、 アナログテクノロジーがキーワードになってくるように思います。 これを意識の根底に置きつつ、 次のようなプロセスに進みたいと思います。

 (3)自分たちの足元を見直し、 それなりの自信を持つことから地域の魅力作りが始まる。 そのことに気づくべきです。

 では、 それをどういう方向に持っていくかが次です。

 (4)地域の人々に分かりやすい理念、 目標及び計画作りとデザインの方法を探る。

 別の言葉で言うと、 地域の文脈にもとづいた地域づくり、 地域デザインということになろうかと思います。

 (5)自然を含む環境との共生
 地域の文脈を探っていくと、 環境や自然も全部入ってくると思います。 ですから環境共生やサステイナブルなまちづくりも、 地域の文脈を丁寧に見ていくと見えてくるのだと思います。


地域の文脈の把握

 では地域の文脈とは、 どうすれば把握することができるのでしょうか。 それにはまず、 地域にどんな資源があるのかを発掘し、 評価することから始まります。

 文脈を把握し、 それを生かしていくプロセスを4段階に分けると、 次のように整理できます。

     
     (1)地域の文脈の把握。
     ワークショップ等による顕在、 潜在地域資源の発掘、 評価、 活用方策の検討。
     (2)地域の文脈の活用と継承による地域デザインへの協働。
     ここではみんなに分かりやすいことが大切です。
     (3)地域の文脈を継承した地域デザインの実現。
     住民、 行政、 まちづくりコンサルタント、 学識者の協働等による「魅力と個性ある地域デザインの実現。
     (4)新たな地域文脈の創出と継承への努力。
     地域住民の誇り、 まちに対する親しみが生まれる計画プロセス、 表現方法。
 
 我々コンサルタントはその動きのお手伝いをするにすぎません。 住民・行政・専門家が協働作業を進めていくことで、 全員が地域の魅力や個性を理解していくんです。 その中から建物でも造園でも自然環境でも何でもいいんですが、 地域特有のデザインが出てくると、 それが住民の親しみや誇りとなってゆきます。 それが新たな地域の文脈として継承されていくことにつながります。

 こういう流れが発展していくことが、 地域デザインには何より大事なことだと私は思います。 行政やコンサルタントだけが頑張ってもしょうがないし、 やはり住民も参加して三位一体で動いていける仕組みが必要だと思います。


五つの要素

 さて、 地域の文脈とは何かと言われれば、 私は次の五つの要素に分けられると思います。

1 地域コミュニティ
 そこで生活している人びと、 まちづくり協議会のように活動拠点をそこに持つ組織、 学校も含めてそれらの地域コミュニティがまちづくりの主体として重要な要素だと思います。

2 地域資源
 地域の自然環境、 生活環境(物的資源)、 生活・文化・歴史環境(物的資源と人的、 心的資源)、 風景・景観に関わる資源のことです。

 丹波篠山の黒豆のような特産品、 最初にご紹介した棚田やわさび畑なども点景として、 地域の文脈を伝えています。 目には見えない伝承や民話、 地名の由来なども地域文脈を構成する重要な要素です。

3 地域の課題と目標
 当然どの地域にも、 その地域が抱えている課題があります。 もちろん、 暗黙の了解としてのビジョンもあるでしょう。 地域の課題や目標をはっきりさせることも、 地域の文脈を把握する上で重要です。

4 地域づくり計画情報
 これは法規制もあれば、 行政やコンサルタント、 さらには住民有志が作ったまちづくり案もあるし、 過去の調査もあるでしょう。 そうしたまちづくりの計画情報も地域の重要な文脈要素です。

5 地域の沿革
 最後は、 今まで述べた4要素のベースになる地域の沿革です。 古代はどんな地形だったのか。 昔は湖の底だったというところもあるでしょう。 また、 中世から近代にかけてどんな歴史を持っているのか、 あるいは明治以降の町村合併などの歴史などです。 そして、 古代から現代に至るまでの自然災害、 人的災害なども含めて地域の沿革とします。

 地域の歴史と沿革は分けがたいこともあるのですが、 沿革は主に人間が存在する以前からあった土地の性格から見た要素です。 歴史よりはもう少しマクロな視点で見ています。

 

 以上の5要素から地域の文脈を把握し、 適切に評価することから、 地域資源をどう生かすのかというプロセスに進みます。 そしてどう生かせば、 地域文脈を継承した地域デザインが生まれるのかという話になります。 それを、 地域住民・行政・関係者が共有し、 議論しながら進めていき、 最終的に地域デザインがアウトプットされるという流れになろうかと思います。


継承のプロセス

画像ta033
地域の文脈の把握と継承のプロセス
 しかし、 全体をまとめて言えばそういうことになるという話ですが、 それにこだわるわけではありません。 個々のプロジェクトや課題が即地域デザインに結びつくこともあるでしょう。 最初に地域デザインの方針があって、 それを進めていってもいいと思います。

 大事なのは、 地域の住民、 関係者と十分協議しながら物事を進めていくこと。 それと、 いろんな専門家とのコラボレーションで作業が進んでいくことでしょう。 とかく専門家は独りよがりになりがちなんですが、 やはりいろんな人の意見を聞きながら、 その地域に合うデザインは何かという議論をするべきじゃないかと思います。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ