都市環境デザインの仕事
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行政機関でできることとメリット

 

役所という機関の特徴

 役所は特殊な機関だと思います。 市民の考え方、 生活者の目線から見たらやっぱり変なところです。

 役所のルールや理屈は、 実際役所の中に入らないと分からないと思います。 役所は、 一般的に「例外を認めない」「型にはまったことしか認めない」「非生産的なことをしている」というイメージがあります。 しかし、 それが変わりつつあります。 何故なら頑張っている人も結構いるからです。 役所といえどもそれなりに社会のニーズに対応して変化しているのです。 役所だけでなく、 どの組織でも、 組織の10パーセントの人間が実質的にその組織を動かしているといわれます。

 また、 民間と基本的に違うところは、 役所は「税金」という名目で国民から資金を徴収することができることです。 ですから、 不景気で金がない金がないといっても、 民間からすれば役所は持っているんです。 また、 役所は法律をバックに「公権力」という権力を持っています。 法律に基づくことであれば、 私たちの生活に直接関与することができます。 つまり、 役所は絶大な金力と権力を持っていますので、 一歩間違えば非常に恐ろしい組織なのです。


市役所の職員ができること

 私が役所に入って良かったことは、 なんといっても行政アーバンデザインに関われたことです。 街の全体像の検討から具体的なものづくりまで様々なレベルでまちづくりに関わることができたことと、 自分の街をこうしたいと思ったときに自分で企画、 立案、 提案して、 上司にさえ認められれば、 自分の思うような仕事ができたことです。

 役所の政策は、 市長でも助役でもなく、 実は職員が作っています。 私自身、 那覇市役所で政策をつくりました。 市長は印鑑を押すだけで、 トップダウンはあまりありませんでした。 自分が本当にやろうと思ったら、 それが政策になります。 市町村レベルでの法律に当たる条例も、 自分でつくることができます。 それで社会が動くので、 恐ろしい一面もありますが、 方向性さえ間違えなければ、 やり甲斐があります。

 二つ目は、 法律は国レベルで策定していますが、 自治体レベルでも関与できるということです。 現時点では絶対的なものに見える法律も時代のニーズにより変わるべきものであり、 市民や市町村の主体的な参画によりその発端をつくり法律を変えることができることです。 1960年の公害防止法は住民運動により作られたし、 建築基準法の総合設計制度は、 横浜市が国の許可なしに施行していた市街地環境設計制度が基になり作られました。

 また、 これまでだれも口を挟み関与できなかった河川法も、 大きく変わりました。 これまで河川は河川局のものだったのであり、 何人たりともものが言えなかったし関与できなかったのですが、 新河川法では、 河川整備をする時には市町村や流域住民の意見を聞かなければならないことになり、 市町村や市民が関与できるように変わりました。 そのうえ、 治水利水が大目的だったのが、 今では自然、 河川景観、 環境も重視しています。 これも、 愛媛県の五十崎町という小さな街の住民運動と町役場の働きが契機となって、 全国的な動きになり法律改正につながりました。 このように自治体職員の立場でも法律の改正にタッチできるという醍醐味があります。


公務員であることのメリット

 公務員は、 なんといっても自分の時間が持てることがメリットです。 私は設計事務所から市役所に入ったので、 市役所では職員が夕方5時に帰るのに驚きました。 設計事務所では毎日夜の10時まで仕事をしていましたから、 最初は「太陽があるうちに帰宅して何をしたらいいのか」と戸惑いましたが、 私の場合は、 若手職員でまちづくり研究会をつくったり、 市民と一緒にドブ川再生のボランティア活動をして、 自分を高めることをやりました。 また、 留学制度もあったので、 私も一年間カリフォルニア大学バークレー校に留学しました。 職員として勤務しながら、 大学に通っている職員もいました。

 このように、 時間もあり人材育成の環境も充実していますので、 本人さえやる気があれば何でもできます。


行政アーバンデザインの魅力

 私の話しを聞くと至れり尽くせりのようですが、 やはり何かと役所特有の問題もあり、 私のような職員は異端児であり、 そう多くは居ません。 けれども、 やろうと思えばできます。 私でも最後は課長クラスで退職することができましたし、 見ている人は、 見ています。 出る釘を打とうとする人はいましたが、 増田さんのお話のように、 外部が認めてくれます。 外部の人が会合で「市役所には中農さんという人がいるんだね」と助役や市長に言ってくれると、 無視できなくなってきます。

 また、 全国的にも、 こういう仕事をしている人は役所の中でもみんな個性派です。 全国のミーティングで一回会っただけで友達になって、 電話で情報交換もできます。 去年退職しましたが、 今でも連絡を取り合っていて、 「こんな資料ないか」といえば、 送ってきてくれます。

 21世紀は、 市民が快適に過ごし、 充実した生活を送ることができるような都市空間の質の高さが求められる時代です。 行政アーバンデザインは、 これからますます必要とされる「環境」「アメニティ」「美しさ」を高める行為です。 先ほどのお話のように、 ハウスメーカーやゼネコンの立場でもできますが、 役所が行うアーバンデザインも大変な重責を負っていますし、 できることもたくさんあります。 行政アーバンデザインにもぜひ目を向けてもらって、 個性的で美しい、 元気なまちづくりの一端を担ってもらいたいと思います。


「こだわり」をもって仕事をする

 最後に、 「こだわりを持ってください」と言いたいと思います。 まちづくりにしても、 ものづくりにしても、 こだわっていく必要があります。 こだわっていくからこそ、 まちに魅力が生まれ、 その人の個性がつくられ、 その人らしく生きることができるんじゃないかと思います。 そんな街があったら行きたくなるし、 そんな人なら会って見たくなります。 自分の人生を豊かにするためにも、 こだわりを持って頑張ってほしいと思います。

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