道頓堀遊歩道計画のコラボレーション
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5 照明計画

長町志穂&田中稔(松下電工)

 

コンセプトの検討

長町

 私たちからは、 これまでお話のあったそれぞれのコンセプトにもとづいた照明デザインについて説明いたします。 今日に至る過程の中では、 照明に関しても熱いディスカッションが繰り返されました。 それをちょっとでも感じていただけたらと思います。

 まず私の方からは、 照明計画のコンセプトと最終案に至る過程を説明し、 その後で具体的な内容を田中から説明させていただきます。

 我々照明チームがディスカッションに加わったのは、 ちょうど個別案が整って統一案に至ろうというタイミングの時でした。 遊歩道や橋について様々な議論が繰り返されていて、 そこが照明計画のスタートラインになりました。

 それについて簡単に申し上げると、

 (1)照明計画は完全に作り込んだものを全面に出すのではなく、 年月を重ねながら住民やそこにやってくる人々が関わることによって成長していく照明をJUDIらしい形式のもとでプレゼンしていく。 つまり、 インフラとして完成せずに、 最低限の足元の照明だけ確保しているシンプルさにしておき、 追加発展していく余地を残しておく照明設備を何としてもやっておこうと思いました。 これを一番大事な考え方としました。

 (2)時間軸によって明るさを演出する。 夕方から深夜、 深夜から早朝までの2つの時間軸の照明を設定し、 この場所ならではの照明を考えました。 最初に何度も指摘されたように、 道頓堀のネオン、 水面に映るネオンの光はここだけで見られる大事なインフラですので、 橋の照明でそれをつぶさずに人工的な明かりの中に取り込んでいくことが大事だと思いました。

 (3)ただ、 橋の照明を人工的な明かりに取り込むとは言っても、 何かアイポイントとしての照明設備が必要になった場合は、 環境エレメント(例えば石積みやウッドデッキなど)と呼応する素材感を重視した照明設備にしたいと思いました。

 これらの考え方をスタートラインにして何か違うアイデアが乗せられないかと考えていました。

 また大事な場所のコンセプトのひとつとして、 祝祭性、 舞台、 パートタイムなイベント(今だったら若い人たちが踊ったりする出来事とか)が行われる場所というのがありました。 その時の照明はどうあるべきか、 またやってくる人々の姿を影のようになぞれないかということをあれこれ考えながら、 照明計画を進めていきました。

 計画を進めつつ、 メンバーと様々なディスカッションを行っていきましたが、 その中で照明のパターンランゲージを決めていこうということになりました。 例えば環境エレメントのひとつである階段の明かりはどうすべきかでは、 点にして踏み面を照らすのか横から照らすのかを考えました。 最初に申し上げたように、 成長するあかりの場に一番近いのはどんな手法なのかをディスカッションいたしました。

 またディスカッションの結果、 エレメントを絞り込んでいくことになりました。

 まず、 基本的には間接照明で様々な部位を照らし上げることにします。 重要なエレメントとしては石積みがあり堀の復活というイメージを持っていましたので、 それをしっかり照らして目に入ってくるようにしました。 また階段を作って空間の立体性、 石とウッドの素材感の違いを出していますので、 それを分断しないで川に沿った流れを感じさせるためにはどうしたらいいのかなどをディスカッションしました。

 別の観点からの問題点については、 樹木のライトアップがありました。 これも白熱した議論がなされ、 何でもかんでもライトアップしてしまうのはいやだという意見も随分出ました。 ですから樹木のライトアップについては悩んだところですが、 結果としては樹木に当たる光を環境光(場の明るさ感に寄与する)のひとつとしてとらえて生かしていくことになりました。

 なお、 照明計画全体を通して、 最低照度との闘いが予想されました。 時間によってどこを明るくしておくかを考えようという意見が出まして、 常に明るくして歩行のための空間だと言い切れる場所とそうではない環境、 つまり後から光を足すことのできる場所とを整理していきました。

 舞台部分についてですが、 当初は舞台感を出すために、 例えば川岸から橋に向かってのスポットライトの効果を出しましょうなどの案を出してみたのですが、 それは案としてはもうひとつだなとなり、 結局、 舞台の結界だけを表すものをひとつ置いてそれをアクセントにすることにしました。 ここでは形で遊ぶのではなく、 素材感が前面に出る物体にしようということが最終案になっています。


マスター・コンセプト

 マスター・コンセプトは、 最初の繰り返しになりますが次の通りです。

 (1)時間帯によって変化する照明
 深夜から早朝の時間帯は周辺のネオンが消えている時間帯ですので、 その時間帯は川面に点在する照明を落として、 川のラインを強調する計画です。 夕方以降のネオンがついている時間帯は、 逆に川に光を落とさずネオンが川面に映る計画にしています。

 (2)場所性を配慮した明かり
 植栽、 橋、 水際、 川面などの場所性を配慮いたします。

 (3)歴史性、 祝祭性の演出
 仮設的な演出照明のための設備や橋の照明について考えました。

 

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配灯のイメージ
 
 これが完璧なプロット図になる前のおよその考え方です。 夕方から深夜、 深夜から早朝にかけての光の分量感を表してます。 ウッドデッキを歩行空間ととらえ、 その他の部分は深夜は通らないものとして考えるとこのように暗い状況になります。 しかし、 ここがミソでして、 将来、 川面に向けて店舗が間口を開いてくるとき、 店の照明が光を投げかけてくるだろうとの予想を立てて照明計画をまとめようということになりました。


照明の実施計画

田中

 私からは、 照明計画が今どんな風に進んでいるかを説明いたします。

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戎橋から太左衛門橋を見た夜景(夕方〜深夜2時頃)
 道頓堀のネオンが消えるのは深夜2時頃で、 この時間を境に照明を変えるシーン設定をしています。 太左衛門橋のライトアップのために、 橋の真ん中には夜景の焦点を作る光があります。 これを中心にして、 ほぼシンメトリーに樹木のライトアップをいたします。 この絵では見えにくいですが、 スロープの照明もあります。 そして、 これらを貫くように導線の明かりが連続していく計画です。

 また、 橋のたもとには、 今説明がありました舞台性をイメージしたミニマルオブジェを配置しています。

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深夜〜早朝の照明計画
 これがネオンが消えた後の照明計画です。 ここでは防犯上必要な最低限の明かりは残していくことを考えました。 橋の上部や樹木のライトアップのような演出上の照明は消灯あるいは調光による減灯にして、 光量を落としていく計画になっています。

 ネオンがついている時間帯は川面に映る街明かりを尊重するために水際の演出は何もしていませんが、 ネオンが消えた後は水辺を感じるために何らかの水際照明を施そうと計画しています。

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下段デッキ歩道の照明(移動空間)
 ここから各部位について説明していきます。

 このデッキ歩道の照明は2種類の光のエレメントがあります。

 ひとつは移動空間(青部分)の照明で、 ここは壁面から床面に向かってなめるような光を連続させることで、 照度を確保しつつ連続性による視線誘導をはかっていきます。

 もうひとつの緑部分は、 幅が少し広くなっている滞留空間の照明で、 ここは床から壁面に光を当てて光のたまりを作り、 連続する空間の中で変化を持たせました。

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中段(石貼り)歩道の照明
 石貼りの歩道の部分ですが、 ここは当初計画していた官民境界部分のパネル下の間接照明ができなくなったという話ですので、 現状としては下段遊歩道との境界にある支柱に何らかの照明を入れようと話し合っています。 デザインはこれからですが、 そういう方向で進んでいます。

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中段歩道(石貼り)の照明
 ここは苦労したところで実施設計に入ってから、 大阪市から高い照度基準を提示されました。 交差点の道路照明と同じ明るさに相当する15ルクスを提示されたのですが、 これは照明学会が「周囲が明るい所では照明もそれに伴って高くなる。 明るい中で一部暗い所があると、 視認性が極端に落ちて危険だ」と指摘していたことが背景にあります。

 もちろんそれは一理あることですが、 我々にとって15ルクスは厳しい値でした。 大阪市としては安全な照明をしきりに言っていましたが、 JUDIとしては低い照度で統一したいと考えていたので、 この照度でも人の顔や影はちゃんと見えることをシュミレーションで示し、 低値照明でやっていくことに落ち着いています。

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階段・スロープの照明
 ここでは段差の視認性や照度確保のために、 水平ラインを強調しました。 また、 アイキャッチ性を持たせることで、 空間の中の特徴的な夜景を表現していこうということになりました。 下は細いスリット照明でやっていこうと思っていますが、 今はその配列パターンの検討をしています。

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ミニマルオブジェの明かり
 長町さんが思い入れを持ってデザインした照明で、 素材はグラソワというガラスレンガを使っています。 光の透過の仕方に特徴がありまして、 これを積み上げることで光の存在を表現するデザインになっています。

 ただこれも、 大阪市からいろいろと言われまして、 人が上に乗っても大丈夫なデザインにしますと長町さんが言い切って、 何とかこの形でいきたいと今進めているところです。

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水際照明
 実は、 道頓堀に水際照明は果たして必要なのかという話がありました。 ゴミを照らすことになるんじゃないかと心配されたのですが、 実は水際照明はすんだ奇麗な水より多少汚れていて水中のチリを照らした方が効果が上がるものなんです。

 もちろん、 道頓堀の汚れは「多少」レベルではないので、 今いろんな光源を持ち込んだ実験を準備中です。 4月中にはなんとかしたいと思っていますので、 皆さんもぜひご意見をお聞かせ下さい。

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太左衛門橋の照明
 模型をペンライトでライトアップしてみましたところ、 垂直格子の骨格が順光、 逆光で美しく浮かび上がりました。 これが照明計画のスタートだったのですが、 とても夢が膨らむ瞬間でした。

 

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照明の考え方
 
 まずライトアップでは木橋の魅力を引き出すため、 光源色で低い色温度を基本にしています。 また遊歩道からだけでなく戎橋からも目できちんと見える照明を確保しようと考えました。

 また橋上の照明は防犯性のほかライトアップ効果を阻害しないために光の高さや配光、 輝度の加減を検討しています。

 階段については段差の視認性を確保するため、 遊歩道との関連性を持たせることに気を配りました。

 橋下の照明は、 遊歩道との連続性と共に防犯性が求められますので、 上部からの補助照明を付加していくことを考えています。

 

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CGシュミレーション
 
 いろんな検討をしたわけですが、 進め方としては照明の演出性と機能性を別々に検討するのではなく、 同時にやっていきました。 光に関する要素だけを入力してそこに配光を落とす形で、 CGを使ったシュミレーションを試みてみました。

 例えば、 先ほど模型で見た橋上の照明については、 天井を照らすだけでちゃんと照度も防犯性も確保できるという検討をしています。 上部の照明のあり方も、 高い照明、 低い照明といろいろ考えられますが、 外から見てライトアップを阻害しない照明はどちらなのかを考えていきたいと思います。

 これ以外にも段差の照明がきちんととれているか、 ライトアップは建物中心でいくか視認性中心でいくかなども、 今は比較検討しつつ進めているところです。

 ですから、 照明計画もまだ流動的なところがありまして、 このような形で進んでいます。

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