これから太左衛門橋のデザインについてお話しします。 今まで見てきた遊歩道は水辺の景観を生かそうと、 すっきりした軽やかな感じになっています。 ただ、 道頓堀はそれではすまない場所柄です。 やはり「におい」を持った場所ですので、 橋の方でそれを表現するのがいいだろうと話し合いました。 遊歩道はさらっと通して、 橋の方で「場所の力」を表そうということになりました。
この橋のデザインをめぐって、 まずは場所の力、 そしてコラボレーションの力についてお話しします。 4-1 太左衛門橋のデザイン
そのコンセプトについて中村伸之(ランドデザイン)
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幕末に近い頃の太左衛門橋です。 版画集「浪花百景」に載っていました。 木で出来た橋で、 反り返った形をしていました。 また橋の両側が水茶屋の隙間に入っていき、 橋が街と一体化していたことが分かります。 そこを抜けると向かいに芝居小屋があるという構成になっていました。
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時代不詳ですが、 おそらく昭和に入ってからでしょう。 これを見ても橋の両側の建物と密接な関係になっていることが分かります。
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今、 遊歩道の工事がされている太左衛門橋の姿です。 今の橋も昔の木橋のイメージを受け継いだような欄干の作りになっています。 岸辺の建物は水茶屋からビルに変わりましたが、 建物の機能としては相変わらず飲食の店でして、 そこから川を眺める形になっています。
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晴れがましさを演出するデザイン
これからは具体的な橋デザインに結びつく、 いくつかのネタをお見せしていきます。 私はまず「晴れがましさ」を演出したいと思い、 そのイメージを探しました。
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これは江戸時代の歌舞伎の舟乗り込みの絵です。 役者さんが舟に乗って顔見せをするときのシーンで、 向こうに見える橋が太左衛門橋かなと思います。 堀沿いに並んだ水茶屋の軒下には提灯が吊され、 そこから舟乗り込みを見物していたり、 船上の燭台にろうそくが灯されています。 電気のなかった時代にろうそくの明かりだけで、 夢のような夜景の演出が出来たことに驚かされます。 こうした雰囲気を橋のデザインに生かせないかと考えました。
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これは道頓堀ではなく大川で行われる天神祭りの様子ですが、 こちらも水辺の建物が提灯で飾られていたり、 屋形船の軒下に提灯が吊してあったりと灯りの風景がデザインされています。
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新しい太左衛門橋のイメージ図 |
新しい太左衛門橋のイメージ図 |
橋に屋根をかけたことで見通しが悪くなるとの指摘もありましたが、 考えようによっては囲むことでより劇場性が高まるのではないでしょうか。 コの字型の空間ができて、 三方から堀を見るような桟敷席ができるのではないかと考えました。
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これは上方歌舞伎の役者絵で、 太鼓橋の上で勢揃いしている絵です。 この橋は太左衛門橋だと私は思うのですが、 橋が役者を紹介する舞台にもなっています。 そういうところから、 堤さんの太鼓橋のプランが出てきました。
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もともとある橋はフラットな橋ですが、 その両側に太鼓橋を付け加えるプランです。 当然落差が出てくるので、 それを階段で解消する面白いプランです。
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コラボレーションによる橋のイメージ |
さて、 これを実際どうするかという段階になると、 江川先生の登場です。 私はイメージが出来上がったところで「ああ面白いな」と終わったのですが、 実際どうするかになるとお手上げです。 ここから江川先生の苦難の日々が始まるわけです。