フィンランドセミナー
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フィンランドの森・人・色彩

スペースビジョン研究所 宮前保子

 

タピオラ・ガーデンシティの集合住宅とオープンスペース

 森の神の郷を意味するタピオラ・ガーデンシティの居住区は、 タウンセンター地区のやや単調な景観と対比すると、 中低層住宅と森の調和というフィンランドの人々が理想とする暮らしの景観を見事に描き出していた。 この都市のプロデュサーたる住宅基金(アスントサーティオ)の初代総裁、 へイッキ・フォン・ヘルツエンがこのプロジェクトの理念と方向性を「自然を主に、 住宅を従に」と考えたことが、 ここでは正確に実現されており、 しかも建設がはじまってからおよそ50年を経過しても、 その理念が継承されていることが見えてくる。 また、 緑地率が50%を越える都市の様相とはこのように豊かななものであるのかを改めて感じさせてくれる。

 

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 しかも、 低層・中層居住区では、 樹木の高さを超えないよう建築物の高さを押さえているので、 道路からの景観は、 まさに森の都市そのものであった。

この居住区のオープンスペースである森が子どもにとって絶好の遊びの場にもなっていることを、 木登りしている少女が教えてくれた。

 

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森に囲まれながらも、住宅壁面色の白と下枝がないマツによって明るさが感じられる 遊具がなくても、子どもたちには森の木々が遊び道具になっている
 

カピュラのコモンガーデン

 カピュラは第一次世界大戦終結後に建設された木造集合住宅であるにも関わらず、 現在でも快適性、 利便性は何ら遜色がないように感じられる。 これは、 1965年に市が建て替えを計画したにも関わらず、 建築家グループの建て替え反対運動によって、 取り壊しから補修へと方向転換された成果であろう。 当初の1棟4世帯居住から、 現在では1棟1世帯居住に移行しているようであるが、 外観に関わる一切の変更を認めないという厳しい規制にも関わらず、 楽しそうな暮らしぶりがうかがえる。 その暮らしぶりを伝えているのが各棟の中庭であろう。

 

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太陽の光が一杯の菜園と樹木の木陰がガーデンに表情を与えている 隣家とのゆるやかな連続性がここに住む人々のゆとりを感じさせる
 
 建設当初は、 中庭にキッチンやシャワールーム、 菜園があって、 まさにコモンガーデンとなっていたようであるが、 現在も、 隣同士のゆるやかなおつきあいの様子や、 森や菜園からの恵みを享受できそうな様子が街路からもみてとれる。 たとえ居住空間は1戸平均60m2とやや狭くても戸外の生活を楽しめる集合住宅、 しかもコモンガーデンの伝統を受け継いでいる点、 今世紀に建設された木造住宅を外観も含めて保存している点、 都心から路面電車で約5kmの立地で外部環境も含めて確保されている点など、 低成長時代の日本の都市のこれからに参考になることが数多いものであると感じられた。


ヘルシンキの都市と建築の色彩

 ヘルシンキはいくつかの個性的な地域で構成されている。 それらの地域では、 建築の色彩も特徴的であった。 ヘルシンキの旧市街地を除いて、 都市の建築群の色彩として目を引くのは赤と白であった。 カピュラの木造建築の赤も非常に個性的であるが、 最近、 建設されたピック・フォパラハティでは、 集合住宅の壁面の赤とホーリーの赤がうまく調和している。 都市景観への赤の導入の仕方が美しい。 一方、 臨海都市でも林間都市でも、 白は空と水、 空と森の間にあって、 一段と際立っていた。

 

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ピック・フォパラハティでは、集合住宅と地下駐車場の出入り口となっているフォーリー、歩道のパターン、赤を基調として景観が構成されているがその色彩に違和感はない ヘルシンキ西部の新しいウオーターフロント開発地区。集合住宅の壁面の白さが冷たくなく、かえって暖かく感じられる
 
 ヘルシンキのもうひとつ特徴的な色彩はレンガのアースカラーである。 旧い市街地の建築群にもみられるベージュ系の色彩は、 赤と白が強い色彩のコントラストを訴えるのに対して、 優しい温もりを感じさせた。 中欧や南欧と異なる北欧の都市の色彩。 森と海、 そしておそらく空の青さを愛しているだろうフィンランドの人たちは、 都市の個性を色彩で表現することに長けている。

 

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タピオラの囲み型戸建て住宅。周辺の森の中にあって、住宅の壁面や塀の白さが、森の清潔感を一層、際立たせている。雪の季節の美しさも想像させる。 myyrmaki 教会の外観。外壁の壁面によって変化のある立面が構成されているが、背後の森に溶け込んだ色彩となっている。
 
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