古の中のアヴァンギャルディズム
左三角
前に 上三角目次へ 三角印次へ

 

樹木医の仕事

 

実例1:阿知の藤

画像ju01
あけぼの藤
 「あけぼの藤」という藤棚です。 350年の年月を経ている老樹です。

画像ju02
根元
 阿知の藤はあけぼの藤という品種の中では一番長寿であり、 かつ一番大きいと言われている藤棚で、 岡山県の天然記念物に指定されています。

画像ju03
老化による空洞
 しかし、 幹に大きな空洞が出来ていました。 350年を経ると、 木もかなり傷んできています。 上の方は傷んでしまって、 蔓がまばらになっていました。

画像ju08
根元の中身
 このように根は元の大きさの3分の1ぐらいしか残っていません。 元気な時は直径が50cm以上はありました。

画像ju10
空洞の治療
 空洞を治療するため、 まずピートモス製の植物繊維「キノネデール」を空洞に詰めます。 残っている形成層をある程度削り出し、 そこへ新しい樹皮組織が出るようにして、 ピートモスの繊維で埋まるようにする手法です。

画像ju11
次にビニールテープで密閉
 次にビニールテープで密閉した上に、 幹巻きテープという布で巻いて更に防水加された保護テープを巻き付け木を保護します。 これで大体出来上がりです。

画像ju12
保護された状態
画像ju15
小学生の応援
 地元の東小学校も「藤を助ける会」に参加し、 子供達が5、 6回手伝いに来てくれました。 子供達も地元の銘木に関わることで、 郷土の誇りを感じながら成長してくれるでしょうし、 それが将来は郷土愛になることでしょう。 幼いうちに生きた植物に触れることは、 とても良い経験になると思います。

 こんな風に市民に参加してもらうことで、 地元の大切な木や景観を守ろうとする気概が生まれるんだと思います。

画像ju21
甦った藤
 最近取った写真です。 緑も勢いがあり、 来年は立派な花を咲かせてくれるだろうと思います。


実例2:岡山県新庄村の凱旋桜

画像ju22
桜の並木道
 岡山県北西部の鳥取県境にある新庄村の凱旋桜です。 なぜその名前がついたかというと、 明治39年に日露戦争戦勝記念として村が植えたからです。 この街路は出雲街道です。 江戸時代は出雲の殿様が参勤交代の際に宿をとった宿場町として栄えたところです。 今もその町並みがほとんどそのまま残り、 風情のあるまちです。

画像ju24
老朽化した桜
 明治39年に植えられた桜ですが、 もう百年近く経っています。 この染井吉野という品種の桜は大体60年が寿命なのですが、 ここは比較的寒いところですから木を腐らす腐朽菌が少なくて長持ちしています。 村の「先祖が残した宝を末永く残したい」との依頼を受けて、 10年ぐらい前から治療を施しています。

画像ju25
桜の幹に出来た空洞部
 初めて見た10年前は、 こんな空洞が出来ていました。

画像ju26
治療
 木を腐らす腐朽部分にウレタン樹脂を吹き付けて、 腐朽化を止める治療です。

画像ju28
治療したあとに出来たひび割れ
 何年か経つと、 木も成長して治療したあとにこのようなひび割れが出来ました。 治療は一度すれば終了というものではないということです。

画像ju29
中が腐ってしまった桜
 こんな風に中が腐った桜は、 先ほど紹介した阿知の藤のようにピートモスを中に詰める治療を行います。 3年前からこの治療を行っています。

画像ju31
作業中
 まず腐った部分を除去し、 生きた形成層を少し削りだし、 その上にピートモスを詰めていきます。 同時に土壌改良も行いますが、 特殊なピートモスを主原料とした堆肥を使います。

画像ju36
幹巻きテープを巻いて密閉
 ピートモスを上部まで詰め終わったら、 その上に幹巻きテープを巻いて密閉します。 太陽や雨風から傷口を守り、 治療が行き渡るようにするためです。

 木の幹を治療するだけでなく、 根も活性力を取り戻すため特殊な肥料を与えています。

画像ju38
満開時の桜
 最近撮った写真です。 並木道には全部で137本の桜がありますが、 一度に全部を治療するのは無理なので、 年に数本ずつピートモス工法による治療を施しています。 治療してやると、 いきも絶え絶えだった花や葉に急に勢いが出てまいります。

 村ではこの桜が一番の観光資源なので大切に管理しています。 ただどうしても寿命ですので、 中には治療も限界に来ているものもあります。 ですから、 後継樹を養成する必要があるのですが、 よそから持ってきた桜を植えるのではなく、 今ある木からとって接ぎ木をする方法を薦めています。

 暖かい地方で育った苗木はこの地方に合いませんし、 何よりも先祖の遺伝子を持った桜こそ地域の宝と呼ぶにふさわしいと思います。 ですから今は、 学校の情操教育の一環として苗木を百本ほどを育て、 地元の公園に植えています。 今の凱旋桜が枯れると、 その後継樹にする計画です。


実例3:岩井畝の大桜

画像ju49
岩井畝の大桜のいわれ
 勝山町にあるこの桜も、 町の天然記念物に指定されています。 700年あまりの樹齢を誇る老桜です。

画像ju50
岩井畝の大桜
 これは夏の様子です。

画像ju53
進んでいる空洞化
 かなり空洞化が進んでおり、 下の方は人間が3人ぐらい入れそうな大きな穴があいています。 このままにしておくと、 台風でも来たら倒壊しかねないので治療を施すことになりました。

画像ju56
治療
 治療はまず、 木の中の腐った部分を上の方まで取り除きます。

画像ju60
基礎をつくる
画像ju62
鉄骨を建てる
 腐ってしまった側にはもう生きた根はありません。 木を持たせるため、 鉄骨を入れて基礎を打ちました。 写真のような大きな鉄骨を入れています。

画像ju64
丸太をつめる
 鉄骨を入れて木を固定した後、 その周囲には防腐加工した丸太をつめていきます。

画像ju65
ウレタン樹脂の吹きつけ
 丸太の回りにウレタン樹脂を吹き付けて、 雨風が木の内部に入らないようにします。

画像ju67
治療完了
 ウレタンを吹き付けた後は、 パテ材で表面を成型して樹皮の代わりをさせました。

画像ju71
治療後の樹皮
 新たに成長した樹皮が治療部分を巻き込んできていますが、 元の空洞部分が大きかったので巻き込んでいくのには時間がかかります。 最終的にはそれを目的にしています。

画像ju74
スケッチ
 治療に取りかかる前はこのように観察スケッチをし、 設計図をつくります。

画像ju76
2002年春の桜
 まだ2分咲きのころで、 これからの時期ですが、 綺麗な満開を見せてくれそうでした。


実例4:落合町の醍醐桜

画像ju77
醍醐桜のいわれ
 県の天然記念物に指定されています。 今紹介した岩井畝の大桜から2kmほど離れた所にある木です。

画像ju79
満開時
 ごらんのように見事な花が咲きます。

画像ju81
夏の緑
 7、 8年前に「木に勢いがなくなって傷んでいるようだ。 治療して欲しい」と依頼を受け、 調べましたところ、 保護柵があまりに木の近くにあることが分かりました。 花見のシーズンになると人々があまりに近くに寄りすぎて、 木の根を踏みつけて固めてしまい、 木が養水分を吸い取ることが出来なくなっていたことが原因だったのです。 ですから、 木の回りを倍に広げて保護柵を設けましたところ、 現在は元気を取り戻しました。

画像ju85
治療後
 幹の治療は、 今は故人となられた山野さんが十数年前にされました。

 木の根元に小さなお社があるのですが、 それをお参りする人が根をふまないよう桟橋を設けました。

画像ju89
2002年春
 2分咲きの頃の桜です。


実例5:法輪寺のクロガネモチ

画像ju90
法輪寺のクロガネモチ
 倉敷の羽島という所に法輪寺というお寺があります。 古いお寺でして、 この境内にあるクロガネモチも400年ぐらい経っています。 この写真は木の左半分をウレタン樹脂で埋めて修復したところです。


地域の緑が原点

 私たちの生活環境の豊かさは緑なくして語ることは出来ません。 今、 地球環境の悪化が社会問題になっておりますが、 その回復のために緑の果たす役割は大変大きいと思います。 歴史的資産である巨樹・老樹の保存活動が地域住民参加のもとで行われることは、 緑の保全・創造の原点として役立つことと期待しています。

 最近では熱帯雨林の伐採まで進んで地球環境の悪化が叫ばれる中、 地元の緑の保護活動を通じて緑の大切さをみんなで意識し、 努力して守っていきたいと思います。 そして、 それが郷土愛の精神を育んでいくのではないかと思います。

 これで私の話を終わります。 ご静聴ありがとうございました。

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ