犯罪防止に都市環境デザインはどう貢献できるか
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ


3. 事例

 

愛知県・春日井市の場合

画像ma01
春日井市安全なまちづくり協議会組織図(市内119団体)
 「春日井市安全なまちづくり協議会」ができたのは1995年、 ちょうど阪神・淡路大震災のあった年でした。 企画自体はその1年以上前から準備されていました。 春日井市では国内全体が「安全・安心」の方向にシフトする前から既に取り組んでいたのです。

 協議会には安全都市研究部会、 安全活動推進部会、 啓発活動推進部会、 青少年問題調整部会、 暴力追放推進部会といった各部会が設置されており、 市内119団体が参加する、 市を挙げての大きな組織になっています。

 この活動で素晴らしいのは、 各部会事務局に市関係各課が広く参加していることです。

 普通でしたら、 一つの部会の担当課が決まれば、 そこの課の人が2、 3人で事務局を務めるわけですが、 春日井市では全体の事務局こそ市民安全課が担当しましたが、 各部会の事務局については色んな部署の方が一人ずつ入って組織しているのです。

 どうしてそういう組織にしているかというと、 職員は普通2、 3年で移動するので、 何年か経つと最終的には市職員全員が安全・安心について多方面からの勉強したことになる、 という考えだとのことです。

 春日井市では「安全・安心は春日井から」との精神で、 自ら発信基地になろうとされています。 そのため市の職員が色んなところで安全・安心を勉強したという事実をつくっていきたいと言われました、 この組織をつくられた春日井市長の思い入れの深さが感じられます。

 また、 先に話しましたように「安全・安心まちづくり女性フォーラム」は全国23ヵ所で活動をしていますが、 春日井市でも「春日井市安全・安心まちづくり女性フォーラム実行委員会」という組織が活動しています。

 現在でも各小学校区ごとにアンケート調査を行い、 危ない所、 ビックリした所、 危険を感じた所などをチェックして「安全マップ」を作っています。 それが出来た段階で市民の啓発活動に入ると聞いています。

 それから、 安全なまちづくり協議会の中の啓発活動推進部会が1995年「春日井安全アカデミー」をつくっています。 そこで色んな市民が高度な勉強をし、 卒業した後はボランティア(造語で「ボニター」)として安全や安心を自ら考え、 活動をされています。


大阪府営久宝寺緑地の場合

画像ma02
広域避難地・後方支援活動拠点となる久宝寺緑地(府資料)
 図は大阪府の久宝寺緑地です。

 緑地北側に密集住宅地があります。 元々はもっとずっと北まで都市計画決定された公園でしたので、 多くは都市計画法53条による許可で建てられた木造二階建ての建物です。

 また、 この公園は大阪市、 東大阪市、 八尾市の3市の境界線上にあります。 大阪市側も住工混在の密集市街地が連担しています。 八尾市側には寺内町がありますが、 そこからJR八尾駅までの間にやはりかなりの密集市街地があります。 38haくらいしかない小さな公園ですが、 3市の地域防災計画で広域避難地になっているのです。

 そこでまず防災の視点から安全にみんなが避難できるような公園づくりをやろうということから、 公園の改修が決まったのです。 避難の時に使用する入口の改修、 防火樹林帯や避難広場の整備、 さらに陸上競技場は非常時のヘリポートに使えるようにする、 またプールは非常時の防火用水になるようにするといった全体の改修を防災の観点で行いました。

 実は防犯の視点については当初考えられていなかったのですが、 避難用の入口を改修したところ、 最初に実験的に改修した場所で「人の視線が確保でき、 朝早く散歩していても怖くなくなった」というような声が聞こえてきたのです。

 そうすると、 これはやはり全体に防犯の視点で見直した方が良くないかということで、 入口改修と同時に防火樹林帯の「ちどり配置」をやってみました。

 この公園の一番の問題点は、 もともとはもっと大きな公園を予定していたところを、 都市計画決定を変更し小さくしたものですから、 北側に小さな出入口が沢山ついている点でした。

 北側には一番広くて幅6mほどの道路しか接道していません。 それに直結するような形で入口があるものですから、 入口もやはり道路にあわせ一番狭い所では3mちょっと、 大きくても6mほどしかなかったのです。

 そういった小さな入口に密集市街地から何万という人が殺到すると、 入口がいくつかあるとはいえ危険です。 入口でみんながストップしてしまうような状況になるだろうということで、 入口改修をすることになりました。

 その結果がこれです。

画像ma05
公園改修前。 コンクリート塀と管理柵に挟まれた狭隘路
 改修前は公園入口からずっと管理柵がめぐらせてありました。

 この管理柵をとるときには、 住民の方々がそれによって防犯上危ない街になるのではないかと非常に心配されました。

 この公園は昭和30年代後半の都市化が進んだ時期に、 都市の中で緑を確保しようという目的で造られたので、 ものすごく密植されているのです。 早く緑を増やそうというような考え方でできた樹林帯であったものですから、 すごい本数の木がありました。

画像ma04
同上改修後。 柵、 一部樹木を撤去。 入口付近にスペース確保
 そこで少しもったいない話ですが、 クスノキなどの油分が多く燃えやすい木や、 あまりにも民家に近い木については間引いてすっきりさせています。

 入口は防災の観点から広げました。 また避難してこられた方が仮に入口で溢れても、 どこからでも踏み込んで行けるように、 管理柵を取って植栽にしました。

 またこの公園の隣接地で火事があったときに、 消防車が現場に行くためのユーターンができず、 もう一度バックで戻ったという事が実際にあったものですから、 公園側の入口を広くし、 車止めを抜くことによってユーターンできるようにしました。 つまりクルドサックの道路の回転場を公園側で確保できるように整備したわけです。

 公園の内側については、 もともとは管理柵があって側溝があって植栽がされているという形でしたが、 先の写真のように改修後はまったく違う姿になっています。

 このような形で防災上のいろんな整備をしましたが、 同時に見通しが確保でき、 防犯性能も高まりました。

画像ma07
公園外の道路改修前
 これは改修前の公園側を外から見た写真です。 管理柵ぎりぎりまで密植されており、 その結果、 自動車や自転車が置かれたり、 ゴミが散乱していました。

 樹木を整理し、 管理柵を取っ払ってしまいましたので、 私は周辺道路での路上駐車が無くなると期待していましたが、 路上駐車はあまり減りませんでした。 ただしゴミは減っています。

画像ma06
同上改修後
 改修後のこの写真では、 公園の反対側でも東大阪市による歩道整備がされています。

 今までは公園の陰に隠れていて、 あまりきれいにするという場所ではなかったようでしたが、 こういう形で公園がきれいになると、 反対側もきれいになるというちょっと面白い状況になっています。

 公園をきれいにした後で街を歩いてみますと、 住宅そのものの建替えも少し進んで来ており、 防災と防犯と美化といったいろんな面で、 それぞれ上手く行ったと思います。

画像ma08
防火樹林帯。 整備後すぐ
 防火樹林帯の植栽部分を正面から見たところです。 まだ整備後すぐの写真なのであまり下の方に木がありません。 少し間が空いて視線が確保できるようになっている様子がお分かりいただけると思います。

画像ma10
植栽パターン・ちどり配置(防災公園技術ハンドブックより)
 ここで採用した植え方は「ちどり配置」というものです。 高木と中木をちどりに配置し、 高木の下刈をしっかりやっておけば、 高木の下を通して視線が確保できるのです。

 正面から見ますと木がかなり密植している状態になりますので、 防災性能は全く問題がありません。 しかし防犯性能を上げることができ、 今のところ成功したと考えています。



寝屋川市の場合

 あともう一つご紹介したいのは寝屋川市の例です。 3年くらい前に「安全・安心まちづくり委員会」を組織し、 萱島という密集市街地の現場を、 警察の人と市民の方とともに夜歩いていただいた事があります。

 その際、 先ほども言ったような建物と建物の間に木戸を造っている所が多くあり、 そういった所が逆に犯罪の温床になっているとか、 足場をわざわざ犯罪者に作ってあげているようなものだといった、 いろいろな具体的な指摘をお聞きし、 現場でみんなで確認できたようです。

 本来はそういった住民と警察が一緒になった具体的な活動がもっとあって、 安全なまちを考えて行けるようになれば一番良いと思いますが、 継続的な活動が難しいようです。

 先ほど紹介した春日井市では継続的にやっていて、 今年(2001年)から来年に向かって安全マップを作るというところまで来ているそうです。 こういった活動についてはやはり行政の支援が大切だと思っています。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ