都市環境デザインの仕事
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今後の展望

 

 最後に、 これからのハウスメーカーはどうあるべきかを述べて締めくくりたいと思います。

 今後は「家がたくさん売れればいい」という時代ではなくなるでしょう。 やはり家は、 社会資産となり景観となるものが求められていくと思います。

 ハウスメーカーがこれまで蓄積した情報の中には、 たくさんのお客さんの要望があり、 かつそれと同じくらいたくさんの苦情があります。 戦後の家は急速に建てられ、 建て直されるということを繰り返してきたが故に、 ハウスメーカーには膨大なデータベースが蓄積することになったのですが、 それだけにその蓄積に立って質の良い住宅を作っていく責任があると考えています。

 特に、 20年で建て替わるような家はもう作るべきじゃないのです。 百年先のことを考えて家を作りたい。 ですから、 小学生の子供部屋が欲しいから家を建てるというのは疑問です。 百年後にその小学生はどうなるのかを考えたら、 今作ろうとする家のプランは随分変わってくるはずです。 こういうことを考えるのも、 住宅作りに関わるものの使命だと思います。

 もうひとつ考慮しないといけないことは、 時代が高齢化社会に突入していくことです。 こうした時代のまちづくりにおいて、 私は次の3つのキーワードを考える必要があろうと思います。


(1)ユニバーサル・デザインのまち

 駅から自分の部屋までの道のりがバリアフリーになることが理想です。 現実にできるかどうかを考えると、 難しいことです。 日本は雨が多い国で下足をする生活ですから、 これをバリアフリーにするのは並大抵のことではないと思います。 しかし、 やっていかねばならないのです。

 また、 厚生労働省は在宅介護をメインに考えていますが、 在宅介護を可能にするためにはそれができる家や街が必要です。 例えば、 訪問入浴の車が家に来るとき、 その車が入れるアプローチがあるか、 止めておく場所はあるか。 これには住宅の作り方、 家と道路の関係、 家の配置の仕方がとても重要なポイントになってきます。

 ですから、 ユニバーサル・デザインを真剣に考えれば考えるほど、 今までのまちづくりを反省してしまいます。 ニュータウンは、 元気な健常者のみを対象にしたまちづくりだったんじゃないでしょうか。

 お年寄りは、 慣れ親しんだ自宅で死にたいと思うんです。 その願いが実現できるまちづくりこそ、 高齢化社会に対応したまちづくりだと考えています。


(2)循環型社会に対応したまちづくり

 これはいくつかの要素がありますが、 まずは自然と共生したまちづくりを目指します。 太陽・空気・水を生かし、 自分のところで出したゴミは自宅で処理できるぐらいにしたいし、 ネギなどのささやかな食物なら自宅で作れるようにしたいと思っています。 今、 ゴミにしろ食料にしろ全て家の外に出ないと完結しなくなっていますが、 そのライフスタイルの何分の一かを自宅で出来るようにすれば、 社会全体の負担も大幅に減るはずです。 そうしたことも、 ハウスメーカーは考えていく余地はたくさんあります。

 また、 こうしたものを支える基盤としてネットワーク居住を考えています。 ライフスタイルの機能が分化し、 発達していくにつれて、 隣近所とのつきあいが少なくなっていく昨今です。 しかし、 こういうときこそ地域のネットワークでつながり、 居住していくことが求められていると思います。 IT技術も使いながら、 インフラとしてのコミュニティネットワークをどう育成していけばいいのか。 これについては、 私も新たに勉強しながら考えていこうと思っています。


(3)自己実現と地域貢献

 サラリーマンが定年を迎えると、 街の中に自分の居場所がなく、 地域に定着できないと言われています。 せっかく自分の家がある街なのですから、 自分の生活と地域が何らかの形でリンクする手法を街の中のシステムに組み込んでいく必要があると思います。 人々の生き甲斐や癒しになる空間を生み出すため、 ネットワーク居住との関係も考えながら、 ボランティア活動がしやすい街にできないかと考えています。

 今までの住宅業界では、 個々のお客さんの要望を実現することだけが仕事だと考えられてきましたが、 私はこれからのハウスメーカーの課題はお客さんがどんなつながりの中で生き、 そして死んでいくのかも視野に含めていくべきだと考えています。 大げさな言い方になりますが、 ハウスメーカーにとっては人々の生死もとらえてまちづくりをしていくのも使命ということになるでしょうか。

 今までやってきたことや、 考えていること、 理想なども織り交ぜながらお話しさせていただきました。 時間が来ましたので、 これで終わらせていただきます。

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