私が再開発を専門分野とするようになって、 再開発事例はアメリカ、 ヨーロッパでは数多く見ることが出来たが、 上の2つは訪れる機会が無かった。 今回のセミナーでストックホルムを訪れることになり、 ロアー・ノルマルム地区再開発を見ることができた。
音楽堂から南へのショッピングモール(写真2)も歩・車分離に基くもので、 モールは買物客、 歩行者のスペース、 サービス車は裏側の道路からである。 ラインバーン商店街と同時期に計画・実施され、 その後の商店街再開発のモデルである。 又、 モール東側棟の3階から上部には18階建5棟のオフイスビルが乗せられている。 モール東西の商業棟には3階レベルでペデストリアンデッキが渡されている。 これらの景観は今では目新しく無いが、 当時の私達には商店街再開発は“これだ!”と思わせたものであった。
ノルマルムと同時期につくられたものであるから約40年経過しているが、 出来た当時(写真で見たもの)より賑やかになっているように思えた。 ノルマルム同様ここも市の中心部で、 市役所もすぐそこにあり、 ショッピングセンターと言うより市民の憩いの場、 シビックセンターと言うような空間になっている。
歩行者スペースのショッピングモール(写真3)とサービススペースとその駐車場(写真4)が空間的にも機能的にも明確に分離されている。 あまりに明確過ぎるので、 サービススペースでの犯罪が心配である。
その中でも、 テラスハウスと森の中のコートハウスが“これか!ふむ?”と当時を振り返り考えさせてくれるものであった。
私の大学時代、 1961年大谷幸夫、 水谷頴介氏等によるコートハウスを住居単位とした市街地再構成のケーススタディ「麹町計画」が発表された。 大学院、 研究員時代、 水谷頴介氏に師事した私は、 再開発地区計画で低層部商業施設その上部をコートハウスによる住居の構成案を数多く書き、 模型を作って来た。 西澤文隆氏設計のコートハウスも建築雑誌で見てきたし、 水谷氏旧自邸(芦屋市)コートハウスの工事現場へも何度か行った。
自然の量の違いで全く逆の概念のコートハウスという住居形態が生まれている。 多分、 タピオラが原型であろう。 但し、 タピオラのコートハウスは、 賊が侵入したら大変怖い住宅である。
再開発の古典とコートハウスの原型を訪ねて
有光友興
1。 ロアー・ノルマルム地区再開発(ストックホルム)
ロアー・ノルマルム地区再開発が日本に紹介されたのは、 1962年(昭和37年)頃の事だと思う。 私の卒業論文「商業地区再構成のための構成要素の解析」の調査素材にさせてもらった「三宮センター街、 板宿商店街再開発調査報告書(略称)1963.3」に先進事例として、 ロアー・ノルマルム地区再開発の一部、 音楽堂からセルゲル広場に至る商店街とラインバーン商店街(ロッテルダム)のショッピングモールの写真が紹介されている。
写真1
写真2
この地区の再開発の実質的開始は1951年とされており1990年頃には完了している筈であるが、 半世紀後の今日、 再開発の古典と言えるものである。 我々が宿泊した旧都心ガムラ・スタンに代わる老朽低水準住宅(石造)地区190haを新業務中心地区(CBD)につくり変える再開発である。 事業主体はストックホルム市であるが、 土地収用法を制定した国を挙げての事業である。 地区の機能転換誘導手法は、 車と人の分離、 立体交差の徹底である。 グランドレベルは人、 その上下に駐車場、 サービスエリア、 一般街路は高架レベルである。 交通動線が集中するセルゲル広場(写真1)がその代表である。 チャールズセンター(ボルチモア)等その後の再開発の多くはこの構成である。
2。 ラインバーン商店街(ロッテルダム)
JUDIセミナーの2ヵ月後11月にエジプト旅行の帰路、 オランダ、 ベルギーを訪れた時、 1人ロッテルダムに立ち寄りラインバーン商店街を見てきた。 2002年は再開発の古典を訪ねる念願成就の年となった。
写真3
写真4
ラインバーンは、 従前が約800mの帆船用ロープの引き伸ばし場所であったから再開発と言うより土地利用の機能転換であるが、 商業空間づくりのモデルである。
3。 タピオラのコートハウス
ヘルシンキセミナーでは様々な住宅地区の環境とその取り組みを学習したが、 私にはやはり最も古い開発のタピオラが日本の団地開発のモデルの1つであった点で身近に感じた。
写真5
写真6
私の中ではコートハウスは、 自然の少ない市街地の中でプライバシーを保ちながら自然を取り込む住居形態であった。 タピオラのコートハウス(写真5)は、 有り余る自然の中で、 むしろ自然から住環境を護るための住居形態のように思える。 テラスハウス(写真6)も、 自然を区切り自ら小さな自然をつくるコートハウスと同じ考え方でつくられている。
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