京都からお越しの西斗志夫さん、 京都の伝統建造物やその保全と比較しての感想をお聞かせ下さい。
西:
京都でも町家を再生してお店にする例が多くて、 年間4、 50軒あると聞いています。 ただ今見せてもらったようなしっかりした再生ばかりじゃなく、 かなりばらつきもあるし、 バランスがとれてない再生のやり方も多々見受けられます。 それに比べると、 倉敷はかなりきちんとやっていると感じました。
京都市の場合、 従来はこうした町家を生かすことに熱心ではなかったのですが、 最近はNPOや市が町家の紹介や仲介をして、 お店にしたり住宅として再生する動きを支援しようとしています。 今は面白い雰囲気が出てきているかなという感じです。 ただなにぶん倉敷に比べると街が広いので、 今はバラバラにやっているという風に見えます。
また、最近では町家だけでなく、戦前の近代建築も同じように再生される動きが見えてきました。逓信省技師吉田鉄郎設計の京都電電ビル西館(旧京都中央電話局)が商業ビルになったり、旧明倫小学校がアートセンターと喫茶店になったりしています。ただし、これらも倉敷みたいにまとまって立地していないので、どうしてもバラバラに見えます。しかし、観光スポットではなく、地元の住人が楽しみに行ける場所が増えてきたので嬉しいとは思っています。
司会:
倉敷も実は、 駅の裏の方は普通の地方都市で、 みんなが感心してくれる美観・伝建地区は倉敷のごく一部に過ぎません。 倉敷全体のまちづくりについては、 住んでいる人の立場でいろんな考え方があるはずです。 今日はたまたま、 倉敷市の人も参加して下さっていますので、 倉敷のまちづくりの方針についてうかがいたいと思います。 建築部長の堂下さん、 いかがですか。
堂下(倉敷市建築部長):
関西の皆さん、 ようこそ倉敷へいらっしゃいました。 せっかくのご指名なのですが、 明日倉敷市の助役が講師としてお話しさせていただきますので、 まちづくりの方針については明日、 ということでご了承下さい。
長沼:
オ、 ホホホ。 そんな返答で許されると思ったら大間違いです。 倉敷市のことでご質問のある方はいらっしゃいますか。
今日、 東大橋家を見学いたしました。 蔵は大変素晴らしいのですが、 母屋の方はそう古い建物ではないように思います。 どんな所を残そうとしているのですか。
長久(倉敷市企画室長):
東大橋家の再生については教育委員会とも話をして内容を決めねばなりません。 個人的には、 蔵は残して母屋はつぶすという大まかな考えです。 蔵はある程度直していきますが、 4つとも残すつもりです。
利用方法については何が良いのかを検討しているところです。 例えば民間の方に商売をしていただくとか、 公的な利用方法であれば市も関係していきたいなど考えておりますが、 最終的な結論はまだ出ておりません。
竹内(名古屋市/都市研究所スペーシア):
今回の企画については、 名古屋市のまちづくりメールマガジンで紹介されていまして、 面白そうだったので参加いたしました。
東大橋家は倉敷市が土地・家屋ともに購入されたということですが、 これをセミナーの題材にした経緯を教えていただきたいと思います。
長沼:
倉敷でセミナーが開かれると決まったとき、 やはり伝統的建造物や歴史的な町並み保存がテーマになるだろうと思いました。 ちょうどその時。 市が東大橋家を買い取ったのはいいけれど使い道が決まらなくて、 市民の間でも話題になっていると聞きました。 これは我々のセミナーの題材にも合うなと思って「おまけ」として加えた次第です。
加藤(JUDI東京・日本都市総合研究所):
なぜ、 市は東大橋家を買われたんですか?
東大橋家は、 ちょうど美観地区へ入る入り口部分に当たります。 地区の特徴を一番よく現している場所です。 市の内部でも民間に買ってもらった方がいいという意見もありましたが、 景観を守るということで購入しました(1200m2、 5億7千万円)。
あの雰囲気を残し、 美観地区から阿智神社、 商店街へも人が流れるようにしたいんです。 また、 今は夜は何も施設がありませんので、 何か集客力のある施設が欲しい。 駅の向こう側にあるチボリ公園と美観地区をつなぐ動線を作りたいというのが以前から我々の課題でしたが、 そのひとつの布石になるよう、 昨年(2001年)10月に購入いたしました。
倉敷を見て思うのは、 よその伝建地区に比べると、 それぞれの建物が立派であり、 間にある飲食店、 地酒の店、 蕎麦屋などのお店も一般の観光客相手というレベルを超えた本格志向の店が多いということです。 ただし、 それでも伝建地区に便乗した雑多な店も結構多い。
それで思ったのですが、 所有者が豊かなうちはちゃんと家を維持できるけど、 相続などで維持できなくなると、 売り払ってしまう。 そしてよそから入ってきた商売人が安易な商売を始めてしまうということが起きているのではないでしょうか。 つまり、 後継者がいなくなる、 あるいは固定資産税や相続税が払えなくなって家の所有者が変わってしまうと、 従来の町並みが変わっていかざるを得ない。 そんな問題が今、 日本のあちこちで起きています。 そうしたことは問題になっていませんか。
長沼:
倉敷の人間の特徴でしょうが、 みんなで力をあわせて何かをやってみようとする動きが全然ないのです。 そういうこともあって何か問題が起きたときも自分で何とかしようという精神が根付いているんです。
倉敷は城下町と違って天領地で、 商人が多かったせいかもしれません。 自分=倉敷だと思っている人が多いですから、 自分で何とかしていくうちにこんな街になったのかなと私は解釈しています。
楢村:
加藤さんがおっしゃった所有者の移り変わりについては、 我々もいつも感じたり、 考えたりしています。 ただ、 倉敷には裕福な旦那衆的な感覚が残っていて、 その影響もまちづくりに反映しているのだと思っています。
また、 美観地区のメインの所は土産物屋の競争過多で、 地区全体が土産物屋だらけに見えてしまという問題は今でもあるでしょう。 それを止めることは、 現実問題としては不可能です。
過去には市も注意したりしていましたが、 罰則や規制をかけるよりは、 ちゃんとしたところを表彰した方がいいのではないかと方向転換し、 我々も協力して「まちや賞」を設けました。 建物をちゃんと維持しているだけでなく、 毎朝掃除しているといった人を表彰する方向でやっています。 建物だけでなく人に注目することが、 いいまちづくりにつながると考えています。
倉敷が町並み保存の先進地であることは分かっていますが、 保存とは映画村みたいなワンパターンの町並みを残すことではなく、 内容、 そこで行われている生活や商売の質を問うことだと私は思います。 市民がまず欲しいと思う質のいい内容を考えることが先でしょう。 ですから、 まず何かを統一してやろうという雰囲気のまちづくりではないし、 その方が私は自然でいいと思っています。
加藤:
私が気にしているのは、 それぞれの経済力が反映してしまうのではないかということです。 広い家を持っているとものすごい固定資産税・相続税を負担しなければならず、 そのことが所有者が手放す背景になっていると思われます。 それへの手当は今後必要になってくるのではないでしょうか。 東大橋家の場合は行政の思惑もあって購入なさったのでしょうが、 今後もそういうケースが出てきた場合はどうされるのか。
楢村:
小さい物件については、 今言われたように所有権が移る形で自然淘汰されていくと思います。 美観・伝建地区での相続税は幾分かの軽減はあるはずですし、 なにぶん東京に比べたら桁違いに安いはずですから、 無茶苦茶な負担ではないと思います。 ただ昔は裕福だったけど今は左前になってしまったという理由で手放すケースはけっこうあります。 そういうところで、 立派な所は行政が購入してもらえればありがたいとは思います。
また、 地元の人だけでなく外部の人が伝建地区で商売をしたいと入ってこられることもあります。 そういう人の方が、 けっこう地域のことをよく分かっていてきちっとした形でやっていかれるようです。
ですから、 加藤さんが指摘されたことは今は問題にはなっていません。 自然に交代していってる感じです。
加藤:
たしかに、 今はちゃんとしたお店が多いようです。 しかし、 全国的にこのような伝建地区には問題を起こす店が多いんです。 そのあたりの対応は考えられているのだろうかと気になりました。
楢村:
確かに一時期、 倉敷でもタレントショップの乱立がありました。 でもいつの間にか、 どこもつぶれていなくなりました。
おそらく、 何かがワーッと押し寄せてくるとき、 それを止めたいと思っても、 全体で規制していくのは難しいと思うのです。 それよりは、 行政や我々のような専門家・個人がひとつひとつ積み上げていくのが確実ですし、 そうするより方法がない。 それでもし失敗だと見なされるなら、 まちの力の問題だという気がします。
今は私個人の方法としては、 頼まれた物件をハード・ソフト共に少しでも質を良くしていこうとしています。 倉敷全体で何かをやろうという動きは今はありません。
倉敷の漆喰の美しさ、 左官工事のすばらしさがよく分かりました。 上山さんにうかがいたいのですが、 美観地区を支える職人集団のネットワークはあるのでしょうか。 大工さんや瓦屋さんなどのなどのつながりとか。
上山:
瓦屋は山陽瓦さん、 屋根は片岡屋根さん、 いろいろおられます。
白石:
倉敷市では伝統を支える職人さんへの支援策はしていますか。
堂下:
伝建地区の補助制度を行う中で、 間接的に支援していくことがあると思います。 他に町並み保存をしている地域でも、 外観保存は税金で補助していますが、 そうした中で支援していくのが実情で、 今のところ直接的な支援はしていません。 危機感は感じており、 何かいい方法があればと思っているところです。
白石:
職人達が高齢化すると、 この素晴らしい技術の後継者がいなくなる恐れがあると思って質問いたしました。
堂下:
後継者不足の問題は今のところありません。 技術の保存については、 行政が制度的に育成するということをやっていませんので、 提案していただければありがたいです。
皆さんにうかがいたいことがあります。 前神川(倉敷川)に露天商人が住み着いて30年になります。 伝建地区の一番顔になるところに、 むしろを広げてアクセサリーを売っていますが、 あれって公共の場所の占拠ですよね。 市の方に聞いてみたのですが、 営業権とか個人の権利とかがあって、 どいてもらえないらしい。 私はあれが大嫌いです。
長沼:
私は大原美術館の隣でエル・グレコという喫茶店をやっておりますが、 ウチの前では絶対そんなことがないようにしております。 露天商がむしろを広げようとしたら、 即「どいてくれ」と言うんです。 何日か経ってから言うと効果がないんです。
イヤなら家の持ち主が言うべきです。 それをしないから許されたと思って居着くんだと思います。 外部からとやかく言ってもどうにもなりません。 ですから、 個人の意志の問題だと思います。
中締めの挨拶をさせていただきます。 本日はようこそ倉敷へおこしいただき、 大変ありがとうございます。 小さなまちですが市民は一生懸命頑張っております。 2日間を通して、 みなさんにいろんな意見を出していただければ幸いに思います。
倉敷は山の幸、 海の幸にも恵まれておりますので、 この2日間を楽しく過ごし、 良い思い出にしていただきたいと思います。 よろしくお願いいたします。
意見交換
京都と比較して
司会(長沼):
東大橋家について
鳥越(井原市議会議員)(備中神楽):
長久:
伝建地区の住人の移り変わりについて
加藤:
職人のネットワークと後継者について
白石(JUDI四国):
露天商人について
小野:
閉会挨拶
長久(倉敷市企画室長):
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