サラスティエ:
|
保存対象になっている集合住宅
|
ここは1960年代初期の住宅で、 DOCOMOMOのリストにすでに載っていたので、 簡単に決めることが出来ました。 といっても評価するには難しいところがあります。 どんな問題があったかを少し紹介しておきます。
このエリアは工場生産されたコンポーネント組立のプレハブ形式で作られた住宅地ですが、 断熱材がダメになっているし、 コンクリートの質自体が悪いので、 建築的な価値を残しながらどう保全していくかが難しい問題でした。 建築技術もすでに消滅していて、 修復方法も分からなかったのです。
薄い壁に表面の仕上げをして、 外見的には建築上の保全がされているやり方をしていますが、 これは正直なやりかたじゃないですよね。 今の生活に合わせてきちんとした機能を持たせるには、 もっと壁を厚くする工法でやらないといけないのですが、 そうすると外見が変わってしまうと言う問題が生じてしまいます。
建物以外の問題点を言うと、 ここの住人の高齢化が進んでいてあまり高いお金を家に払えないということもあります。 財政上も住人の心理上からも、 住み慣れた所で死ぬまで生活を続けることは大事なことですので、 これは社会的な問題だと思います。 日本も同じ問題を抱えていますよね。
バリアフリーの観点からの問題もあります。 昔の建物は4階までならエレベーターの設置が不要でした。 今は国と市がエレベーター設置費用の50%を負担する制度がありますので、 どこでも人々はエレベーターを付けたがっています。 だけど、 そうした住宅の場合、 建物の外側にしかエレベーターを付ける場所がなくて、 付けると外見が変わってしまい、 保存の対象から外されてしまうこともあります。
|
ユーゲント・シュティール様式の建物の階段室
|
近代建築の建物でもエレベーターのように新しい構造物を付けたら、 外見が全く変わってしまうのです。 都心部の歴史的地区でも同じ問題が起きています。 15年前に、 ユーゲント・シュティール様式の建物の修復をしたとき、 階段部分にエレベーターを付けたら建物の環境が損なわれてしまいました。 ですから、 今では建物の外側にエレベーターをつけるようにしています。
北野:
保全するときの費用についてうかがいますが、 行政と個人の負担の割合はどうなっているのですか。
サラスティエ:
行政からの補助は少しだけあります。 20%ぐらいですかね。 スウェーデンに比べると、 とても少ないと思います。
また、 私たちから見て建築的に価値があると思っても、 そういうことに無関心な住人だと、 お金のかかる木の窓枠より安っぽいアルミの窓枠を使ってしまうことも多く、 これも問題だと思います。 そんなことをすると、 オーセンシティ(真実性)がなくなってしまいます。
江川:
集合住宅のリノベーションという概念も、 今世界中で認識されつつあります。 保存すべき歴史的建築の場合、 本体をいじらないで外側にガラスのエレベーターを付け保存する部分と新しい部分をはっきりさせるという手法がありますが、 そういうのはどうでしょう。
サラスティエ:
私もそれが良いと思っています。 保全がエレガントにできる一番いい方法です。 しかし、 経済的事情でそれが許されない事が多いんです。
前に 目次へ 次へ
このページへのご意見はJUDIへ
(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai