犯罪は日常的で身近な問題ですが、 命や財産に関わる大きな問題でもあります。 昨日の新聞に平成13年1〜11月までの犯罪件数が250万件を上回ったと掲載されました。 平成11年度で216万件、 平成12年度で244万件ですので、 あと4ヶ月を残した時点で既に昨年分をかなり上回っているという事です。
一方、 当然検挙率も史上最低で20%減になりそうだということです。
犯罪がここ最近どれくらい増えているかと言いますと、 平成3年度の犯罪認知件数を100とすると、 殺人・強盗・放火・強姦などの重要犯罪は約2倍、 重要窃盗犯は1.5倍増となっています。 ただしこれは犯罪が増え続けているというわけではなく、 平成元年〜3年頃が犯罪総数が少ない時代だったわけで、 それと比べてという事です。2. 防犯まちづくり
犯罪はなくならない
「安全」と「安心」を考えて行くと、 都市が熟成して国際化し、 人々の考え方が多様化する現在においては、 「犯罪」が大きな問題となっています。
機会犯罪の種類 |
このくらいは大目に見ようという考えでいると、 重要犯罪へ発展していく恐れがあるので、 きるだけ軽い段階で抑えていくという姿勢が大切です。
それから、 犯罪が起こる時には必ず被害対象物、 被害対象者がいます。
そこで犯罪者が被害対象物に近づきやすい環境の有無が重要です。 また「視線」、 つまり地域住民の目があるかないかといった事が犯罪抑制に役立ちます。
つまり被害対象の有無と防犯環境性能、 その両方を整備していくことで機会犯罪を減らす事ができるわけです。
私も参加した「安全・安心まちづくりハンドブック」(防犯まちづくり編)の中で
「防犯まちづくり」とは、 まず犯罪の起きる環境に着目して、 犯罪の誘発要因を除去することで犯罪を予防をし、 それによって安全で快適な環境づくりを目指すものです。 つまり計画段階から犯罪予防の観点を入れて環境設計を行おうというもので、 費用負担も軽く、 また途中で改善する場合も、 その程度が簡単で済みます。 とされています。
この場合、 コミュニティづくりなどソフトな部分との連携も必要だと思われます。
それから、 たとえば明るさを確保する場合でも防犯灯にばかり目を向けず、 自販機や窓の灯をあてるなど、 様々なストックをできるだけ活かした身近な取り組みの積み重ねが大切です。
ですから、 防犯の視点は、 防災、 福祉、 交通安全など他の視点と一緒にまちづくりができる、 改善型で、 身近で、 取り組みやすいまちづくりの考え方だと思います。
我々が普通に考えてもなかなかわからないのですが、 一番良いのはやはり犯罪者自身に「どういう家が入りやすかった」とか「どういう所なら盗りやすかった」「どういう条件だったらひったくりしようと思うか」といった事をきちんと聞く事です。
東京大学の小出治先生がそういった被疑者への聞き取り調査を行った結果によると、 90%が「侵入に手間取る家は避ける」、 また70%が「5分が限度」と答えているようです。
つまり侵入部の鍵を沢山つけたり少し開け難い構造の鍵に替えるなどして、 とにかく5分間持ちこたえる事ができれば、 ピっキングなどの被害に遭いにくいという事です。
ただし、 これでも100%という事ではありませんので、 残りについては諦めるしか仕方ないようです。
このように、 被疑者にまず聞いて、 自分達はその逆をいくことで予防を考えて行くというのが一番確かであろうと思います。
例えば、 よく建物と建物の隙間に人が入りこめないよう木戸などを立ててありますが、 そうするとその木戸が足場になってしまい、 しかも中に入ると何をやっているか外から全く見えないため、 「あれは入っていただきたい」と言ってるようなものです。
他にも、 足場となるブロック塀があったり、 普通の戸建の2階ベランダなどで下部に目隠しがあると、 そこで何をされていても外からはわかりません。
また、 都会では隣接する建物が非常に近く、 30cmあるかないかというところが多くあります。 それぞれが壁なら問題はないのですが、 例えば屋上から屋上へ飛び移れるとか、 あるいはベランダや外階段から飛び移れる構造になっていると、 個々の建物でしっかり防犯に対処していても、 隣りからの影響で防犯上問題があるという場合が多くあります。
密集市街地に空屋が多くありますが、 その空家が放火など色んな犯罪の場になる事もあります。 このように防災の観点からだけでなく、 犯罪防止上も管理が十分でない密集市街地の空家の撤去は重要です。
防災と防犯の関係について言えば、 公園の樹木は一般に延焼遮断帯として働くようにきっちりと密植されているのですが、 そのことが公園の防犯性を低めているという場合があります。
このような場合は、 樹木を「ちどり配置」にすることによって人の視線が確保でき安全性が保たれます。
また公園内などの公衆トイレの配置についても、 奥まった所であれば、 そこがまた犯罪の温床になる事があります。
このように、 普通の街について少し考えただけでも、 具体的な問題点が随分出てきます。
具体的な事例については後ほどお話をさせてもらうつもりですが、 寝屋川市で「安全・安心まちづくり委員会」を作ったときに、 警察の方から通称「ひったくり道路」というのがありますよ、 と冗談半分で教えていただきました。
どういう道路かと言いますと、 道路構造上は全く問題ないのですが、 歩道が広過ぎて、 そこを単車が走りぬけられるような構造になっていました。
そのため、 人が安心して歩いているところを、 バイクで走ってきてひったくり、 そのまま車道に下りて逃げて行ってしまうわけです。
また姫路市ではお城周辺がきれいに整備されています。 緑が多く、 建物の美観も良くなって素晴らしいのですが、 その景観を夜見たらどうかを、 先述の「安全・安心まちづくり女性フォーラム」でチェックするため「暗がり診断」を行いました。
その結果、 昼間は非常に良好な景観だけども、 夜は光がなくて独りで歩けないといった場所がかなり見つかったそうです。
全ての場所が一人歩きできなくても良いとは思いますが、 昼間の景観が素晴らしいだけに、 夜と昼との落差にみなさんはショックを受けていました。
さて、 その「暗がり診断」によって防犯灯をつける事になったとしても、 その防犯灯自身が住宅の中に窃盗に入るときの足場になってしまうこともあります。 電柱なども足場がついてますから、 横にベランダなどがあれば、 電柱をよじのぼってベランダに入りこめます。
建物のベランダと道路との位置関係は、 建物については建築確認の際に、 後退距離が守られているかなどがチェックされているだけです。 電柱については道路管理者が占用の許可をするだけです。 つまり、 道路・宅地それぞれ別の敷地内で考えていますので、 たまたま電柱近くにベランダがあっても、 これを事前にチェックするという事はできないのです。
そういった集合体としての問題が大きいものですから、 まず防犯の視点から全体のまちづくりを考えて行くことが大切なのです。
また先ほども言ったように、 防犯の視点から考えると、 防災・福祉・交通安全などのいろんな視点からのチェックも一緒に考える事になりますので、 防犯の視点を入れていく事で、 多様な面から安全で安心なまちづくりができます。
市民の役割を例えば防災で考えると、 ボランティアなどソフト的な役割が大きいわけですが、 防犯においてはそれだけではなく、 いわゆる「ハート」と「ハード」の両方において市民の果たす役割が大きくなっています。
わが身を守るという点でいうと、 自分の住まいの防犯については、 鍵のかけ方や住宅の造りをどうしたら安全にできるかといった知識や情報の習得が必要になります。 また夜間照明や戸締りなど身の回りの安全点検・管理が必要になります。 それから出かける前に一声かける習慣によって安全性が確保できます。
さらに防犯診断や地域のルールづくり、 まちづくりへの参加など、 他の視点によるまちづくりと比べて市民の役割が非常に大きくなっています。
地域環境と住民自身の生活《まちの問題点》
防犯まちづくりで、 具体的に気をつけなくてはならない事を窃盗を例にあげてご紹介しましょう。
防犯の視点と防災、 福祉、 交通安全
このように、 防犯というものは個々には防犯上問題がなくても、 いくつかの要素があわさると問題になるという事が多くあります。
市民の役割
防犯については市民一人一人の心の持ち方が重要ですので、 市民と自治体、 警察の3者の連携が何と言っても大切です。
このページへのご意見はJUDIへ
(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai
学芸出版社ホームページへ