モデルとしての眼前の都市風景
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4)都市の連続性(共有できる美しさ)は生れているか
−新しい八つのモデル

 

 さて、 これからが今日の本論ということになります。 これから私が皆さんに問いをなげかけ、 皆さんの意見を聞きたいと思います。

 新しい世代の原風景、 これからの風景デザインの手がかり、 今日の話で言うところの「モデルとしての都市風景」というようなものをどこにどのように見るのか、 今からスライドで見ていきたいと思います。 そのモデルは全部で八つあります。

 ただしお断りしておきますが、 ここで厖大にある都市やその風景について全部言うわけにもいきませんから、 ここで見るモデルはいわゆる大阪のような大都市の都心部だと思って下さい。 地方都市はちょっと当てはまりにくいですし、 まして住宅地ではありません。 しかし同じような目でそのような街を見ていけば、 そこにはまたきっとその街のモデルがあるはずです。


モデル1/街の高木

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高木 御堂筋
 一つ目は「高木」です。 あえて「緑」と言わず「高木」と言います。

 大阪は緑が少ないと言われながら、 実はものすごい数の高木を植え、 それがこの35年で随分育ってきました。 御堂筋の銀杏などは、 育ったというよりむしろ懸命に枯れないように手入れをしてきたという事かもしれません。

 また、 高木がたまたま沢山集まって、 いわゆる都市のオアシスみたいなほっとする所ができています。 この「まとまる」ということが大事で、 こういう部分ではいわゆる低木などの足下の植栽も生きてきます。

 私はかつて都市の「根元線」の美しさを主張し、 道路と壁面の境界に潅木の植栽をすることがいかに醜いかを書きましたが、 それでも足下の植栽を全面的に否定するわけではありません。 しかし、 基本的には都市では高木が美しく,潅木は醜いと思っています。


モデル2/街の中景、 車中からの街の景観

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街の中景
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街の中景
 二つ目は街の「中景」です。

 近景・中景・遠景と分けますが、 都心部を普通に歩いているとまず近景が目について、 これがあまりにも乱雑で醜いと思ってしまいます。 では遠景はどうかといいますと、 これもビルの上から、 あるいは超高層ビルの上から街全体を見たときに、 私は美しいとはまだ言い切れません。

 しかし街の中景だけ見ると、 なかなか美しい連続性があるように思うのです。 つまり建築物が頑張って形が良くなってきているので、 その結果として街の中景が良くなったのだと思います。

 特にこれを感じるのは自動車、 それも乗用車で移動するときです。 モータリゼーションを持ち出すまでもなく、 車の中から見る街の風景は、 大事なビューポイントとなっています。

 大阪の街は歩いてみるよりも車から見る方が遙かに美しいのです。 というのも車から見るとほとんど中景だけが見えるのです。 私は美しいと思いながら写真を撮り続けたのですが、 皆さんはどうでしょう、 美しいと思ってもらえるでしょうか。

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街の中景 高速道路
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街の中景 高速道路
 さらに極めつけは高速道路からの眺めです。 写真は中央大通りを走っているときに見える風景ですが半分空を飛んでいるようで、 ビルの上の方しか見えないのです。 このビルの上部だけをかっ飛ばしながら見る風景、 これは素晴らしいですね。

 こうなると、 広告看板がまた良いのです。

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街の中景 高速道路
 最後に私の一番好きな高速道路の風景ですが、 写真は伊丹空港のすぐ近くで、 おそらく近隣住民との関係でポール灯が使えなかったらしく、 ガードレールにランプが仕込まれています。

 この部分を走っていると、 まさにタイムトンネルを通っているような、 あるいは映画で宇宙船が光速を超えるときに星が一気にパーッと線になるのと全く同じ感覚があり、 スーッと別の次元に入っていくような感じがします。

 私にもっと写真技術があったらより的確に表現できたのですが、 いかがでしょうか。


モデル3/壁面の存在感

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都市の壁

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都市の壁
 次は都市の「壁」、 巨大な壁です。 連続する壁は私たちの背中を守ってくれるような安心感を与えてくれます。 騒がしくて賑やかな都心部では壁面の静かな存在感は素晴らしく貴重です。 物言わぬ巨大な壁面は感動的です。


モデル4/路面の存在感

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ガスビル前の路盤
 街の壁の存在感に美しさを感じると、 次にはどうしても「路盤の存在感」が目に映ります。

 私の好きな路盤の一つが大阪のガスビル前です。 このガスビルの敷地の中から御堂筋の歩道にすりついていく、 あの微妙なカーブの局面がたまりません。

 路盤の素材としてはアスファルトが好きですし、 御堂筋の歩道が石敷きになる前のコンクリート平板も私は大好きでした。 もちろん今の石のデザインもなかなか良いとは思います。

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神戸の居留地
 この写真は神戸の居留地です。 これは今見てきたような「路盤の存在感」と言えるほどのものではないのですが、 私はここで一つの発見をしました。

 多分神戸市は徹底的にバリアフリーを目指したのではないかと思うのですが、 敷地境界と道路とのすりつき部分の段差を徹底的にゼロにしているのです。

 写真を見ると路盤がうねっています。 排水路の方が少しずつ低くなっていて、 反対側も低くなってきて路盤を無理矢理同一面にすりつけていることがわかります。

 このように道路面と敷地の中とを全部無理矢理にでもすりつけていって完全に一枚の路盤にしていくと、 なんだか街がすっきりした感じがします。 一度是非行ってみて下さい。 私が「路盤の存在感」と言った美しさが、 こういう形で証明されていると思います。


モデル5/新旧のコントラスト

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吹田再開発ビル
 次は街のコントラストです。

 先ほどの吹田の再開発も、 私はこのように見る風景が一番好きです。

 ある所でこの写真を見せて「もっといい角度があるでしょう」と文句を言われましたが、 私は竣工写真としてこの風景を見せています。

 これを混在していると見るよりも、 「コントラスト」というように見た方がはるかに素直だと思います。

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大坂城とクリスタルタワー
 私はこのOBPのクリスタルタワーのプロジェクトには直接関わっていて、 大きな責任があります。 この形の超高層ビルを大阪城周辺に建てるために、 大阪市その他の関係者に説明してまわって、 ここにこの150メートルのビルを建てられるようにしたのは私なのです。

 ところがあるとき大阪城公園で、 修学旅行生のグループが天守閣を背景に記念写真を撮って入るのに出会いました。 記念写真の背景には天守閣は入らないようにしているのですが、 ちょっと右に行くとこのようにクリスタルタワーと天守閣が並んで見えてしまうのです。

 これを見たとき、 私は愕然として、 これはえらいことをしてしまったと思いました。 この写真を「コントラスト」などとといってしゃあしゃあと出す気は全くありません。 私はこの写真は絶対に外には出さず、 人にも絶対に言わないで知らんぷりで通すつもりだったのです。

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大坂城とOBPの超高層ビル群
 それなのになぜ今日ここに出したかというと、 実は大阪市の歴史記念博物館の上からこの風景が見えて感動したからです。 これはいいじゃないかと(笑)。

 クリスタルタワーだけの風景にはまいったけれども、 OBP全体が天守閣の背景になったこういう風景なら、 これは「コントラスト」ということで完全に自慢できると思いました。 今は本気でそう思っています。

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オフィス街のレトロな窓
 他にもコントラストのモデルを見て頂きます。

 本町のオフィス街の中にときどき混じっているレトロな建物やデザインされた窓、 壁面のちょっとした装飾、 建物の窓などもコントラストと言えるでしょう。 そういったデザインが街角に残っていると嬉しくなります。

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住友旧館
 これは住友銀行の新館から旧館の方へ、 一歩外へ出た時目の前に広がる風景です。 新館から出て旧館にパッと直面するときのコントラストが素晴らしいと思います。 これを空間のシークエンスと言うのでしょうが、 新鮮な空間体験です。

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ビルの谷間の古めかしい看板
 古めかしい店や看板がビルの谷間にあるのも、 もちろんコントラストが素晴らしい街の風景です。

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大林組本社ビル
 これは大林組の超高層ビルの足下から背後に辻調理師教室の古い建物を見た風景です。 手前の広場に立ちながら、 ガラス張りの内部空間を通して、 その向こう側にもう一度外部空間を見る。 そしてその先に古いレンガ貼りの建物を見るという、 空間的、 時間的なコントラストを同時に見せてくれる。 私が大好きな風景の一つです。


モデル6/にぎわい

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千里ニュータウン
 そして「賑わい」ですが、 これについては皆さん賛成でしょうから何も言うことはありません。

 繁華街で賑わっている風景を、 私は素晴らしいと思います。

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錦市場
 この錦市場のアーケードの屋根は、 とても私なんかは絶対思いつかない色彩で、 本当に感心します。

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道頓堀の夜景

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道頓堀におかれたパブリックアート
 最後の写真は僕の仕事ですが、 楽しませてもらいました。 道頓堀ではいわゆる良いデザインよりもこれの方が良いデザインではないかとも思います。 この前で写真を撮る人が毎日何組かはいて、 これこそ場所の力を活かすということではないでしょうか。


モデル7/インダストリー・パースペクティヴ

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連絡ブリッジ
 そして7番目ですが、 これはなかなかネーミングが難しく、 私は結局インダストリー・パースペクティヴと名前をつけました。

 インダストリーというのはこの場合「工業」ではなく「産業」という意味です。 つまり日本の経済成長期の経済力を背景とした産業風景と言っても良いかもしれません。 またパースペクティヴというのは本来は「透視図」という意味ですが、 これは「風景」あるいは語感から「将来風景」「未来風景」といった意味も含めたつもりです。

 町中、 特に淀屋橋の東側の街を歩くとこれを随所に見ることが出来るのです。 あの辺りは私の一番好きな界隈でもあります。

 この連絡ブリッジというものは無機的で無表情ですが、 中にパワーが充満してる感じがします。


モデル8/都市の情景

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アスファルトの道路と白線
 そして最後は、 ここまでの分類には含まれないけれども、 何か捨てきれない感じがするもので、 ここではまとめて「都市の情景」と表現します。

 これらを皆さんも私と同じように良いじゃない、 美しいじゃない、 と思われるかどうか見て頂こうと思います。

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街に切り取られた空
 都市の空です。

 この辺りはほとんどインダストリアル・パースペクティヴの連続みたいなものですが、 都市で感じるこの空の美しさというものに私はときどきはっとさせられるときがあります。

 こういう切り取られた空の美しさというのは田舎では絶対にありません。

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パーキングメーター
 私は路上駐車の風景というのは実は大好きでして、 ましてやこういったパーキングメーターなんかがあると、 奮いつきたくなるほどいいなあと思います。

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川と高速道路
 ときどきふと高速道路も良いなあと本気で思うときがあります。

 東横堀あたりで水面から反射した光が高速道路の裏側や橋脚の所に当たってサラサラ、 サラサラと波打つのを見たときは、 しばらく見とれて眺めました。

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町中の五重塔
 この殺風景な五重塔の孤独な姿は、 「コントラスト」のキーワードの所に入れても良かったかもしれません。


客観的に見るということ

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街角に忘れられた屋台・アップ
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街角に忘れられた屋台
 さて、 ここまで「生れつつある都市の風景」と私が思う風景を見て頂いたわけですが、 このような風景を美しいと言って本当にいいのだろうか、 という問いかけです。

 これはゴミです。 この写真を見る限りでは美しいとも思えます。 普通はゴミは汚いものですが、 これをちょっと絵にしてみようと思ってもおかしくはないでしょう。

 ところが離れて見てみると、 やはりこれはゴミ以外の何者でもありません。

 この二つの写真の何が違うかというと、 後者は背景の中に客観的にゴミを見ていて、 前者はゴミだけを見ているのだと思います。

 ですから、 私が今日ご紹介した「都市の風景」の見方ですが、 都市デザインをする責任のある立場、 つまりプロとしては「都市の風景」を自分だけで簡単に「美しい」と言ってはいけないのであって、 やはりそういう風景を客観的に見ることが私達の務めであり責任であると言えるでしょう。

 詩人や絵描きの立場で自分が美しいと思うからといって簡単に美しいと言うわけにはいかないと思うのです。

 今日は、 新しく生まれつつある風景に美しさが見えると言いました。 私自身は客観的な視点に立って話をしたつもりですが、 皆さんにもそう思って頂けるかどうかが、 一番の課題です。

 これで終わります。

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