海外建築家の日本での仕事
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3。 中之島三井ビルディング

 

 ここからは、 同じく中之島で行ったプロジェクトとそれ以外の日本でのペリ事務所の仕事について紹介していきます。

 まずは民間のプロジェクトである中之島三井ビルディングについて。 1998年にコンペが行われ、 私たちはデザインアーキテクトとして日建設計さんと一緒に仕事をしました。


デザインアーキテクトという職種について

 デザインアーキテクトという日本ではまだなじみのない職域について説明しておきます。 三井不動産が東京の室町で三井本館のコンペを行った際、 この形式をとったのですが、 この時シーザー・ペリやKPF、 SOMなどそうそうたるメンバーが参加しました。 デザインアーキテクトとは文字通りデザインをまとめるという意味ですが、 サポートしていただける構造や設備事務所などのエンジニアとは違う領域でプロジェクト全体のデザインをコーディネートする役目が大きいと考えています。

 日本ではデザイナーというとただ外装のみを手がけるというイメージがまだまだ強いのですが、 アメリカではこうした職種が確立しており、 ペリ事務所もデザインアーキテクトとしてのポジションに位置しています。 日本でも最近は大手のディベロッパーさんはこうした仕事に理解を示し始めたようで、 大阪では最近サンケイホールをドイツのデザインアーキテクトが手がけたり、 六本木ヒルズもKPFがデザインアーキテクトとして入っています。

 中之島三井ビルディングの場合、 三井不動産から直接依頼を受けて仕事をした例です。 日建さんとの仕事の分担は明快に分かれてまして、 私たちと日建さんは、 お互いが対等な立場でとてもいい意味でぶつかり合うことができたプロジェクトでした。 これもおそらく、 クライアントがそれを受け入れるだけの判断能力があったからこそできたことでしょうし、 そこにもクライアントの熱意を感じることが出来ました。

 機能性とデザインのどちらを優先するかで意見がぶつかることはよくある話です。 民間のビルの場合、 クライアントとして経済性をとるかビルの公共性をとるかなど、 難しい判断を必要とすることが多くあります。 この建築の場合、 現在の技術をもってすればビルは百年以上建っている物だから、 百年先の大阪の町の風景を決定してしまうことになる、 私たちはそういう認識で提案しました。 クライアントや日建さんとのコラボレーションの成果が良い形で現れた例だと思っています。


コンセプト

 このビルのコンセプトも、 先ほどの国立国際美術館と同じく、 川と川をつなぐことを大事にしました。

 

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中之島西部地区開発計画図
 
 この建設地は、 中之島の中で堂島川と土佐堀川が一番接近している場所です。

 ここに超高層が建つことで大きな壁面が出来るわけですから、 どんな表情を都市に対して出すのかを重視して設計しました。

 また都市と建築は切っても切れない密接な関係を生み出すものです。 又、 これは民間のビルですので、 テナントをいかに埋めるか、 少しでも高いテナント料を取れるかを考えることも大事です。 都市と建築の関係をうまくデザインすることで、 建築自身の付加価値を上げてゆくことができます。 これはクライアントにとっては投資効果を上げることもできますし、 中之島の都市環境も上がっていくことにつながると私は考えています。

 

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文化・業務関連ゾーン完成予想図
 
 中之島三丁目地区は、 この鳥瞰パースのように大きく変わって行こうとしています。 三井ビルがその先陣を切る形となりましたが、 あとの関電ビルやダイビルもこの10年以内には建ち上がって来る予定です。

 
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肥後橋から見たビルの表情
 
 壁面の縦に石の柱を通すことで、 ファサードに表情を作り出しました。 3600ピッチの間隔で間柱がずっと上に上がっています。 低層部の柱は前方にぐっと突き出ています。 それが上に行くほど7段階で後方に下がるようになっていて、 上層階になるとガラス面よりも後方に柱が下がっています。 ガラス面は同じ面にあるのですが、 柱面だけが後方に下がっていくことで上に登ってゆくような軽快さと光進性が出ています。

 また、 窓から下の腰の部分(スパンドリル)は、 外から見て下の方は石です。 上層の方はガラスだけで構成しています。 これも下から上に向けて空へ抜ける表情をつくり出しています。

 それに加えてステンレスの庇、 ルーバーとタテのロッドが交さくして、 織物を編んだような表情を見せています。 これはメインテナントである東レ大阪本社のビルとしても大変好評だったデザインです。

 
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1階エントランスホール内部パース
 
 基本設計時の1階内部パースです。

 
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1階エントランスホール内部現況
 
 実際に出来上がった様子です。 1階にはスターバックスコーヒーとコンビニが入っています。 このビルが出来たことで、 南北の人の流れが増えずいぶん変わってきたように思います。 これも川と川をつなぐことが出来た一例だと思っています。 なお、 基本設計の時は光天井がもっと南面に出っ張ったもの(南とは写真の奥へですが)だったのですが、 それはさすがにテナントビルとして貸しにくくなるということで光天井は真ん中あたりで終わっています。 しかし、 その趣旨は十分達成できたと思っています。

 
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ビル東壁面のステンレス・石・ガラスの外装
 
 ステンレスに光が当たって外装が光る様子です。 下の方から上を見上げると、 柱が後方へ下がっているのが見えるかと思います。 そうすることで、 上の方へ伸びてゆく感じに仕上がりました。

 このプロジェクトで一番大きな議論になったのが、 ステンレス外装でした。 民間プロジェクトはコストを厳しく抑えるのが常識で、 外装サッシをオールステンレスで提案したところ、 技術部門から「いい素材だが、 もらい錆と埃が付きやすくメンテナンスが大変だ」と指摘されたんです。 それ以外にも、 アルミに比べたらやはりコストアップになるなど色々な課題がありました。

 しかし、 アルミだと30〜40年で劣化してしまうんです。 百年先にも残るビルということを考えると、 ステンレスの方が強い素材だと提案し、 最終的にはクライアントがステンレスでいこうと決断してくれました。

 また、 出来上がったものを見ると、 アルミとステンレスでは光り方が違うんです。 百年建築を目指したひとつの回答と言えるでしょう。

 
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ルーバーのディティール
 
 ルーバーは熱負荷を減らすために取り付けた庇なのですが、 シュミレーションでは30%以上負荷熱をカットできると出ました。 このディティールにしたのは、 大阪では滅多にないでしょうが大雪の時積もった雪が下に落ちないようにするためで、 何度も実験して形を決めました。

 また、 このロッド(棒)はみんな楕円形をしています。 超高層では風切り音の問題が発生しがちですので、 これも何度も実験した上で楕円形にしました。 楕円形に決定したきっかけが面白いものでした。 誰かが雑談の中で「新幹線のケーブルは楕円形になっている。 それが風切音を防いでいるんじゃないか」と言ったのがヒントになり、 じゃあ次の実験は楕円にしてみようとやってみたら風切り音が出なくなったんです。 もちろん実際の工事は大変なものになりましたが、 こうしてルーバーは楕円形のロッドを組み合わせたものになっています。

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