葛藤の都市環境デザイン
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自然環境への試み。 そして葛藤

 

 二つ目は「自然環境」への試みです。 堺市の泉北ニュータウンの少し南に行ったところにある「自然ふれあいの森」計画を紹介します。

 山の尾根部と休耕田となっている谷地で構成された、 およそ幅200m、 長さ700〜800mという17.2haの土地がコンペの対象になりました。

 ここでもやはり意志決定の問題が問われました。 市民参加が謳われる中で公園作りをどのように進めるかがプロポーザルの大きな視点でした。

 また、 もう一つは自然環境をどうとらえていくのか、 自然とふれあえる森とはどういう場所であるべきなのかが問われました。

現在、 管理運営に関して「自然ふれあいの森」ができる前から市民参加を促して、 計画を進めているところです。


現況と全体計画

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自然ふれあいの森・計画地
 この辺りは元々休耕田になっていたところに3mくらいの根笹が自生し、 現在は人が全く入れない状態になっています。

 その周囲も元々は里山で、 赤松やコナラの群落になっています。

 これらの樹木は昔、 薪炭林といって薪などに使われていたので、 薪などを復活させるプログラムを提示する案もありました。 しかし生活スタイルが変わってきた中で、 昔の生活風景に対するノスタルジーだけで、 社会システムの中で位置づけられていないものを復活させても、 結局は位置づくことができず、 森を守っていくことにつながらないのではないだろうか、 今の社会システムの中でどう新しく関わり合うのかを考えていくことが必要であると考えて、 そういう模索の場所としての森、 里山を「森の学校」と銘打って提案ました。

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計画地の風景
 里山は人の手が入らなければ、 俗に言う山が荒れて入っていけない状態になります。 森は地域の環境に適合する長期にわたって安定な構成をもつ群集、 すなわち極相林へと遷移していくのですが、 里山というのは、 ある意味で無理矢理人為的に遷移を止めている状態であるといえます。

 そういった里山に、 農体験からではなく、 これから新しく関わるとなった際には、 大きく環境教育とレクリエーションという二つの視点しかないだろうと考えました。 そして、 森が今後どう変わっていくのかを我々デザイナーが決めるのではなく、 様々な人が最初に森と関わるきっかけとなるデザインを提供して、 そこからのみんなの関わり方によって森の姿が変わっていくようなプロセスをふまえた場所を提案したのです。

 このしかけとしてのデザインが、 新たな人と森のバランス関係を生みだし、 人々が、 森と関わるための新たな仕組みを発見できるような空間作りを目指したのです。 これからどのように自然環境と関わっていくべきなのかを、 実験的に試みていく中で楽しみながら学んでいく場所が、 「森の学校」なのです。

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施設ネットワークによる空間プログラム
 具体的には、 森の館と称するビジターセンターと森との新しい関わり方をサポートする小屋を分散して配置し、 浮床の木道や散策道でネットワークさせる構成としています。 この17.2haの敷地に誰でもが気軽に行くことのできる最低限の回遊性を持たせ、 それ以上は、 自然に対する「熟度」が高くなるにつれて深く、 そして広く関わっていけるようにしているのです。

 散策等のレクレーションからはじまり、 農体験、 森での工作活動、 炭焼き、 そして、 植樹を行ったりする環境再生にいたるプログラムが展開できる場所を緩やかに設定しています。 この設定は、 入り口の方から奥に行くにつれて、 徐々に自然に対する「熟度」が高い人々が求めるプログラムが用意されるような仕組みとなるようにしています。 それぞれの活動をサポートする小屋を、 森の中で発見するに従って、 段々と森と深く関わるきっかけが得られるようにすることを目指したのです。

 
 今、 里山での活動で問題になっていることの一つに、 少数の自然に対する理解度の高い人達が「熟度」の低い人達に対して森との関わり方を制限しすぎる、 ということがあると思います。 もちろん「熟度」の高い人が言うことは自然環境に携わる上で重要なことなのですが、 「熟度」の低い人にとっては、 「何も知らない素人は、 自然環境を知らないうちに破壊していまうから、 勉強してから来なさい。 」といっているように聞こえたりする場合もあり、 興味を持っている人を疎遠にしていることがあるのです。

 そこで、 「熟度」の低い人々が安心して森と関われるきっかけと深く知るためのプログラムを同時に用意して、 どの程度関わるかが選択できることが必要なのだと思います。

良い意味での住み分けと連携が促され、 その関わり方によって風景が徐々に構築されていくという試みだと考えています。

 また、 自然環境に関わる活動と言いますと、 これまでは「環境管理・環境教育・環境調査」の3つが出てくるのが普通ですが、 先にも述べなしたが、 ここではさらに「レクリエーション」や「アート」「情報発信」といった視点ともリンクさせて新しい活動へとつないでいき、 新しい森の見方も発見できるようになることも考慮しています。 デザインにおいても農風景の中にある小屋を再現するのではなく、 新しい関わり方を触発できるようなものにすることを考えたいと思っています。


ゾーン別の計画

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ゾーン配置図

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湿地から森の館と広場を見る
簡単に各々のゾーンについて簡単に説明します。  
総合学習ゾーンは、 ふれあいの森に来た人がまず立ち寄るところで、 学習と管理を総合的に行っていく場所です。 それを支える森の館と広場を展開しています。 森の館は、 バリアフリー対応の施設にもなっており、 森の中の高い位置を走る浮床木道にアクセスすることができます。 情報発信の拠点となることも考えています。

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森の館
 森の館のような建築についてもデザインをしています。 入り口の結節点となる場所に配置して、 尾根部や谷地、 湿地など様々な「自然ふれあいの森」の場所に、 この施設を介在してアクセスできるようにしています。 先程述べたネットワークの拠点となります。 展示施設もありますが、 今の森の状況を知ることができるような、 タイムリーな情報が得られる展示計画としています。

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ウキクサフォリー
 次のレクリエーションゾーンでは、 湿地の中に浮き草が浮いているイメージから、 群柱で支えた草屋根のパーゴラを配置しています。 ウキクサ・フォリーと名づけました。 「自然ふれあいの森」内で展開する小屋はフォリーと称しています。

 このウキクサフォリーの周辺は、 休耕田なのですが、 自然観察や水遊びができる湿地として再生する予定です。

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生活文化ゾーン/クワスキ・フォリー
 生活文化ゾーンにある「クワスキフォリー」と名付けた建物です。 ここで田畑を作ることになった場合は農機具などを納める小屋になります。 また、 森の館で学習のための展示をすべて完結させるのではなく、 これまでの里山を支えてきた生活文化についての展示もします。 収納された農機具自体を展示物とするようなデザインにしています。

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芸術創造ゾーン/ノコギリ・フォリー
 芸術創造ゾーンには「ノコギリフォリー」があります。 見る方向によって隙間が見えたり消えたりするようにハコを並べたデザインになっていて、 森の工作や発表会、 展示が計画できるようにしています。

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生産加工ゾーン/エントツ・フォリー
 生産加工ゾーンでは「エントツフォリー」と呼んでいる炭焼きの小屋があります。 煙突があって、 色々な薪が並べられた様子も展示します。

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環境創造ゾーン/ヤグラフォリー・パース
 次が環境創造ゾーンで、 植林、 自然回復といった環境再生についても展示しようと考えています。

 これらの森に分散配置されたフォリーがすべて展示館としても機能し、 自然環境の中で学習することが可能になり、 展示内容に市民が参加できる可変性の高い展示計画としています。

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浮床木道
 森の中には一本だけバリアフリーのルートにもなる木道を計画しています。 基本的に水平な道なのですが、 斜面地の地形を活かしながら、 樹木の足元から高い位置での観察もできるようにしています。 身障者だけではなく小さな子供達も、 ここには安全に入ることができます。 この一本のルートだけが森に関わるきっかけとして作ってあって、 そこから降りて森へさらに入っていくのは、 安全性や林床に対する踏圧等の自然環境への影響について知識を得てからということになります。 森に対してのアクセスを良くすることと、 自然環境に対する負荷を考慮して、 ある程度の利用制限も行える両義的な機能をもつ道です。

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神戸市・自然の家での活動
 市民参加もテーマになっていることは先程述べましたが、 我々が、 六甲の教育施設でやっている事例です。 自然環境に新たに関わるための広場や、 安全管理上の柵なども参加によって作れるものには関わっています。 子供達も喜びながら、 初めて使う斧などをうまく使い、 森の中に美しい湖があるのですが、 広場からそこまで、 いつか到達することを思い描きつつ道づくりもはじめています。

 商店街での活動もそうですが、 こういう活動に興味のある方は連絡いただければと思います。

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間伐材ベンチ
 このような間伐材を利用したベンチをデザインして森の中に置いたりもしています。

 「自然ふれあいの森」に戻りますが、 この場所が、 多くの人が自然環境と関わるきっかけとなる場所となって、 社会システムの変換によって消滅し続けている里山を、 これからの社会にとって必要で有効な姿へと移行させていき、 その環境を共有することから新しい風景を求めていこうとすることにつながることを望んでいます。

 私自身もこの森で今回計画しているきっかけとしてのデザインが、 どのような展開を見せて風景となって定着していくのかに非常に興味がありますので、 色々な立場の人と共に今後も実験的に関わっていきたいと思っています。

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