一つ目は、
です。 もう一つは、
であって、 そしてこの「プロセス」というものが普通の都市計画、 つまり行政主導のプロセスとは非常に異なっていると思います。
そういうことで、 この二つを合わせたものをまちづくりの定義としているわけです。 特にこの「プロセスの解明」が、 研究の命題でもあるわけです。
まちづくり条例には、 特に重要な二つの制度が含まれています。
第一は、 「まちづくり協議会制度」です。 協議会制度の仕組みで重要なのは、 「まちづくり協議会規約」と「まちづくり協議会総会」です。
たとえば、 区画整理事業も地区計画制度も個人の利害が絡んでいるわけですから、 地区に関係する全ての人々を協議会員とする合意形成組織を作るということが「規約」にきっちり謳われていないと、 他に異なる組織が出来たりする恐れがあります。 いろんな段階で前の計画に対して無効を唱えるというようなことも発生することがあるなど、 いろいろな混乱が発生したときに「規約」の重要さがわかります。
それから、 住民の総意としなければならないような重要事項を協議会員全員が参加資格を持つ「総会」で決めることになっています。 これは、 民主主義の根幹にも関わることです。
第二は、 「まちづくり提案制度」です。 これは、 先ほど「協議会活動のプロセスがまちづくりのプロセスだ」と言いましたが、 つまりそういった協議会活動のプロセスを計画に「発現」するための重要なツールです。
[まちづくり提案」は、 これまでのまちづくりでは、 「まちづくり構想」など限られたものでしたが、 長いまちづくりのプロセスから、 数多くの「まちづくり提案」が行われることになります。 「まちづくり提案」を協議会から市長への提案するものとして、 まちづくり提案の変更や様々な組織認定の申請も含めると、 新長田駅北地区東部では、 これまで五十数個の提案が行われています。
このような形で協議会が総会で決めた提案を市長に出していくことによって、 住民と行政との計画の共有、 時として共振化が起こってきます。 これが「協働まちづくり」だと思います。
こういったシステムは、 今回の震災の経験を通して一般化しつつあるようにおもいます。
これからわかったことは、 まちづくり全体の構成が、 各章の右に括弧書きしているように「協議会活動のプロセス」「まちづくり提案ツール」「制度対応」という三つのが相互に関係しながら成り立っているのではないかということです。
各章の詳しい内容は、 省かせていただきますが、 おおむね次のような内容を論じています。
第1章は、 地区再生の課題の下に、 まちづくり提案に対する制度対応の状況から、 まちづくりにおける「制度対応」について考察しています。
第2章と第3章は、 共に「まちづくり協議会活動のプロセス」を論じています。
第2章では、 まちづくり協議会活動の全体プロセスを考察しています。 新長田駅北地区東部まちづくりの特徴は、 協議会活動のプロセスが街区単位の協議会どうしの多元的な自己組織化によって進められ、 計画形成が多様なまちづくり活動の成果を示す「まちづくり提案」の積み重ねにより行われたことにあるを明らかにしています。
第3章は、 「地域形成の骨組み」「「街区から地区全体に至るまちづくりのプロセス」の2つの視点から、 市街地整備計画の形成プロセスとシステムについて考察しています。
第4章以下は、 「まちづくり提案ツール」についてです。
第4章では、 区画整理事業と連動した共同建替計画のプロセスを考察し、 共同建替を可能にした要因は、 協議会が自律的、 かつ柔軟に土地利用計画を管理する「土地利用適地」の一つである「共同建替適地」の機能にあることを示しました。
第5章では、 ケミカルシューズ産業地である当地区での「産業観光」の視点による地場産業振興、 市街地活性化の取り組みの実態から、 「産業観光」の視点によるまちづくりの意義を示しました。
第6章は、 住民が自主運用する町並み景観ルールの作成及び運用のプロセスを考察し、 自主運用によるルールづくりがコミュニティを育てるとともにビジョンやルールの進化を促すことになるのではないかという視点から論じています。
各章は、 それぞれ独立したものでなく、 連関していますが、 このような考察を通じて得られた知見を「住民主導のまちづくりシステム」としてまとめています。
なんといってもまちづくりの主軸は「まちづくり協議会活動のプロセス」です。 これは今日のテーマでもあります。 「協議会活動のプロセス」を計画に発現していくため「まちづくり提案ルーツ」が機能して「まちづくり提案」が行われ、 まちづくり提案を実行レベルに至らしめるのが「制度対応」です。 このような循環で作られた「制度対応」は、 新たな協議会活動の支援機能を持ちます。
表の横軸に「協議会活動のプロセス」「まちづくり提案ツール」「制度対応」の3つの項目があり、 これをパソコンに例えるとOSにあたるまちづくりの基本ソフトといえます。
インプットされるのが「協議会活動における情報と現象」です。 それに対応する「協議会活動のプロセス」の技術が、 「情報の編集」、 「協議会活動の現象への注意と対応」、 その対応としての「多様なまちづくり組織化への支援」などです。
「情報の編集」とは、 協議会からの情報をコンサルタント等自身に有するカテゴリーやプロトタイプを探し、 協議会がまちづくり提案に向けて議論しやすいような情報として加工してアウトプットすることですが、 このカテゴリーやプロトタイプにあたるのが、 「まちづくり提案ルーツ」であり、 「制度対応」です。
まちづくり協議会活動において起こりつつある状況に注意し、 評価し、 どう対応するかということが、 最適な「まちづくり活動のプロセス」とするために重要です。 これを「協議会活動の現象への注意と対応」といっています。 これが、 住民主導のまちづくりの特異な点であり、 議論すべき核心でないかと考えています。
「まちづくり提案ルーツ」や「制度対応」は、 在来の計画技術の知識の延長線上にあるとともに、 まちづくりにより生まれる種々のメニューです。 パソコンに例えると種々のアプリケーションということになります。
「計画技術ツール」というのは、 コンサルタントなどの専門家が従来の計画技術をまちづくりに対応するようにしたツールです。 具体的な例をお示しいたします。
それぞれの協議会では、 街区の整備計画を中心に議論しながらも、 その中で全体の都市計画決定されたものに対する検証、 それを認めるかどうかといった議論も行われ、 さらに共同建替や地区計画といった計画も同時に動いていくのです。 そのような複雑な流れの中でビジョンづくりといった機会も生まれてきます。
ですからこのような「座標」も一つのツールとしてもち、 協議会の状況や現象に応じたタイミングで、 やるべき課題を見つけていきませんと、 できることも限られてきます。 まちづくりの熱気は、 仮換地までの初期、 おおむね5年間ぐらいに重心があることを思えば、 震災復興まちづくりは、 不可逆であることを痛感します。
これは「まちづくり」でなければできない土地利用計画手法でです。
当地区では、 地区計画も定められています。 地区計画は、 法的に縛られるので最小限の対応しかできませんが、 この「いえなみ基準」では、 強制力が無い点、 望ましいルールをつくることができます。 又、 住民自身がルールを自主的に運用することから、 自立的なまちづくり活動を促し、 現れてくる町並みとともにルールが確認され、 問題が発見されて、 ルールが進化する状況が生まれています。
まちづくりが、 地区計画といえなみ基準の併用というルールづくり手法も生みだしたといえます。
「まちづくり提案ツール」に色々なアプリケーションがあるように、 「制度対応」についても色々なアプリケーションが必要です。
二つ目は、 「まちづくり活動のプロセス」が重要だと言いましたが、 そのときに「まちづくり提案(計画形成)」に持っていくツール「まちづくり提案ツール」が必要であり、 そういった技術メニューを蓄積してく必要があるということです。
そして最後に、 これら「協議会活動のプロセス」「まちづくり提案ツール」「制度対応」は循環的な構造を持っているわけですが、 そこから行政はまちづくり支援のためのメニューをさらに制度化して、 まちづくりの支援を容易にしていく必要があります。
例えば先にお話しした「まちづくり条例」の「まちづくり提案制度」や「協議会制度」は、 まちづくりの最初に用意されたていたことが、 震災復興まちづくりを容易にしました。
このようにして多くのまちづくりの体験を蓄積していくシステムを「まちづくりシステム」と称しているわけです。
さて、 「まちづくり活動のプロセス」が重要と言いながらも、 話を後回しにしてきました。 「まちづくり活動のプロセス」を左右するものは、 協議会活動において時々刻々に変わり現れる様様な動きです。 この現象に注意することが必要ですが、 、 都市計画の世界では適切な言葉がなく、 このような動いてる現象を把握し評価する方法をもっていません。
協議会活動の現象について注意を向け評価する手段として「複雑系」の概念を援用できるのではないかとと考えています。 それをこれから断片的ですが、 お話しいたします。
2。 まちづくりのシステム
「住民主導のまちづくり」とは
まず「住民主導のまちづくり」の定義ですが、 私は重要な意味として、 二つあると思います。
「市街地形成、 コミュニティ形成に関する地区住民等による合意形成組織の活動」
「その活動により計画や市街地の姿へと発現するプロセス」
まちづくりの基盤としてのまちづくり条例
さて、 「まちづくりシステム」を考えるうえでの前提条件として、 神戸市の「まちづくり条例」(神戸市地区計画及びまちづくり条例に関する条例)があげられます。 この条例は、 震災復興まちづくりの基盤となった仕組みです。
学位論文の構成
さて、 以上の前提条件において今回論文でまとめた内容は次のとおりです。
序 章 研究の目的と概念規定
「きんもくせい」など様々な所で報告しましたこの地区の8年間の内容を基にしながら、 まちづくり全体の構成の組み立てを試みましたが、 このような章立てにすることが、 何かすっきりとするように思いました。
第1章 市街地再生の課題と制度対応 (制度対応)
第2章 まちづくり協議会活動のプロセス (協議会活動のプロセス)
第3章 市街地整備計画の形成プロセス ( 〃 )
第4章 共同建替における「土地利用適地」の機能 (まちづくり提案ツール)
第5章 ビジョンづくりキーワード「産業観光」の機能( 〃 )
第6章 自主運営による「いえなみ基準」の機能 ( 〃 )
第7章 まとめ−住民主導によるまちづくりシステム
「まちづくりシステム」とは
もう一度「まちづくりシステム」の構成を整理しますと、 「協議会活動のプロセス」「まちづくり提案ツール」「制度対応」という三つが、 循環的に機能するシステムを考えているわけです。
まちづくりシステムの概要
これを表にしたものです。 この表の表現が適切でないかもしれませんので少し補足します。
まちづくり提案ツール
「まちづくり提案(計画形成)」に持っていくための「まちづくり提案ツール」として、 「活動ツール」と「計画技術ツール」の二つに分けて考えています。 まちづくりといえばワークショップがよくでてきますが、 ワークショップはあくまでも「活動ツール」の一つだということです。都市原型、 地域文脈の解読
それぞれの町には、 地形を生かし、 歴史的な街路網や土地利用システムを継承した固有の秩序を残していることがあります。 これを「都市原型」としますとまちづくりにあたって、 都市原型を見極めることが必要です。 そこには、 その町の自然、 歴史とともに、 現在の生活を知る手がかりを得る情報となり、 また地区のビジョンづくりの基盤となると思います。
長田地域の都市原型「条里プラン」(図中の白い部分は、他の震災復興区画整理及び再開発の区域を示す)
例えば新長田駅北地区は条里制に影響を受けた道路網を継承してきました。 この地区の都市原型は、 条里プランです。 この地区の条里プランから、 地区の人々の高取山に対する愛着、 継承すべきコミュニティの単位、 街路形態、 また当地区では、 「杜の下町」をビジョンとして掲げられていますが、 ビジョンづくりのヒントなどの情報を内包しているのです。 外国籍住民とともにゴムからケミカルシューズ産業へ展開してきた地域産業の文脈への理解も将来の産業を考える上で必要なものです。ビジョンづくりのキーワード
「お年寄りと子どもが遊ぶ杜の下町」
お年寄りと子どもが遊ぶ杜の下町とは、 森の緑豊かな環境を基盤に、 福祉に配慮し、 住工商が相乗する魅力あるまちづくりをめざすものです。
協議会で話し合われてるビジョンが、 多くの人々に関心が持たれ、 共鳴を得ていくためには、 ビジョンの内容が端的に表現され、 みんなで共有できる言霊としての力をもつキーワードが必要です。 当地区では、 「産業観光」という視点からの「シューズギャラリー構想」「アジアギャラリー構想」などの積み重ねが、 「杜の下町構想」という当地区のビジョンを具体的にしました。計画形成の座標
計画形成の座標
計画を進める上で、 一般的には、 「長期的広域的視点」「地域の骨格形成」や「地区の骨格形成」、 さらには「街区内の環境基盤」、 そして「生活環境、 産業環境、 土地利用」といった段階的な「流れ」がありますが、 住民主導のまちづくりでは、 従来のように上から下に順序良く進んで行くというわけではありません。土地利用適地
土地利用適地
「土地利用適地」は、 協議会総会で議決された土地利用計画で、 「区画整理は、 照応の原則により原位置に近い換地が原則であるが、 それを踏まえた上で、 地権者の意向と行政の換地操作上の条件が適合した場合に土地利用適地を考慮して換地しよう、 又土地利用適地にふさわしい利用として建築しようという、 住民どうしの柔らかなルール」です。 特に土地利用適地の一種である「共同建替適地」は、 共同建替参加希望地権者の変化に対応しながら、 住民の自己規制と柔軟性により、 最終的に共同建替希望権利者のほとんどが共同建替適地に換地されました。いえなみ基準
工業系地区の「地区計画」(地区整備計画)と「いえなみ基準」の制限内容の比較
新長田駅北地区東部では、 「いえなみ基準」というルールづくりが行われました。 これは神戸市景観形成市民協定として認められた民民間の協定であり、 住民による「いえなみ委員会」により、 ルールの運用が行われています。
制度対応
まちづくりへの制度対応区分
次に「制度対応」についてですが、 まちづくりの観点から見ますと、 「都市計画施策」「まちづくり支援施策」「ハードな事業を実行していく施策」、 それから「まちづくり提案でつくられた様々なビジョンを実行していく施策」といったものに便宜上分けることが、 有効だと思います。
「まちづくりシステム」研究の狙い
それではこの「まちづくりシステム」の研究の目指すところは何かというと、 一つはまちづくりの中で「協議会活動のプロセス」における現象を抽出していって、 その対応の経験を蓄積していく事です。
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