緑としての建築
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批判3

都市の緑とは空地である

大阪大学 小浦久子

 

 夏がだんだん暑くなってきているような気がする。 今年は体温をこえる暑さが続いた。 地球温暖化が、 現実味をもってきたかのようだ。

 山の緑を眺め、 海の気配を感じながら、 マンションの5階にある西向きの住戸に居る。 幸いにも西と東の窓を開け放てば風が通り、 夕方の西陽が厳しい時間を除けば、 それほどクーラーのお世話にならなくてもいい。 むしろ夜、 古いダウンライトの白熱灯の灯が暑い。

 地震直後の日々。 厳しい寒さだった。 人工的な営みの多くが停まるとき、 街は確実に冷えていく。 確かに都市の気候は、 都市がつくっている。

 「緑としての建築」は、 このような都市環境の再生という課題を設定し、 (1)部分から解く、 (2)緑の環境性能を活かす、 (3)植物による景観形成、 といった3点が論点のように思われる。 それを京都という、 日本で長く「都市」を生きてきたところで考えようということのようである。

 京都は、 この3点については非常にわかりやすい。 京都を、 御土居のなかの歴史的市街地とする。 長い歴史のなかで、 平安京と天正の地割りという2度の計画的な都市構造の整備が行われ、 その間に町家という建築様式(=暮らし方)により、 むしろ自然発生的に近いような都市空間の再編を経て、 今ある都市の空間構造と町並みをつくってきた。

 この歴史的都市構造と山に囲まれた地理的条件を継承しつつ、 部分からの市街地更新を進めることになる。 その部分の解き方で、 マンション建設に代表されるような、 街並みや生活環境が問題になっているのは、 現在の都市計画的枠組みが、 歴史的都市空間の継承にうまく合っていないということが、 1つある。 そのなかで部分から解くということは、 都市計画(容積率)が連動していると妄想されている土地の経済的収益性のみの視点を離れ、 これまで安定してきた都市居住環境と共存する建築を建てることである。

 それは、 第2・第3の論点とも関わる。 都市における緑は、 土と空間(空地といってもいい)のことだと思う。 建築と、 この空地(土と空間)の質・バランスや配置・つながり方がくずれてきている。 町家は、 通りに面してミセが並ぶ町並みと敷地奥の坪庭や裏庭の配置を特徴とする。 このとき緑は、 庭の緑であり、 敷地内部に空地(裸地)をとることであり、 風通しや採光を確保する環境につながる。

 「部分から解く」ということは、 この緑の意味を継承することである。 それは「緑としての建築」ではない。 敷地内部に空地(空間)をとり、 居住環境を自律的に形成し、 そこに緑があるべきで、 通りの町並みは、 建築ファサード(壁面)により構成すべきである。 前庭の緑が見えるところでも、 通りに面しては塀を建てている。 表蔵があるときでも、 塀と庇をつくってきたのが、 京都の街並みの基本である。 戦後の大通りを除いて、 街路樹で通り景観をつくってきたことはない。

 町家をそのままつくろうというのではない。 少なくとも敷地内で自律的(クーラーなしでも生活できる)で、 それがつながることによって街区の居住環境ができているという空間特性を継承し、 建築が街並みをつくるという選択があるはずである。 部分から解くということで、 敷地ごとの更新において、 「緑としての建築」を埋め込んでいくことは、 建築のつくり方として、 コンクリートか緑かの違いでしかないのではないか。

 緑の豊かさは、 土に支えられ、 間を開けることであり、 それは、 地域性であり、 水の循環であり、 多様性である。 その意味において、 建築と緑は呼応する関係であって、 決して一体化すべきではない。 地域ごとに、 地域の環境構造や街並みの構成が違うはずであり、 建築と緑の関係は、 多様なのである。 緑の豊かさも、 緑のなかに建築があるところもあれば、 大きな公園や緑地と高密な市街地の組み合わせもある。 通りに緑がなくても、 街区内に豊かな中庭がある環境もある。

 もし仮に、 都市の建物が高密化することで、 都市環境が荒廃していくというならば、 なぜ、 建てない、 つくらないという選択を緑から提示できないのか。 現在の屋上緑化や壁面緑化が、 単なる緑の数字あわせでないといえるのだろうか。 もちろん、 しないよりしたほうがいいといわれれば、 そうかもしれないが。 ドイツ諸都市で行われている風の道をつくる屋上緑化やランドシャフトプランによる土地利用規制と比べて、 あまりにも短絡的、 対症療法的である。 町家の空間構造を継承するほうが、 よっぽど地域の生き方につながる。

 京都で、 新たな緑の意味を提起していくならば、 まず町中に点在する多くの駐車場に木や花を植え、 京都という歴史的街並みのなかで、 通りに緑がある街並みをどのように評価するか実験するほうが、 まだ生産的だと思う。

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