俎上に上げるべき課題は出尽くして多少の齟齬はあっても、 議論の展開はほぼ納得済みの段階に至っていると見受けました。 上野さんのレポートには有無を言わさぬ筋道の展開が感じられました。 私も一点だけを除いて皆様に歩調を合わせることに致します。 これ以後の議論は突き詰めればその一点に集中するのではないでしょうか。 つまり、 壁面緑化は「是」か「否」か。 そして私の好みでいえば「否」であります。 好みというだけでは聞く耳持たぬと言われるのであれば、 京都に対する敬意の表れとしても「否」であると付け加えます。
壁面緑化を「立体緑化」と言い換えて頂きたい。
勿論言葉が変われば形も変わる。
立体緑化をひとことで言ってしまえば、 内庭を含めてそっくりそのまま町家を積み上げたものをマンションにするということです。 つまり立体町家。 したがって立体内庭。 それが外からも窺い知れるデザインのマンションということです。
そのデザインのキーワードは3つです。
それを緑で覆い隠すのは文明からの安易な逃避です。 問題の所在を隠蔽してしまいます。 禿をかつらで隠すアデランスファッションです。
私達は都市において文明の最先端を苦悩しています。 そこに都市の美学があります。 禿は禿げなりのファッションを持ちたいものです(私が言うと説得力あるでしょう)。 つまり壁には壁の美学があるはずです。 *蛇足(1)参照。
ここで大事なひとこと、 地上階以外の階では鉢植えで十分だと言っておきます。
つまり緑そのものはインフラではない。 緑が置ける場所がインフラだということです。 立体緑化の場合、 緑のフレキシビリティを持つことは心情的にも技術的にも合理的な方法ではないでしょうか(屋上緑化については後述)。
鉢はいくら大きくてもかまいません。 直径2メートルくらいのものも置ける場所が欲しいでしょう。 外から窺い知れる緑のヴォリュームが保証される場所を用意します。
当然潅水設備は必要です。 フンデルト ヴァッサー(百水さん)の好きなコンピューター制御の潅水設備を利用するのも良いでしょう。 京の町家の内庭と同じくここは田舎の自然でないのですから、 町中の自然ですから、 それなりの手立てが必要なことは当然です。 そこに田舎ではない、 町の緑という独自のデザインが生まれる筈です。
ついでに言えば、 土がどこそこのとか、 植木が何やらのとかいうのは趣味的な話としては面白いけど今回取り上げる話題としては相応しくないと思います。 何やら田舎臭い故郷回帰の匂いがしていやらしい。 人工土壌のほうが立体緑化には相応しい。 蛇足(2)参照。
緑の木立は「盛り上がる」ものであって、 壁を「這い上がる」ものであって欲しくない。 ブロッコリーのようなものが家並みの中に盛り上がるのはイメージできても、 抹茶羊羹のようなものが直立するのはどうしても硬すぎる。
屋上緑化は高木も含めて考えるのが良いと思います。 そして屋上は全て緑化するというのではなく、 家並みと木立とのバランスを見事にデザインして欲しいです。
蛇足(1)市壁の存在が一般的な集落の中から都市を区分するという西洋流の都市の定義は別として、 私は町家の存在が都市を区分するという別の定義を最近思い付きました。 そこで、 何をもって町家とするかという町家の定義が今度は必要になります。
町家とは戸境壁があって道路に直接面する家屋である。
つまり壁を共有して家屋が連続し、 道路に面して家屋のファサード(壁)が連続する、 そのような町並みの存在するところが都市であるということになります。
蛇足(2)過剰な技術主義とは一線を画しているつもりです。 素朴なご隠居感覚のほうに近いと考えてください。 百水さんのコンピューター潅水も実に簡素で自然主義的です。 ミラノやローマの都心部で上階のベランダや屋上が豊かに緑化されているのは意外と知られていないようです。 これらはみな素朴な鉢植えです。
批判1
壁面緑化は
アデランスファッションだ京都造形大学 井口勝文
1)壁は壁として残してもらいたい
私の確信するところ、 壁の存在感が町の存在感です。 良くも悪くも、 それが自然に対するる文明の証しです。 都市の証しです。
2)立体緑化の構造を持つ建築
これこそ上野さんの主張する「建築の目的としての緑」に通じるのではないでしょうか。 ベランダ、 廊下、 屋上は勿論、 緑化のための場所を建築空間として用意するのです。 形や位置は違ってもそれは町家の内庭であり、 通り庭に通じるものとなり得る筈です。
3)町のスカイラインの主役は屋根
甍の波が続く中に覆い被さるような緑の木立が点在する。 この絶妙のバランスをマンションの町中に実現する姿はなかなかイメージできません。
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